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6.0 『嘘つくなって言ったよね?』

「アタシ言ったッスよね? 事情聴取でウソはつくなって」



——少し空気が変わった気がする、タロットは笑顔のままだけど……



「あぁ、言われた。ウソは一切ついてないぞ」


「えっと、なにかおかしいところありましたか?」


 ニールもよくわかっていない様子だ。

 ナーコが空気に気づいて不安そうに俺たちを見渡す。


「質問に『自分の行動を全て答えろ』ってのがあるんスけど~」


 タロットは皺皺の紙に目をやって、頬杖をついた。

 あの飄々としたタロットがピリついて見える


「いや待ってくれ、『全て』って言っても細かい事までは伝えてない! 今思い返せば『樽が燃えた』って事も伝えてないかも。なんかマズかったのか?」


 俺は重箱の隅をつつくようなタロットの言い方に詰め寄った。


「アタシはそういう細かい話をしてるんじゃないんスよ、ハルタロー」



——俺じゃないのか? なんだ? ニールがなんかしたのか?



「ちょっとまってください、僕も本当にわからない……僕が着いたのは騒動の直後で……」



 そこまで来てようやく俺は気づいた。



——騒動の直後……! タイミングが良すぎたって事か……? ニールがネロズと繋がってて……コリステン商会に恩を売るために近づいた? だとすれば辻褄は合う……



「あたしは言ったッス。絶対にウソはつくな、隠すな。そうすれば責任は全てウチがもつ」


 タロットは人差し指を立てて話し始めた。



——あぁ、言った。だから俺はナーコの暴走も含めて全てを話した。でもニールは「ネロズと繋がっている」なんて言えるわけがない……。



「なんとなく察してると思うッスけど、ウチはこの国での権力が大きいッス」



——コリステン商会……ザルガス・コリステン侯爵……



「大抵の事ならアタシは庇えるッス! 特に今回みたいに命を助けてもらった場合、庇うための大義名分が出来るッス!」


 「でも、そんなアタシでも……」 と続けると、タロットの笑顔が消え、そしてニールを向いて無感情に言う。


「『ウソや隠し事』があると庇えなくなるッス」


 タロットの表情に影が落ちた。



——これ怖いんだよ……! ニール! もう謝れ! いま誠心誠意謝れ……! そしてネロズの情報もしっかり渡せ……! どうせ事情があるんだろ……!



 それを聞いた瞬間にニールの表情が変わった。

 脂汗をたらし、顔は青ざめた。

 手に持ったコップは、コーヒーがこぼれるほど震えている。

 小皿とコップが擦れてカタカタと、うるさいほど音が鳴っていた。



——人間ここまでわかりやすく震えられるのか……ネロズが怖いのか? コリステンが怖いのか?



 見ていられず、俺は恐る恐る手を上げる。


「ちょっといいかな……俺が口を挟むことじゃないかもしんないけど……」


「はいはい! いいッスよ~ハルタロー♪」


 ニッコニコになったタロットの笑顔が怖かった。

 

 でもゆっくり立ち上がって、タロットに本心を伝える。


「俺思うんだよ……ニールは脅されてるんじゃないかって……だってあんな大男に脅されたらさ……俺も逆らえなかったと思う……タロットはあんなヤツに、あそこまで逆らえるのはすごいよ……尊敬する……でもみんながみんな強いわけじゃない……俺は正直アイツと対面したとき……怖かった……」


 情けないが正直な感想だった。

 助けたいと思う以上にアイツが怖かった。


 ナーコも立ち上がった。


「わ、私も……! 私もそう思う! 自分じゃなくても人質とか……! わかんないけどニールさんにも事情があるんじゃないかな? 私も魔術なかったら……ていうか魔術あったとしても……あの男……ネロズに脅されたら逆らえないと思う……」



——そうなんだよタロット……! お前は強い……! 気持ちが強い……でもみんながみんな強いわけじゃないんだ……!


