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進路と心路

 蝉の声が弱まり、秋の気配がほんの少し混ざり始めた8月の終わり。星宮すばるは大学の模擬教室で、教員採用試験の二次試験に向けた練習をしていた。


「次はすばるくんの番ね。模擬授業、準備は大丈夫?」


 遥香が笑顔で声をかける。小学校教師を目指す彼女もまた、すばると同じ試験準備に励んでいた。


「うん、大丈夫……多分。」


 すばるはノートを握りしめながら微笑むが、その目には緊張が見え隠れしている。教壇に立ち、生徒役の同級生たちを前に話し始めた彼は、しばらくしてから徐々にペースを掴み始めた。


「授業のゴールは、生徒が自分で考える力を身につけることだと思います。そのために……。」


 授業が終わると、教職を目指す友人たちが拍手を送った。


「すばるくん、よかったよ!最後のまとめ方が特に印象的だった。」


 遥香が真剣な目でフィードバックをくれる。すばるは少し照れながらも、その言葉を胸に刻んだ。


「ありがとう。これで少し自信がついたかも。」


 二次試験までの時間は限られているが、互いに助け合いながら準備を進める中で、すばるは少しずつ成長していく手応えを感じていた。


 一方、沙月は塾講師としてアルバイトを始めていた。生徒たちに教える時間は楽しいが、その一方で自分の選択に対する後悔が彼女を苛んでいた。


「白石先生、今日の授業、すごく分かりやすかったです!」


 授業後、生徒が笑顔で声をかけてきた。その瞬間、沙月は一瞬だけ自信を取り戻すが、同時に胸の奥に鈍い痛みが広がる。


(これが私の夢だったのかな?)


 休憩室に戻ると、同僚の男性講師が声をかけてきた。


「白石先生、お疲れ様。初めてにしては上手くやってるじゃないか。」


「ありがとうございます。でも、これで本当にいいのか分からなくて……。」


 その言葉に、同僚は優しく笑った。


「そんなの、誰だって最初は不安だよ。でも、生徒が喜んでるなら、それが答えじゃない?」


 その言葉に、沙月は少しだけ救われたような気がした。しかし、彼女の中にはすばるへの思いと、自分が彼にとって必要な存在でいられるのかという不安が、ますます強くなっていった。


 久しぶりに4人で集まることになったその夜、沙月、すばる、遥香、ゆうきはキャンパス近くのカフェに顔を揃えた。国家試験準備の真っ只中にいるゆうきが、息抜きを提案したのだった。


「たまにはリフレッシュも必要だろ?お前ら、最近どんな感じだ?」


 ゆうきが軽い調子で問いかけると、遥香が笑顔で応じる。


「試験準備は大変だけど、充実してるよ。すばるくんも、模擬授業の練習、頑張ってるよね。」


「まあね。まだまだ課題は多いけど……。」


 すばるが少し照れながら答えると、ゆうきがニヤリと笑った。


「お前が教壇に立ってる姿、ちょっと想像できないけどな。」


 その場が笑いに包まれる中、沙月はどこか居心地悪そうにしていた。


「沙月、塾の仕事はどう?うまくいってる?」


 遥香が優しく話を振ると、沙月は曖昧に笑いながら答えた。


「うん、まあまあかな。でも、まだ慣れないことも多くて……。」


 その表情には、明らかに自信のなさが滲んでいた。場の空気が少し静まり、ゆうきが明るく話題を変えた。


「まあ、最初はそんなもんだよ。俺も福祉施設で実習してた頃は、どうしていいか分からないことだらけだったしな。」


 その言葉に、沙月は小さく頷いたものの、その後の会話にはほとんど加わらなかった。


 その夜、沙月はすばるの部屋で彼に向き合った。


「最近、すばるくん、忙しそうだね。」


「そうだね。でも、頑張らなきゃ。」


 すばるが答えると、沙月は不安げな表情を浮かべた。


「私、すばるくんの邪魔になってないかな……。」


 すばるは一瞬驚いたように彼女を見たが、すぐに優しく微笑んだ。


「そんなことないよ。沙月は大事な存在だよ。」


 その言葉に、沙月は少し安心したように見えたが、すばるが再び勉強に向かう姿を見て、胸の奥に言葉にならない思いを抱え続けていた。


 夜が更け、沙月は一人で夜空を見上げながら呟いた。


「このままで、本当にいいのかな……。」


 星がほとんど見えない今夜の空。その暗闇が、彼女の心の中を映しているようだった。

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