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卒業の朝

 すばるは窓の外を見つめながら、静かに襟を正した。今日は卒業式。これまでの小学校生活が終わりを迎える日だ。周囲にはまだ緊張感が漂っていたが、すばるの心にはどこか穏やかな気持ちがあった。


 家を出る前、母親が優しい笑顔を向けて言った。

「立派に卒業しておいで。すばるなら、きっと中学校でも大丈夫よ。」


 その言葉に、すばるは少しだけ胸を張った。



 卒業式が始まり、校長先生の話や在校生の送る言葉が続く中で、すばるの頭の中には、これまでの出来事が次々と浮かんでいた。


「たとえ途中で転んだり、最後にゴールすることになっても、最初の一歩を踏み出した人はそれだけで素晴らしいんだよ。行動を起こすっていうのは、誰にとっても勇気のいることだから。」


 以前の担任だった麻子先生のその言葉が、すべての始まりだった。あのとき話したことが、すばるのすべてを変えた。


 暴力と怒鳴り声におびえる日々の中で、先生の言葉は確かな救いだった。

 圭吾と出会い、ミニバスに触れてかけがえのない時間を過ごした。



 その後の新しい学校で最初は緊張ばかりで、居場所を見つけるのに苦労した。知らない仲間たちの輪に入るのは怖かったし、自分だけが疎外されている気がして、孤独を感じることもあった。


 けれど、1on1でゆうきと初めて向き合ったとき、全てが変わった。あのときのクロスオーバーとシュートの感覚は、今でも鮮明に覚えている。ボールを追いかけた先に、確かに見つけたものがあった。

「ここにいてもいいんだ。」

 それは、すばるがチームの一員として認められた瞬間だった。


 その後、ゆうきとの友情はすばるの学校生活にも大きな影響を与えた。ゆうきが声をかけてくれたおかげで、学校でも新しい友達ができた。一緒に給食を食べたり、放課後に遊んだりするうちに、すばるの周りは少しずつ賑やかになっていった。


「すばる、バスケの試合見に行くよ!」

 学校の友達が応援に来てくれた日のことも、鮮明に思い出す。試合の会場で声をかけてもらったとき、すばるの胸は嬉しさでいっぱいだった。



 特に心に残っているのは、先日の大会での出来事だ。圭吾との再会、そして1点差での勝利。あの試合では、自分がチームを引っ張る役割を担った。


「すばる、頼むぞ!」

 ゆうきの声に背中を押され、最後のクロスオーバーで圭吾を抜き去った瞬間。シュートではなく、あえてゆうきにパスを送った決断は、自分が仲間を信じられるようになった証拠だと思う。


 試合後、圭吾と話したとき、彼は悔しそうに言った。

「お前、すげえプレーしてたな。でも、チームみんなで勝とうって気持ちが伝わったよ。」


 その言葉に、すばるは確信した。自分の一歩がチームの勝利を生んだのだ、と。



 ふと気づくと、卒業証書を受け取る順番が近づいていた。壇上に立つと、担任の先生が一人一人に温かい言葉を添えて証書を手渡していた。すばるの名前が呼ばれ、足を一歩前に踏み出した。


「星宮すばる。卒業おめでとう。」


 証書を受け取る瞬間、すばるは小さく深呼吸した。目の前に広がる未来に向けて、一歩踏み出す準備が整った気がした。



 式が終わり、教室に戻ると、クラスメイトたちが写真を撮ったり、メッセージカードを交換したりしていた。ゆうきが笑顔で近づいてきた。

「すばる、これからも一緒にバスケ、頑張ろうな。」


 その言葉に、すばるは力強く頷いた。

「うん。中学校でも一緒に頑張ろう。」


 友達から渡された寄せ書きを開くと、「また一緒に遊ぼう」「これからもよろしく」といった言葉が並んでいた。それを読んでいるうちに、すばるの目から涙がこぼれ落ちた。



 帰り道、母親が待つ車に乗り込みながら、すばるは静かに言った。

「僕、もっと頑張るよ。」


 母親はその言葉に驚いたようだったが、すぐに微笑んだ。

「そうね。すばるならできるわ。」


 窓の外を流れる風景を見ながら、すばるは新しい生活を思い描いた。中学校でも一歩を踏み出す勇気を忘れず、これまで積み重ねてきたものを未来につなげていく。

「一歩が変えるんだ。」


 すばるの胸には、確かな決意が宿っていた。

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