53.0 『魔王討伐・作戦会議』
「なるほどッスね~、いや……ぜんっぜん有りッスね……! 少なくとも誰も出来てないッス」
タロットが酒をグビッと飲み干しながら、俺の案に感嘆の声を溢してくれた。
これは俺も嬉しかったが、現実的でない事は分かっていた。
「ただ物凄く難しいッスね~……八百長するしか方法が無さそうッス……」
タロットが真剣な面持ちで、つまみの干し肉を齧りながら、思案を巡らせる。
「そうなんだよ、しかもそれを一回でもすると……常に意識させちゃうっつーかさ……」
「そうッスけど~、でもガチでやったら悪魔全員で束になっても勝てないッス」
『最強の魔王』という言葉を聞いてから、俺はずっと考えていた。
魔王はおそらく、この世界で一度も負けた事が無い。
つまりショック療法。
この世界をアヤネ様が作ったのであれば、『最強の魔王』が負ける事で、何かしらの変化を期待する作戦だ。
「それに思惑がどうあれ……アヤネ様の前で戦うとか……たぶんマジで殺されるよな俺達……」
「間違いないッスね、『小さき鍵』の存続すら危うくなるレベルッス」
タロットも本当に有り得る案だと思ってくれているんだろう。
真剣な面持ちで、どうにか方法が無いか探っている。
「アヤネちゃんの前じゃなければどうかな? 広場とかあればそこでほら、試合みたいな感じにするとか! 特訓の一部として許可してもらうみたいな!」
おそらくこの手段しかないだろう。
だが『そもそも勝てない』という、最大の壁が残されていた。
「ナコちゃんの案にするしか無いッスね。でも、アヤネ様には観てもらいたいッス、これはソロモン様が許可すれば行けると思うッス」
「なるほどな……試合形式であれば、アヤネ様に観せることも許可されるのか! あとは勝つ方法……」
ここに来て、当初の体裁だった『魔王討伐』作戦会議だ。
とはいえ魔王に勝つ方法なんてそもそもあるのか?
ナーコが今日の話を思い出し、人差し指を立てて提案する。
「さっき街で話してた条件次第でも難しいの? 魔術なしでフルカスさんに任せるとか」
タロットはそれに顔を顰めながらナーコを見て言う。
「アタシはその試合をむかーし観た事があるッス、魔術もマナも無しの試合稽古ッス……」
「王様って足悪いんだろ!?」
タロットが記憶を辿るように、剣を振る真似をした。
「フルカスは全速力で斬り掛かったッス。でもソロモン様はそれを、片足だけで身を屈めて躱したんス。そのあと、杖の先でちょこっとフルカスのお腹つついて終わり」
タロットはそう言って俺の脇腹を小突いた。
開いた口が塞がらなかった。
——なにが『お前が本気になればひとたまりもない』だよ……。
コリステン邸で興奮した俺に、魔王が言った言葉を思い出した。
そして率直な感想を言うのだ。
「バケモンだろ……」
「ちょっと想像を越えてたねぇ……」
呆気にとられたが、俺はすぐに別の提案をするのだ。
「な、なんにも無しのベリトならどうだ?」
「それはベリトが趣味で毎日やってるッスね〜、ソロモン様が鬱陶しがるレベルで絡んでるッス、そんで毎回論破されて終わり」
あのベリトの感じだとそうなんだろうな。
鬱陶しがっているというのも想像がついた。
次はナーコが街の会話を思い出して、タロットに再度尋ねる。
「男が相手なら最強って女の人、いなかったかな?」
それを聞いてもタロットの悔しそうな表情は、消えずに答える。
「アスモデウスは男を欲情させて、操ったり制圧したり殺したりするんスけど……そもそもアスモデウスがソロモン様に惚れてるッス」
あまりにも恐ろしいアスモデウスの能力に身震いした。
タロットがそれだったら俺は今頃操り人形だろう。
「そもそも悪魔の誰かが、王様相手に善戦した事ってあるのか?」
「さっきのフルカスがそうッス。ソロモン様が躱す動作をとったそれ、一番の善戦ッス」
『最強の魔王』の余りの強さを聞かされ、これ以上の妙案は浮かばなかった。
「どうしろっつーんだよ~!!!」
「やっぱ八百長ッスね~、ソロモン様に話してわざと負けてもらうしかなさそうッス~!」
俺とタロットは、両手を広げ、畳にドサッと仰向けになる。
八百長で決定しかけたその時、ナーコから一つ提案が上がった。
「私たち三人がグルになるのはどうかな?」
「はぁ? 聞いてたッスかぁ? 悪魔全員でも無理なんスよそもそも!」
タロットがナーコを向いて寝転び、干し肉を頬張りながらそう苦言を呈すが。
「戦わなくていいんだよ、とにかくズルして勝っちゃおうよ! つまりさぁ……」
ナーコが笑顔で言った案は採用となった。
そこに現代知識を取り入れ、俺たちは寝る間も惜しんで、『魔王討伐』準備に励んだ。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
良ければ★評価、感想をいただけると励みになります。




