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44.0 『悪魔と人間』


 ナーコを呼ぶため玉座の間に着くと、目を疑うような光景に遭遇した。


 壁や天井、大扉は綺麗に修復されていた。

 ただ何百本もの蝋燭はそのまま、きっとベリトが気に入っているんだろう。

 魔王が褒めた事も影響しているのかもしれない。


 そんな事よりその中央、玉座に座る者とそれに平伏する者の姿がある。


 

 それは見事な土下座だった。



 両手を床につけ背を屈め、ひれ伏して許しを乞うナーコ。

 玉座では頬杖をつき、それを見下ろしながら溜息をつくベリト。

 『この場で何かがあった』そう思わざるを得ない光景だった。


 俺が真っ先に声をあげる。


「お、おいッ……! なんもしないんじゃ……!」


 その声を聞いてベリトはチラリと俺を見るが、すぐナーコに視線を戻し、笑みすら浮かべない。

 魔王がカチッと杖をついてから、気だるげに呟く。


「なんだこの状況は」


 ナーコが魔王に対して、顔もあげずその問いに返す。


「止めないでください、これは私とベリトさんの問題です」


 これに小さく溜息をついた魔王が、次は玉座に向けて問いかける。


「おいベリト、どういう事か説明しろ」


 それを聞いたベリトは悪びれない様子で魔王に言う。


「いやァ、いい所に来てくれた王様ァ、聞いてくれよォ、この女ヒドイんだぜェ?」


 ベリトは両手を広げ、あくまで自分が被害者だと主張している。

 俺たちはそれを聞いてナーコまで歩み寄る。


 そこで魔王が深く溜息をついて、頭をぼりぼりと掻いてから問う。


「ベリト、なにがあったか言ってみろ、俺が判断する」


 するとベリトは玉座から下りて言う。


「それは助かるなァ、ならボクから話させてもらおうかァ。いいよなァ、ヘンミカナコォ」


「もちろんです」


 俺たちが土下座ナーコの前まで来ると、ベリトは経緯を語り始める。


「ほらァ、ボクがここでアスタロトに殺されかけたのはさァ、王様なら既に知ってるだろォ?」


 ベリトは玉座を指差した。

 タロットがナーコの足の怪我を見てブチ切れて、遠距離からベリトの首を締め上げた時の事だ。


「お前がコイツに怪我をさせてタロットを怒らせただけだろう。それがなんだ」


 魔王のその言葉を聞くと、ベリトは嬉しそうに言う。


「そう、それだよ王様ァ! でもボクはあの時、殺されかけながら思ったんだよォ。『あれ、ボクこんな傷つけたっけなァ?』ってさァ」


 それを聞いた瞬間、ナーコがビクッと震えた。

 ベリトはそれを見下ろし、すぐに魔王を向いた。


「この女と戦った時はさァ、マナを使うコイツを正面から吹き飛ばしたんだァ。だからもし怪我をするならァ、手か尻、背中あたりだと思うんだよなァ」


 ベリトが多重バリアを爆破させた時だろう。

 そしてベリトは更に続ける。


「でもさァ、足の怪我もボクかもしれなィんだァ。『このくらい怪我でもなんでもない』って思っているのは事実だからさァ」


 そう言って、ナーコの足に巻かれている包帯を指した。

 そしてベリトは締め付けられた首をさすり。


「それにアスタロトがここまで怒るなら、何か確信があるのかもしれない。だからきっと原因はボクなんだろォなァ……くらいの心持ちで殺されかけていたわけだァ」


 ベリトは大扉の方向を遠い目で見つめてから続ける。


「アスタロトも相手がフルカスだろォ? 誰かを気遣う余裕なんてなィ……全員が戦いの最中だァ、だからボクが甘んじてェ、この理不尽かもしれない罪を背負おうと思っていたんだよォ」


 魔王は何が言いたいのか既に分かったように、呆れた顔でナーコを見下ろし始めた。

 そしてベリトは人差し指を立て、何かを閃いたそぶりをして続ける。


「ところがだァ、ボクはヘンミカナコの洞察力を見て思ったのさァ、『ひょっとしてこの女ァ……覚えているんじゃなィかァ?』ってさァ」


 そう言ってナーコを見下ろすと、土下座のまま、床に汗を垂らしているのがわかる。

 そのままナーコを見下すような表情で続ける。


「それでさっき聞いてみたんだよォ……『この傷は誰にやられたか覚えているか?』ってなァ。そしたらこの女ァ、なんて言ったと思うよォ」


 そしてベリトは魔王を向いて、ナーコの言葉を一言一句漏れなく復唱するのだ。


『タロットちゃんに蹴り飛ばされて出来た傷という事は分かっていました。でも、あの空気でそんな事言えないじゃないですか? だからベリトさんにやられた事にして、この場を押し切ろうと思いました』


 ベリトは少し間を置くと、魔王に目をやって肩を竦めた。

 

「これってさァ、ボクが悪い所ォ、一個でもあったかなァ?」


 ベリトは呆れ顔で被害者を主張している。

 そこまで聞いて、魔王がようやく口を開く。


「おいヘタクソ」


 その声に土下座のまま、身体をビクッとさせて返事をする。


「は、はいぃ……」


 ナーコの汗が滴る。

 そして魔王の審判をくだる。


「どう考えてもお前が悪い、もうしばらくそうしていろ」


 土下座ナーコがこちらを向き、苦笑いで返事をする。


「で、ですよね~……あはは……」


 ベリトはそれを聞くと、すぐにナーコを指差し声を上げる。


「ほォら見ろォ! お前がすぐに言えばボクァあんな目に遭わずに済んだんだよォ!」


「だ、だからこうして謝っているじゃないですか!」


「よッくそんな言い方が出来るなァ! 本ッ気で死を覚悟したんだぞボクァ!」


「だ、だって……! あそこで言ったら、タロットちゃんが恥かいちゃうんですよ!?」


「かけばいいだろォ恥くらい! そもそも間違ってんだからさァ!」


 そんなやり取りを聞いて魔王がめんどくさそうに呟く。


「うるっさいのが増えたなぁ」



——ウチのナーコが迷惑かけてすみません!!




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