共創
翌朝、星宮すばるは黒板の前に立ち、生徒たちの顔を見渡した。昨日の授業で感じた手応えと課題を胸に、今日は新たな挑戦をする決意をしていた。
「じゃあ、みんなに質問だ。この問題を解きたいんだけど、どうやったら解けると思う?」
彼はいつもなら自分で解説を始めるところを、教壇に寄りかかりながら問いかけた。そして、軽く笑いながら付け加えた。
「この黒板くんはね、正解も不正解もたくさん書かれるのが大好きなんだって。」
教室が一瞬静まり返り、その後ざわざわと小声のやり取りが始まった。すばるの心には少しの不安があった。
(うまくいくだろうか?)
すると、一人の生徒が恐る恐る手を挙げた。
「いいね、じゃあどうぞ。」
指名された生徒は黒板に向かい、ぎこちない手つきでチョークを取る。彼の手元は少し震えていたが、その真剣な表情に教室全体の視線が集まる。
「こうやるんじゃないかな……?」
書き込むその手元を見て、すばるは優しい笑みを浮かべた。
「いいね。最初の一歩を踏み出すのはすごく勇気がいることだよ。」
次の瞬間、別の生徒が手を挙げた。
「先生、僕もやってみていいですか?」
「もちろん。続き、お願い。」
次第に教室は活気づき、複数の生徒がアイデアを出し合いながら黒板に解法を書き込んでいった。誰かが間違えれば笑い声が起こり、それをクラス全員でフォローし合う。やがて正解にたどり着いたときには、自然と拍手が湧き上がった。
「これ、こんなやり方もあるんだ!」
「面白い!」
生徒たちの笑顔が教室を満たす。すばるの胸には、小さな希望が灯った。
(ぼくが一方的に教えるんじゃない。生徒たち自身が考え、動くことで学びが深まる。これがいいんだ。)
昼休み、生徒の一人がすばるの元に駆け寄ってきた。
「先生!バスケ得意なんでしょ。一緒にバスケやろうよ!」
突然の誘いに一瞬驚いたものの、すばるはすぐに笑顔で答えた。
「いいよ。どこでやる?」
体育館に向かうと、すでに何人もの生徒が準備を整えて待っていた。ボールを渡されたすばるは自然と輪の中に溶け込んだ。
「先生、1on1で勝負しよう!」
最初に名乗りを上げた生徒との対戦が始まると、周囲から熱い声援が飛ぶ。
「先生、速すぎ!」
「やばい、全然勝てない!」
汗だくになりながら生徒たちとボールを追いかけるうちに、すばるは「先生」ではなく「仲間」として彼らの中に受け入れられていく感覚を覚えた。
「次は僕も入れて!」
「いいぞ。でも手加減はしないからな。」
そう言って笑うすばるは、授業中とはまるで違うリラックスした表情を見せていた。
教育実習が中盤に差し掛かる頃、すばるの授業はさらに進化を遂げていた。
「次の問題、黒板に書いてみたい人、いる?」
すばるが問いかけると、数人の手が勢いよく上がる。その中からじゃんけんで選ばれた一人が前に出て、黒板の前に立った。
「えっと、この式を使ってこうやって解いたんだけど、どうかな?」
その説明をクラス全体が真剣に聞く。時折ミスがあれば、他の生徒が自然とフォローする。その光景に、すばるは思わず目を細めた。
(これだ……これが、ぼくが目指していた授業だ。)
生徒たちは主体的に学び、互いに教え合う喜びを感じている。それをそばで見守るすばるの胸には、暖かいものが広がった。
ある日の放課後、生徒たちからこんな提案があった。
「先生、次の授業で僕たちも教壇に立ってみたいです!」
その言葉に、すばるは驚きながらも嬉しそうに頷いた。
「いいね。それじゃあ、次回のテスト対策の授業をみんなで計画しようか。」
生徒たちは自主的に内容を準備し、得意な分野を教壇で説明する。すばるは後ろからそれを見守り、時折サポートを加えるだけだ。
「これ楽しい!」
「またやりたい!」
生徒たちの明るい声が響く中、すばるは確信した。
(教師という役職に権威はあるかもしれないけど、ぼく自身にその権威があるわけじゃない。大事なのは、生徒たちと同じ目線で関わることだ。)
その考えは、すばるの中で揺るぎない信念となった。
生徒たちとの交流を通じて、彼は「教える側」と「教えられる側」という垣根を超え、「人」と「人」として向き合うことの大切さを学んでいった。