 俺とナーコは必死にニールを庇った。

 責任を問うのは事情を聞いてからでも遅くはない。


 それを聞いたタロットはというと。



「なーにを言ってんスか?」


 

 キョトンとした顔でそう言った。



◇ ◆ ◇




「アッハッハッハーッ! ニールくんがネロズと繋がってるって……! ないない絶対ないッス!! あっはッ!! あるわけないッスー! アッハッハー!」


 それはそれはもう大爆笑していた。

 椅子を傾けお腹を抱え、テーブルに足を乗せ、むせ返りながら涙を流し、ここまでの大笑いを見たのは久しぶりだ。


「え……ちがうのか……?」


 ほぼ確信していたので心から驚いた。

 ナーコも同じだろう、呆然とタロットを見ていた。


「たしかに!! たしかにッス!!! そっかー! 確かにそういう予想も出来るかもしんないッスね~!」


 涙を拭いながらタロットも一応は納得していた。



——紛らわしいんだよ!! たぶん誰でもそう思うぞ今のは!!!



 とはいえかなり空気は和んだ、ニールも少し落ち着いたようだが、表情はまだ曇ったままだった。



「えっと……じゃあニールさんは……いったい何を隠したんですか……」


 そうナーコが当然の疑問を口にした。

 タロットがナーコの頭に手を置いて 「キミのせいじゃないからね」 というように撫でた。



——怪我の話に触れる事になるんだろうな



 「事情聴取にニールくんはこう答えたッス~」とニッコリ笑いタロットは続ける。


「『タロットさんの大怪我に治癒魔術を使った』」


 『大怪我』 と言う時タロットはナーコの肩を抱き寄せた。



——あってる……! 少なくとも俺にはそう見えたぞ……



「さて、本当にそれだけッスかぁ?」


 タロットは身を乗り出し無表情でニールを覗き込んだ。

 また空気が重くなる。

 ニールは青ざめて俯き、両手でテーブルにしがみつくようにして口を開けた。


 なにか言おうとしているが言い出せない。


「……ぁ…………ハァッ………」


 口をパクパクさせて、息を切らしている。


「…………ま……ます………ますい………」



——ますい? ますいってなんだ? 麻酔……?



 ニールがぼそっと呟くとタロットが笑顔になる。


「あっは~♪ そうッス、麻酔ッス、麻酔術ッス! なーんだやっぱわかってるんじゃないッスかぁ~!」


 いつものにこやかなタロットに戻ってみせたが、空気は重かった。



——麻酔……? なにがいけない? 傷を負ったタロットの痛みを和らげたんだろう? 何がいけないんだ……



「ごめん、ちょっといいか? また見当違いなことかもしれないんだけど……」


「はい、イイッスよ~ハルくん!」


 タロットはナーコの手を握っている。



——その気遣いを、少しはニールにも分けてあげてほしい……!



