秘め事
平日の昼下がり、駅前のカフェで沙月と遥香は向かい合っていた。大きな窓から日差しが差し込み、テーブルの上に並べられたサラダやパスタがキラキラと輝いている。
「久しぶりだね、こうしてゆっくり話すのは。」
遥香が笑顔を見せながら、カフェラテのスプーンを回す。その言葉に、沙月は少し微笑みながら頷いた。
「ほんと、バーベキューの時以来だね。」
「そうだね。そういえばあの時、最後は顔色悪かったよね。ほんとに大丈夫?」遥香が心配そうに尋ねると、沙月は「あはは」と笑いながら首を振った。
「いや、あれはただ食べすぎただけだから。昔から楽しいとつい調子に乗っちゃうの、覚えてるでしょ?」
「うん、それは確かに昔からだよね。でも、ほんとにそれだけ? あの後から元気ないように見えるんだけど。」
遥香の真剣なトーンに、沙月の手が一瞬止まる。だがすぐに箸を動かし、サラダを一口食べた。
「大丈夫だって。ただ、最近は仕事が忙しくて寝不足だったからかも。」
「そっか。でも、顔色悪いよ? なんか痩せた気もするし…本当に何もない?」遥香がさらに突っ込んで聞くと、沙月は少し笑ってみせたが、その笑顔はぎこちなく、どこか不安げだった。
遥香は沙月をじっと見つめた。そして、一瞬ためらいながらも、思い切って声をかける。
「ねえ、もしかしてだけど…」
遥香の言葉が途切れる。沙月はその続きを待つように、箸を止めて視線を上げた。
その仕草にはどこか緊張がにじみ、次に来る言葉を恐れているようにも見えた。
「…病院とか行ったの?」遥香は慎重に言葉を選びながら続けた。
その言葉に、彼女は視線を下に向けたまま、小さく「うん…」と答えた。
「そっか…。それで、何か…大丈夫だったの?」
遥香は控えめに尋ねる。
沙月は一瞬口を開きかけ、『わたし、実は…』と言いかけた。
遥香が驚いたように顔を上げると、沙月は一瞬視線をそらし、「…やっぱりなんでもない。」と小さく笑って言葉を飲み込んだ。
「なら、すばるにはちゃんと伝えなさいよ?」
遥香が優しく促すように言うと、沙月は一瞬目を泳がせながら「うん、タイミング見て話すから大丈夫」と返答した。
遥香はその言葉に少し納得がいかない様子だったが、それ以上深入りするのをやめた。沙月が何かを隠しているのは明らかだったが、彼女自身が話す準備ができていないのだと感じたのだ。
「そっか…。でも、本当に無理しないでね。何かあったらちゃんと相談してよ。」
「うん、ありがとう。」
沙月はそう言いながら、そっと視線を外し、自分の胸の中で渦巻く思いを抑え込んだ。




