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78.0 『警告』


 目の前には豪華な机と椅子があった。

 その椅子には魔王が腰掛け、羽根ペンでトントンと机をノックしている。

 イタズラをして校長室に呼び出された時を思い出す。

 その後ろには大きな窓、こちらに向けて煌々と夕陽が差し込んでいる。

 

 魔王はこちらに目を向け、気だるい声を響かせる。


「どうだ? バカがどうなるか、なんとなく理解できたか?」


 少し間を置き、羽根ペンをクルクルと器用に回しながら続ける。


「庭ならアリの巣を作ってもいいけどなぁ、家ん中にまで作るなよ、駆除されるに決まってるだろう」


 聞き分けのない子供を相手するように、めんどくさそうな声色で言い聞かせてくる。

 少し気圧され目を逸らすと、周囲には白い軍服のルドミラ兵が血を流して倒れていた。



——ルドミラ兵がいるって事は……ここも半島? いや南西諸島か?



「それに悪魔達は楽しそうだったろう? 『どうせ駆除するなら洗剤かけてみようぜ』とか、その程度のノリなんだ。効率よく殺虫剤ぶっかけりゃ、二秒で終わりだあんなもん」


 相変わらずの例えの上手さに拍手を送りたくなる。

 おそらく最初からベリアルがあの技を使えば、その通りになっただろう。


「俺はなぁ、お前らにアレコレ規制するつもりは無いんだよ。遊びに来てもいいし、商売でもなんでも好きにしたらいい。ルドミラだからっつって今後もネチネチと攻撃する気はないから安心しろ」


 そう言うと下を向いて、大きな大きなため息をついた。

 そして顰めっ面をこちらに向け、ビシッと羽根ペンを突きつけたのだ。


「とにかく俺の物を奪んなっつーだけの話なんだよ! わかったかこのバカタレ共!」


 魔王からは悍ましいとか恐ろしいといった印象は感じられない。

 だが、反射的に「はいすみません!」と謝ってしまいそうになる迫力があった。


「はいすみません!」


 隣からナーコの謝罪が聞こえた。



——いや何やってんのこの子。



「わかったらこっちに来て、ちょっと窓の外を見てみろ」


 魔王が羽根ペンで背後を指すと、後ろの窓が全開し、ブワッと風が入り込む。

 机に置かれた資料がパラパラと音を立てて舞い散った。


 促されるまま窓の前まで足を運ぶ。

 魔王が座る椅子の横には、偉そうなヒゲの男が血まみれで倒れていた。

 ここの統治者か何かだろうか。

 軍服に貼られた勲章がそれを物語っている。



——死体に驚かなくなってきた俺も、きっと感覚が麻痺してしてんだろうな……。



 窓から外を見ると、地上四階程度だろうか、眼下には白い軍服のルドミラ兵が複数見られる。

 遠くには夕陽に赤く照らされた海面と、ほんのり陸地が視認できた。


 背後から魔王の声が響く。


「ここいらは南西諸島っつってな、白い砂浜の綺麗なビーチリゾートだったんだ。人は少ないが、その分のんびり過ごせる所だ」


 それを聞いて地上を伺うが、そんな痕跡は見られない。

 コンクリートのような鼠色の地面、船着場も見られるが、そこには戦艦が並んでいる。

 ルドミラ兵の周囲には、黒光りする筒状の鉄塊。

 形状からして大砲の一種だろう。

 それが何十と列をなし、いくつかが戦艦に向けて運び込まれていた。


「ここの果汁酒は美味くてな、ナツメヤシが名産だったか。栽培してる奴らはギブリスに持ってこい、高く買い取ってやろう」


 魔王はダラダラと、思い出話を始めていたが、口調からは怒りのようなものが感じ取れた。

 そこまで思い入れがあったのだろうかと、身を乗り出して周囲を伺う。

 真下を見ると、一列に並んで棒状の物を構える兵士たちの姿。

 そして。


———パァンッ———


 乾いた炸裂音を響かせた。


 これは間違いなく鉄砲だ。

 現代知識の中で、これに近い形は火縄銃。

 そしてそれは次々に鳴り響く。

 先端が炸裂し、銃声が響き、硝煙が上った。


 魔王の怒りの矛先はこれだ。

 大砲は分からないが、鉄砲だけはライン越えだと聞かされている。

 魔王とアヤネ様の生い立ちを考えれば当然だろう。


「お前らはシロアリという虫を知ってるか? 人ん家を食い荒らす害虫だ。早めに駆除すればどうにかなるが、場合によっては手遅れになる。」


 そう言って魔王は隣に立った。

 窓の淵に両手を置いて、遠くを眺め始める。

 間近で見るその横顔は、とても魔王とは思えない程に優しげに感じた。

 その視線の先を目で追うと、水平線の奥にある陸地を見ている。


「さっきの半島はまだ使えるんじゃないか? 住むなり耕すなり、好きに使えばいい。女王アリに感謝ておけよ」


 女王アリとはベロニカの事だろうか。

 また彼女を考えてしまう自分を、感情移入しすぎだと叱りつけるが、なかなか頭から離れてくれない。

 

「だがこの場所はもう手遅れだ。クサイ匂いがシミついて取れやしない。それに、あのしょーもない武器はなんだ」


 魔王がそう言って眼下を見下ろす。

 その先で爆竹のような炸裂音と共に、兵士の手元で鉄砲が暴発し始めた。

 悲鳴をあげる者たちは皆、狙ったかのように顔面が焼け爛れている。

 そして大砲が次々と炎に包まれ、船底に大穴でも空いたようにズブズブと沈んでゆく戦艦。

 その異様な現象に、パニックを起こしたシロアリたちが逃げ惑う。


「さて、お前たちはここまでだ、長い間ご苦労だったな。いつもの日常生活に戻るといい」


 直後、背後からパチパチと火花の散る音が聞こえ始めた。

 振り返ろうとした瞬間、壁の本棚がガラリと崩れ、そこから火の粉が舞い上がる。


 魔王の声は続いた。


「俺がこの地に『爪痕』を刻んでおいてやる、今日を忘れないようにしてやるんだから感謝しろよ」


 周囲が瞬く間に炎に飲まれ、既に魔王の姿すら視認できない。

 そして最後に聞こえた気だるい声は、とても乱雑な物だった。


「改めて警告だ、二度と俺の物を奪るなよお前ら。誰に迷惑かけてもいいけど、俺にだけは迷惑をかけるな! ダラダラ過ごさせろ、めんどくせーんだよ」



———プツリ———



 魔王の声はそこで途切れ、視界を暗闇が覆った。

 小さかった音量も元に戻り、ギブリス城へ帰ってきた事を実感する。



——なんか最後、めちゃくちゃ自分勝手な事言ってなかったか?


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