「あのさ、あの時のタロットの怪我ってさ、どう見ても痛そうだったよ、痛々しかった」


「そッスね~、あれはかな~り効きましたね~!」


 タロットがナーコをくすぐって和ませている。


「麻酔って痛みを止めたってことだろ……? その傷の痛みを止めるのってさ……そんなに悪いことなのかなって……俺は思うんだけど……」


 正直な感想だ、痛そうな人の痛みを止める事の何が悪い? 少なくとも悪意は無いだろう。


「いやいやいや! ぜんっぜん! ぜんっぜん悪くないんスよ! とーっても良いことッス!」


 タロットがこちらに手を突き出している。


「じゃあなんでここまでニールは責められてるんだ……?」



——ニールはタロットの為にやったはずだ……なのになんで……



「だーかーらぁ、正直に言えばよかっただけなんスよ~」


「麻酔を使うのはいいけど、使ったのを『隠した』ことがマズイんだよね?」


 頬杖をつくタロットに、ナーコが察して口を挟んだ。


「それッス~! 麻酔術は超貴重! 使おうと思って使えるもんじゃないッス!」


 タロットがナーコを褒めるように撫でながら、こっちを向いて続ける。


「そんで麻酔にも色々あるんスよ~、患部を麻痺させるのとか眠らせるのとか。で、コイツのは痛覚を取るッス~」


「逆にニールはなんでそれを隠すんだ……すごい事じゃないか……誇れることだ……!」


 隣のニールを見ながら言った。


「ハルタローだったら、ニールくんにどんなお仕事させるッスかぁ?」


「は? そりゃ治癒術師っていうか、もっと重要な役職っていうか……」


「まー、ここは中立国だからそうかもッスけど~……」


 タロットのその言葉にニールがビクッとする。

 ガタガタ震えて、目には涙を浮かべている。



——ここは中立国……



「触覚を残したまま痛覚が消せるんスよ~? 歩ける、走れる、パンも食べれる」


 パンを齧りながら、タロットは続けてこう言った。



「そして剣も握れる」



 それを聞いたナーコが察して尋ねる。


「せ、戦争ってこと……?」


 すぐにニールが頭を抱え、髪を毟り取るほど握りしめ、震えた声を張り上げた。


「いやだッッ……!!!!!」


「おそらくニールくんは他国の脱走兵ッス~」


 タロットは毛先を指で、くるくると巻きながらそこまで言うと、ニールが声を震わせながら、諦めたように喋り始めた。

 俯いたまま、膝に手を置いて、ズボンをギュッと握っている。


「……そう…………そうです……僕は戦争に行っていました……毎日毎日、奴隷を麻酔しました。奴隷らは上官の命令で突撃していきました……痛みがないと……恐怖心が薄れるんです……どれだけ血が流れても……傷ついても……痛くないから敵陣に突っ込んでいくんです……僕のせいでそいつらは死んだ……僕が殺したようなもんだ……」


「て……転属願いとかは……」


「出したさッッ!! 何度も出した……!! でもそのたびに却下された……! 待遇と報酬を釣り上げられて……それが狙いの転属願いと思われた! どれだけ説得してもダメだった! 食い下がると敵国のスパイを疑われた……!!」


 声を震わせながら、感情を表に出して、涙を流しながら答えた。

 そして、ニールは縋るように質問をする。


「今日……もし僕が正直に答えていたら……どうなっていましたか……?」


 その問いにタロットは笑みを消して、自分を取り繕わない口調で返す。


「解放された、お前の国からこの国に籍を移せた。ウチが身元引受人になれた。アタシの恩人としてお抱えの奴隷になれた。今日のお前の行動は誠心誠意アタシを思っての行動だったと感じた。アタシは恩を仇で返すようなことはしたくない。アタシを助けたことを後悔させたくない。だから『絶対に隠し事をするな』と警告をした。そうすれば『全てウチが責任を取る』とも言った。それをお前は信じなかった、それだけッス」


 するとニールは床に座り込んで、命乞いをするように声を上げ始めた。


「今からッッ!!! 今からどうにか……なんでもする……なんでもします……どうにかできませんか……お願いします……お願い……」


「もう嘘ついちゃったからムリッスよ~、事情聴取が分水嶺ッス~!」


「そんな……! そんなッッッ!!!!」


 ニールは心から後悔しているように見えた、嘘をついたこと、そして今日助けたことまで。


「麻酔術を使ったことを言えば、今日は間違いなく拘束されたッス! これは間違いないッス! 即刻身元を隅々まで取り調べられ、数日後には強制送還が待ってるッス」


 タロットから「強制送還」と聞いてニールが嗚咽を漏らすが、構わずタロットは続ける。


「だからあたしは『必ずウチまで連れてこい』って衛兵に念を押したッス。言った言わないにならないよう、たくさんの野次馬の前で、たくさんの衛兵に囲まれているタイミングで、できるだけ大きな声で言ったッス」



——言ってた、確かに言ってた、そんなタロットに対して、俺はワガママを言ってるとすら思った……



「だから今日ウチに来たのがハルタローだけだったなら……」


「だったなら……?」


 ニールは悲壮感に溢れた顔をタロットに向けてそう聞くと。


「あたしがブチ切れる口実が出来たッス」

 


——大義名分か。



「今日のあの場面、誰がどう見てもニールくんはあたしの恩人ッス。どんな理由があろうと連れてこないなんて許さないッス。父様も巻き込んで抗議、直談判。脱走兵だろうと知ったこっちゃない、そんなのアタシには関係ないッス」


「でも俺とニールが来てしまった」


「そうなんスよ~……」


 タロットは残念そうに椅子を傾けてユラユラしている。


「こうなるともうお手上げッス。衛兵は約束を守った。ニールくんは虚偽報告。残ったのはその調書。庇う理由が足りないッス、ただの侯爵令嬢のワガママ。下手したらこっちまでスパイを疑われるッス、もうムリッス~!」


