勝負の一歩
新しいクラブでの練習を続けて数カ月が経ったある日、すばるたちは地区大会に出場することになった。初戦から見事に勝利を収め、次の試合に進むことが決まった。
その日の午後、次の対戦相手チームがウォームアップをしているのを見ていたすばるの目に、見覚えのある背中が映った。
「……圭吾?」
小学校時代のチームメイト、圭吾がコートでシュート練習をしている。背筋を伸ばし、軽やかに動く姿は、変わらない圭吾そのものだった。
試合後、圭吾のチームは僅差で勝利を収めた。コートサイドで応援を終えたすばるは、思わず声をかけた。
「圭吾!」
振り返った圭吾は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「すばる!お前も出てたのかよ!」
二人は久しぶりの再会に喜び、昔話に花を咲かせた。
「次の試合、俺たちが対戦するんだ。負けないぞ!」
圭吾の言葉に、すばるは静かに拳を握りしめた。
次の日の準々決勝戦。体育館には、熱気が充満していた。
「絶対に勝とうな!」
コーチの声が響き、すばるたちは円陣を組んだ。
試合が始まると、圭吾率いるチームの速攻にすばるたちは翻弄された。圧倒的なスピードと連携に、何度もディフェンスを破られ、試合の主導権を奪われてしまう。
「もっと声を出して!」
コーチの指示に、すばるたちは気を引き締めた。ゆうきのスティールをきっかけに、すばるのチームは少しずつ流れを取り戻した。
試合は一進一退の攻防となり、会場中が熱狂する中、スコアボードは接戦を示していた。
最後の攻防。
残り時間は30秒。スコアは56対57で、すばるたちのチームが1点差で負けていた。ボールを持つすばるは、時間を見つめながらコートの中央で立ち止まった。
「最後のチャンスだ……!」
圭吾がディフェンスに立ちはだかり、鋭い目つきですばるを見据える。
「ここで止める!」
すばるは一瞬だけ視線を圭吾の右側に向け、大きく一歩を踏み出した。圭吾はその動きを読んで、素早くポジションを取る。だが、それはすばるのフェイクだった。
すばるはすぐに体を切り返し、今度は左側に踏み出した。圭吾の体が一瞬遅れた隙に、ボールを右手から左手に素早く切り替え、さらにクロスオーバーで圭吾の動きを完全に崩した。
「これだ……!」
圭吾の重心が崩れた瞬間、すばるはその隙間を突き、ゴール前へと切り込む。観客の歓声が一斉に上がる中、すばるは冷静にゆうきへとパスを送った。
「ゆうき、頼む!」
ゆうきは一瞬だけボールを構え、正確なフォームでジャンプシュートを放つ。ボールは静かに弧を描き、リングに吸い込まれた。
「決まった!」
ブザーが鳴り響き、スコアボードには58対57の数字が映し出される。会場中が歓声に包まれる中、すばるはゆうきとハイタッチを交わした。
「お前、最高だ!」
試合後、すばると圭吾はコートの隅で再会した。
「やるじゃん、すばる。」
圭吾は悔しそうにしながらも笑顔を見せた。
「お前のクロスオーバー、めちゃくちゃ効いたよ。」
「ありがとう。でも、あれは僕一人の勝利じゃない。チームみんながいてくれたからだ。」
すばるは自分の胸に広がる新しい感覚を感じていた。それは、チームで勝ち取った喜びと、一歩を踏み出す勇気が生み出した成果だった。