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湖のほとりで

 

 図書館に行けば、少しは気が紛れるかもしれない。


 そう思って家を出た。でも、実際のところ本を読む気なんて最初からなかったのかもしれない。


 ただ、静かで誰にも話しかけられない場所が欲しかった。


 湖が見える窓際の席に座り、本を開く。


 けれど文字は頭に入らない。


 ページをめくる手だけが無意味に動く。



 それを止め、窓の外に目を向けた。光が水面に反射し、揺れている。風で木々がざわめく音が心地いい。


「ここはいいな……。誰も僕を知らないし、僕も誰にも知られなくていい。」



 本を閉じ、足を運んだ湖のほとり。誰もいないその場所で、僕はただ一人になれた気がした。



 足元に広がる湖。鏡のように空を映し、風にさざ波を立てる。ここにいると、心が静かになっていく。



「ここはアヴァロンのよう……いや、エリュシオン?」



 すばるは呟く。どこかで耳にした言葉がふと浮かんできた。苦しみから解放された人々が暮らす理想郷。死後に英雄たちが辿り着く静寂の地――そんなイメージが湖に重なった。



「ここなら、もう苦しまなくて済むのかな……」



「僕がここにいても、誰も気にしないだろうし、誰にも迷惑はかけない。」


 そんなことを考えながら、すばるはふと笑った。



 滑稽だ。自分には行くべき場所なんてない。英雄でもなく、何も成し遂げていない僕が、理想郷なんて――。


「だって、僕は自分の居場所すら壊したんだ。」




「家も、学校も、友達との関係も。全部、自分で壊してしまった。」





「僕には何もない。あるはずもない。」





 ふと気づく。やけに身体が冷たい。こんなに冷え込む場所だっただろうか?





 時間が経ったのか、それとも僕の感覚が鈍ってきたのか、わからない。






 息が苦しい。肺が痛い。

「またか……」



 心当たりはないのにまた過呼吸が起きたのだろうか。





 息ができない。



 湖のほとりで、僕はどれだけ時間を過ごしていたのだろう?自分でもよくわからない。




 目の前が歪む。






 視界が揺れて、泡のような何かが昇っていく。






 それが光を反射し、まるで星が動いているように見えた。






「こんなに綺麗な星空の中で眠れるなら、それも悪くない。」







「苦しいけれど、不思議と心地よい……」






 意識が薄れていく。その中で、湖の音と木々のざわめきだけが響いていた。









 それはまるで子守唄のようで、僕の心を静かに包み込んでいく。













「今日はもうここで眠ろう。おやすみなさい。」












 それを最後に、僕の思考はすべて消えていった。


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