 両手を広げて調書をばら撒いた。


「なんでこんな話をわざわざ……! こんな話をしなければ……僕は明日からも貸奴隷として平穏に……!」


 逆恨みともとれる言葉をニールが口にした。


「それはアタシにも虚偽報告をしろって事ッスか?」


 タロットから笑みが消えてニールを見下すように睨みつけた。

 ニールはビクッと身震いして目線を逸らし床を見る。


「麻酔されたのに『されてない』と、痛くなかったのに『痛かった』と、そう報告しろって事ッスか?」


「タロットにも事情聴取があるから、ここで話さなくてもいずれバレるのか」


 そうやってタロットの言葉の意味を解釈した。


「そうッス~! 今日正直に言ってれば、アタシは『恩』を理由にムリが通せたんスよ~! 善悪の境にいるニールくんを、無理やりこっちに引っ張って来れたッス、でももう完全にライン越えッスよ~!」


 タロットがテーブルに突っ伏した。


「ぁあ……ごめ……なさい……嘘つきました……もういやだ……あんな場所もう行きたくない……!」


 ニールは優しい。

 ただ貴重な素質を持っていただけだ。

 戦争が無ければニールの素質は間違いなく、誰からも重宝されるものになっただろう。

 人々から感謝される存在になったはずだ。


 

——どうにもならないのか? ニールは戦争に行くしかないのか?



「今の話ってさ……」


「へ? なんスかぁ?」


俺が話し始めようとすると、タロットは相変わらず椅子を揺らしながらこちらを見た。


「今の話って、ニールとタロットの話だろ? そこに俺の存在は無かったと思うんだよ」


「いやいやぁ、さすがにハルタロー巻き込めないじゃないッスかぁ~」


「あるのか? 俺に出来ることならなんでもする。俺が協力すればニールは強制送還されずに済むのか? ニールはきっと人々から感謝される筈の存在だ」


「処分がどうなるかなんて知らないッスよ~! てゆーかねハルタロー、一時の感情に流されちゃダメッスよこういうのは~! それは自分を犠牲にしてまでする事ッスかぁ? ナコちゃんも止めてほしいッス~!」

 

 俺の言葉に呆れるタロットが横目でナーコにパスした。


「あはは~……てゆーか、協力するなら私じゃないかな~……? タロットちゃんの大怪我が原因っていうなら……そもそも私が原因っていうか……私もできる事ならなんでもするから……もしなにかあるなら……」


 ナーコもそうやってニールに協力することを決めた瞬間。


「あーッッッ!!!!!!」


 突然タロットが大きな声をあげた。

 そしてニコニコしながら俺達3人を指でさして見渡してこう言った。



「いまので全員が 『なんでもする』 って言ったッス~♪」



 タロットは裏のありそうな悪~い笑顔をしている。

 俺たち3人はそれをポカーンと眺める事しか出来なかった。



——お前さぁ……




◇ ◆ ◇




「お前さぁ……回りくどいんだよ!」


「だって全部ホントの事ッスもーん! 正直に言ってたら、マジで解放されてたッス~!!!」


 文句をつける俺に飄々と反抗してくるタロット。

 とりあえず重苦しい空気からは解放された。

 ニールも落ち着いて席についている。


「それで……その……さすがにお二人にまでムリはさせたくないです……ボクの問題っていうのもそうですが……例えば代わりに処刑とかであるなら……そんな事はさせたくない」



——それはそうだ、代わりに死ねって言われても、そこまで極端な事は許容出来ない。



「さすがにそこまでではないッスけど~……んーっと……とりあえずニールくんには今日のことを聞きたい

ッス!」


「あぁ、それなら本当に偶然通りかかって……」


 ニールが話し始めようとすると「聞きたいのはそうじゃない」とタロットが手で制止して続けた。


「そうじゃなくてぇ!! なーんでアタシの事助けちゃったんスかぁ!! てゆーかなんで麻酔使っちゃったんスかぁ!! バレるに決まってんじゃないッスかぁ!! バカッスかアンタはぁ!! もぉ!!!」


