絆の芽生え
翌日、授業が終わった後、すばるは再びキャンパス内で沙月と顔を合わせた。偶然同じ方向へ向かって歩いていた二人は、自然な流れで一緒に歩くことになった。
「また会ったね、星宮くん。これって運命かもね?」沙月が微笑みながら言った。
「運命って……そんな大げさな。でも、なんだか不思議だね。」すばるは少し照れたように答えた。
キャンパス内の並木道を歩きながら、二人は再び会話を始めた。話題は大学の講義や将来の夢に移り、すばるは昨日ゆうきにからかわれたことを思い出し、少しだけ苦笑した。
「ねえ、星宮くん。高校教師になりたいって言ってたよね?」沙月が問いかける。
「うん。麻子先生みたいに、生徒の力になれる存在になりたくて。……でも、本当は怖いんだ。自分みたいな人間に、本当にそんなことができるのかって。」
「そういえば麻子先生って?」沙月が首をかしげる。
「僕の恩師なんだ。小学生の頃、辛い時期があってね。そのときにずっと支えてくれた先生。彼女がいなかったら、僕は今ここにいないかもしれない。」すばるはどこか遠くを見つめながら話した。
「だから、僕も誰かの力になりたい。きっと自分の経験を活かして、生徒に寄り添えると思うんだ。」
沙月はじっとすばるの横顔を見つめていた。彼の言葉には、自分の夢への真摯な思いと不安が入り混じっていた。
「星宮くん、本当に優しいんだね。そんな風に誰かのために頑張れるなんて、素敵だと思うよ。」
沙月の言葉に、すばるは一瞬驚いたような顔をしてから、少しだけ微笑んだ。
「ありがとう。でも、白石さんはどうして教育学部に?」
「私?私はね……正直言うと、そこまで深い理由はないの。ただ、子どもが好きだし、何か自分にもできることがあるかもしれないって思ったからかな。」
「それでも立派な理由だよ。」
「そうかな?でも、星宮くんみたいにちゃんとした目標があるの、ちょっと羨ましいかも。」
そう言って沙月は少しだけ視線を下げたが、すぐに顔を上げて笑顔を見せた。
「それより、星宮くん。今日、少し時間ある?」
「え?時間?まあ、特に予定はないけど……」
「よかった!ちょっと寄り道しない?キャンパスの裏に素敵な景色が見える場所があるんだ。私、最近見つけてね、絶対気に入ると思うよ。」
すばるは少し迷ったものの、沙月の目が輝いているのを見て、断る理由が見つからなかった。
「……うん、いいよ。案内してくれる?」
「もちろん!ついてきて!」沙月は嬉しそうにすばるの手を引いて歩き出した。
その日、沙月に連れられて訪れたキャンパス裏の高台は、緑が広がり、遠くには街並みと夕焼けが見える絶景の場所だった。
「ここ、すごいね……こんなところがあったなんて。」すばるは感嘆の声を漏らした。
「でしょ?ここ、私のお気に入りの場所なの。たまに息抜きしたいときに来るんだ。」
二人はしばらくの間、無言で景色を眺めていた。すばるは心の中で、こんな場所を教えてくれた沙月に感謝していた。そして、その瞬間、彼女の明るさや親しみやすさだけでなく、どこか繊細で思慮深い一面にも気づき始めていた。
その日の夜、すばるはベッドの中で、沙月との一日を思い返しながら、胸の中に新しい感情が芽生えるのを感じていた。それが何なのか、まだはっきりとは分からなかったが、これからの大学生活に少しだけ期待が膨らんでいた。




