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干渉

 

 すばるの母親は、父親の暴力から息子を守るために、徐々に過干渉な態度を取るようになった。それは、彼女自身が絶望の中で絞り出した「唯一の方法」だったのだ。



「すばる、この服を着なさい。明るい色は目立つからダメよ。」



 母親はそう言いながら、すばるのクローゼットから地味な色の服だけを選び出す。彼が選びたがっていた鮮やかな青色のTシャツは無言で棚の奥に押し込まれた。


「どうしてこれじゃダメなの?」



 幼いすばるがそう尋ねても、母親は決してはっきりと答えなかった。


 ただ、「お父さんの機嫌を損ねないため」とも「余計な注目を集めないため」とも取れる曖昧な説明を繰り返すだけだった。





 母親の干渉は、服装だけにとどまらなかった。


 食事の時間、テレビのチャンネル、学校での行動に至るまで、彼女はすべてをコントロールしようとした。


「学校では、先生に逆らうようなことを言っちゃダメよ。とにかく大人しくしていなさい。」


「友達に何か言われても、反論しなくていいの。波風を立てるのが一番危ないから。」


 母親の声は優しげではあったが、その裏にはどこか押し付けがましい響きが混じっていた。


 すばるが「わかった」と頷けば、それだけで母親は安心したように笑顔を見せた。


 だが、その笑顔を見るたびに、すばるの心の中には「自分の意見は必要ないのだ」という感覚がじわじわと染み込んでいった。





 母親の干渉が強まるほど、すばるの自由は奪われていった。


 彼が「友達と遊びたい」と言えば、母親は「今日はやめておきなさい。家で静かにしていればお父さんも怒らないから」と答えた。


 父親が出張で家にいない日でも、「出かけると何か危ない目に遭うかもしれない」との理由で家に閉じ込められることが多かった。


 すばるが友達の家に遊びに行くことを許されるのは、事前にその家庭の親と母親が話をし、場所や時間を細かく確認した後だけだった。


「約束を守らなかったら、二度と行かせないからね。」


 母親のその言葉が頭に残り、すばるは遊びに行くたびに緊張し、楽しむ余裕すら持てなかった。





 母親の過干渉は、彼女自身の疲労を募らせていく結果にもなっていた。


 父親の暴力を防ぐために日々神経を張り詰め、息子を守るために全力を注ぐ生活は、彼女を限界まで追い詰めていたのだ。


「すばる、あなたがもっといい子でいてくれたら、お父さんも怒らないのよ。」


 そう呟いた母親の顔には、疲労と絶望の色が濃く浮かんでいた。


 すばるはそれを聞いて胸が苦しくなった。


 自分が悪い子だから、母親がこんなにも苦しんでいるのだと思わずにはいられなかった。





 母親の干渉は、いつしか彼の行動全てを縛り付けるものとなった。


 学校の宿題をする時間、遊ぶ時間、寝る時間、すべてが母親によって決められていた。


 すばるが「もう少し起きていたい」と言えば、母親は「夜更かしするとお父さんが怒るよ」と答えた。


 すばるが「友達と話したい」と言えば、「余計なことを話すと問題になるからやめなさい」と諭された。


 そんな日々の中で、すばるの心は少しずつ縮こまっていった。「自分で考えて行動する」ということが何なのか、彼は次第に分からなくなっていったのだ。





 それでも、母親の行動には確かに愛情があった。彼女は自分なりに、すばるを守るために最善を尽くしていたのだ。


 だが、その愛情の形は、すばるにとっては「自分のことを信じられない」という感覚を植え付けるものだった。


 母親の指示に従うことで、父親の怒りを回避できたとしても、そのたびにすばるは「自分では何もできない」という思いを深めていった。


「お母さんが言う通りにしていれば大丈夫だから。」

 母親は繰り返した。その言葉に、すばるは頷くしかなかった。




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