 立ち上がってニールを叱りつけるタロット。

 ニールは少しナーコをちらっと見てから「すみません」と目配せして話し始める。


「あの時のタロットさんは、見ていられない程の大怪我でした。おそらくあと数ミリで骨に到達するほど肉が開いていた。とてもじゃないが痛々しかった。これに嘘偽りはありません。おそらくこれを、聴取の際に話せば良かったんでしょうね、今はそれを後悔しています」


「後悔より反省ッス~!」


「そうですね、本当にそのとおりです」


「そんで? バレるリスクは考えなかったんスかぁ?」


 頬杖をついて、指でテーブルをトントンしながらニールを見やる。

 するとニールは言いづらそうに、こちらをチラチラ見ながら「それは……」と話し始めた。



——なんだなんだ?



「それに正直に答えるには……タロットさんへの侮辱になってしまうかもしれないんですが……」


「へ? なんスか? あたし侮辱されるんスか?」


 ニールは「今は一切そんなことは思っていない」と前置きをしてから。


「実は酒場でたまに見かけていたんです……タロットさんのことは……だからその……」


 チラチラ俺を見てくる「察してくれ」と言わんばかりのニール。


「あーなるほど! タロットならバカっぽいからバレるわけないと!」


「ちょっとハルタロー! アタシは真剣に聞いてるんスけど~!」


 閃いたように手をぽんとやる俺を、タロットがテーブルに乗り出して叱りつけてくる。


「そんで? 酒場で見かけてたからなんスか?」


 タロットは改めてニールに聞き返す。



——いや、たぶん俺の言った事であってるぞ……?



「いや……そのなんというか……今ハルタくんが言ってくれた通りで……」

 

 目をそらし、頭をかきながらニールは答えた。

 俺とナーコを交互に見て助けを求めている。


「アッハハハハ! そうだよね! 酒場のタロットちゃん見たらそう思っちゃうよね~!」


 ナーコが爆笑しながらタロットの肩を叩いた。


「ちょーっとちょっとナコちゃんまで……! え? ウソっすよね? 3人ともアタシの事バカだと思ってたって事ッスかぁ?」


 タロットが納得いかないように3人を順番に見やった。


「なんでッスかぁ!! もぉ!!」


 悔しそうに声をあげるタロット。

 それを見て爆笑する俺とナーコ。

 苦笑いしているニール。


 そして、ニールはすぐに真剣な眼差しでタロットを見つめてこう言った。


「でも今はそんな事、微塵も思っていない。貴女はとても聡明だ、非礼を詫びさせてください」


「ふーーん……それならイイッスけど〜……」


 タロットは照れ臭そうにブー垂れて頬杖をついていた。



——なんだよ、この4人でいるの楽しいじゃん。



 この時にそう思ってしまった事を、今では後悔している。



◇ ◆ ◇



 俺は改めて、タロットの企みを聞いた。


「そんで? 何をどうすればいいんだよ?」


 そしてタロットは悪い笑顔でこう答える。


「そりゃ『魔王討伐』ッスよ~」


 3人とも同じ反応、キョトンとしてタロットを見た。



 タロットはテーブルに乗り出し、眉を潜めて始めた。


「いいッスか? 『魔王討伐』を名目にすればかなりの確率で三人を、ウチの奴隷として迎えられるッス」


「根拠……とかは聞いても……?」


「それは信じてもらうしかないッスね~」


「わかりました、今度は完全にタロットさんを信じます」


「あっは~♪ さっそく反省を活かせて偉いッスね~!」


 ニールが少し笑みを浮かべて頭を下げ、タロットは調書をポイっとゴミ箱に捨てた。

 でもそんなやり取りもどうでもよくなる言葉があった。



——タロットの奴隷……!!



 ナーコが嬉しそうに涙ぐませてこっちを見て笑っている。

 当たり前だ、昨日のあの酒場は、理想の異世界ファンタジーだった。

 そして『魔王討伐』という単語まで飛び込んできた!

