卒業
春の陽射しがキャンパスを包み込む中、星宮すばるたちはついに卒業の日を迎えた。袴姿の遥香が笑顔で写真を撮り、ゆうきが照れくさそうにスーツの袖を引っ張る。その隣で、すばるもまた卒業証書を握りしめ、仲間たちと笑顔を交わしていた。
「これで、全員次のステージに進むんだね。」
遥香が感慨深げに呟くと、ゆうきが軽く肩を叩いた。
「そうだな。これからが本番だ。でも、こうして一緒に頑張ってきた時間は、忘れられないよな。」
すばるはそんな二人のやりとりを静かに見つめ、微笑んだ。彼もまた、教員採用試験を突破し、ついに高校教師としての第一歩を踏み出す準備が整っていた。遥香は小学校教諭として、新天地での勤務が決まっている。ゆうきも社会福祉士として、施設勤務の内定を得ていた。
それぞれが夢に向かって羽ばたこうとしている中、沙月も予備校の専任講師として採用されることが決まった。しかし、その表情にはどこか晴れやかなものがない。卒業式後、4人で最後の写真を撮った後、沙月はそっとすばるに近寄った。
「すばるくん、おめでとう。ちゃんと教師になれるんだね。」
「ありがとう、沙月も講師としてスタートだね。これから頑張っていこう。」
すばるは彼女の言葉に感謝を込めて頷いたが、その心には一つの決意が芽生えていた。それは、沙月との関係に終止符を打つことだった。
その日の夕方、すばるは沙月をアパートに招き入れた。沙月は小さな花束を持って現れ、「卒業祝い」と言って笑顔を見せた。その笑顔が胸を締め付ける。
二人は簡単な食事を終え、リビングで穏やかな時間を過ごしていた。しかし、すばるの表情はどこか硬い。意を決して、彼は沙月に向き直った。
「沙月、話があるんだ。」
その一言で、沙月は息を飲んだ。
「どうしたの?そんな真剣な顔して……。」
「ぼくたち、別れよう。」
静かな部屋に響くその言葉。沙月の目が大きく見開かれた。
「……なんで?私、何かした?」
すばるは首を横に振った。
「そうじゃない。沙月は何も悪くない。ただ、ぼくの心が弱いんだ。このままだと、ぼくが沙月を不安にさせ続ける気がして……。」
沙月は涙を浮かべながら尋ねた。
「私、やっぱり邪魔だったのかな?」
すばるは彼女の手を取り、真剣な眼差しを向けた。
「違う。邪魔なんかじゃない。沙月が支えてくれたから、ぼくはここまで来られた。でも、松尾先生が言ったんだ。『教師というのは、子どもたちの前に立つ立派な大人でなければならない』って。今のぼくは、立派な大人なんかじゃないんだ。沙月の愛情に甘えて、自分の足で立てていない気がする。」
彼の声には自責の念が滲んでいた。
「ぼくは教師になるために、そして沙月を幸せにするために、自分を変えなきゃいけない。だから、今は一緒にいられない。」
沙月はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「分かったよ、すばるくんがそう言うなら……仕方ないよね。でも……寂しいな。」
その寂しげな微笑みに、すばるの心が軋むような痛みを感じた。それでも、彼は前を向くためにその場を立ち上がった。
「ありがとう、沙月。ぼくも沙月が幸せになれるよう祈ってる。」
部屋を後にした沙月の背中は小さく見え、すばるの胸にはぽっかりと空いた穴が残った。