 やっと始まった。

 やっと。



「ただし『なんでもする』、これは言葉通りなんでもしてもらうッス! そして命の危険もあるッス! マジで死ぬかもしんないッス!」



「まぁ俺はいいぜ! ぶっちゃけこう言う展開は願ってたぐらいだ!」


「私も! ぜったいこっちのが楽しいもん!」


「ボクはもちろんです、あの国に戻るくらいなら死んだほうがマシです」


 三人気持ちは一つだった。

 タロットは「注意点があるっス」と言いながら人差し指を立てる。


「ウチでは売奴隷として迎えることになるッス! 『お前の物はアタシの物、アタシの物はアタシの物』になるッス! つまり『所有物』ッス」



——どこのジャイアニズムだよ……!



 そう言うとタロットは、ナーコの小ぶりな胸を鷲掴みにした。


「ちょ、ちょっとタロットちゃん……?」


 『所有物』は文句も言えずに、顔を赤らめてタロットを見た。

 タロットはその目を無視して、所有物の胸を揉みしだきながら続ける。



——タロットさん、今だけその役割変わってくれませんか?



「ていうかここまで来てあれだけどさぁ、俺って役に立つのか?」


「あっは~♪ 立ちます立ちます~! 肉壁ッスよ肉壁~!」


 タロットは俺の腕をパンチする素振りを見せた。


「おいおい冗談だよなぁ……?」


 ナーコとニールも苦笑いしている。



——え、ほんとに冗談だよね???



 タロットは、ナーコと自分の胸をもみ比べながら話を再開する。



——やめてやれって、お前のがデカいんだよ!



「でも正直言うと、ナコちゃんにはオススメしないッス」


「え……どうして……?」


 不安がるナーコにタロットは淡々と説明し始める。 


「ナコちゃん自身に、メリットが無いからッスよ。ニールくんは身元引受人がほしい、ハルタローは大部屋から抜け出したい。でもナコちゃんは上位、このままでも高待遇でリーベンが面倒見るッス。借金も無いのに、ウチの売奴隷になるのも意味わかんないッス、このちっこい胸を好き放題にされるだけッス」


 タロットは言い終えると、ちっこい胸をムニュっと潰してみせた。



——ちっこいって言ってやるなって!



 それでもナーコは笑顔でため息をつくと。


「大丈夫! 全部タロットちゃんにあげるよー!」


 そう言って抱きついた。



——なんかちょっとあれだ……百合だ……!



「あっは~♪ 儲かったッスね~!」


 タロットはそう言ってちっこい胸に顔をグリグリと埋めた。



 一通りの予定が確認できると、タロットは身支度を始めた。

 白の背中の開いたノースリーブと、黒のミニスカートに着替え、肩から垂らす金髪のサイドテール。

 ミニスカートを履いてから、ショートパンツを脱ぐ姿は、全員がドキッとしただろう。

 もちろん俺もだ、鼻血が出るかと思った。



◇ ◆ ◇



 タロットは膝上までのブーツをぐいぐい履きながら言う。


「アタシはこれからリーベンとこ行って、ハルタローとナコちゃんの話をつけてくるッス、いい子で待ってるんスよ〜?」


「あぁ、大丈夫か? 文句つけられたりとか……足元見られたりとか……」


「縁が出来たから大丈夫ッスよ〜! それに『無し人』と『ペタンコ』なんか、ちょっとお金積めばすぐに手放すッス〜」


「あはは……ペタンコ……」


 タロットの言葉にペタンコが苦笑いした。



——縁……そういえば「縁があったらまた」とか言ってたな……そーゆーことか。



 和やかな空気を伺いながら、ニールが不安げな表情を浮かべて口を開く。


「ぼ、僕はどうしたら……? 僕も明日はリーベンさんから依頼をもらっていて……」


「ニールくんの依頼は、間違いなく無しになるから大丈夫ッスよ〜」


「そ、そうなんですか……? わ、わかりました、信じます」


 

——もうニールはタロットの言葉を裏切らないだろう



「そんでニールくん、今日からウチの口利きでお城に泊めてもらえるッス! 数日はそこでゆっくりしててほしいッス〜」


「お……お城にですか……? どこまでのチカラをコリステン家はお持ちなのですか……」


「いやいや〜、これについてはニールくんのチカラッスよ~♪ 父様〜、ニールくんのことお願いするッス〜!」


 こうして、ニールはザルガス侯爵に連れられて城まで行くと、城の牢屋にぶち込まれたのだった。



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