2.5 『タロットの焦り』
奴隷商タロット・コリステンは焦っていた。
これまで与えられた仕事は完璧にこなしてきた。
意図を汲み取り、気を利かせ、期待以上の成果をあげてきた。
そんなタロットが今、心の底から焦っていた。
(なぜわからなかった……! なぜ気づかなかった……! こんな事は一度も起こらなかった……! なぜまた怠惰に過ごした……! アタシならできた……! 気を抜いた……! どうせこんな事は無いだろうと高をくくった……! アタシのミスだ……! アタシの過失だ……! アタシの不手際だ……!)
思考を加速させ、自分を非難し、最善策を探って歩いた。
(まだ大丈夫……! まだ間に合う……! 不始末を糧にしろ……! これが最善だったのだと……! 失敗を成功に繋げろ……! この失態によってしか起こり得ない特大の成果に繋げろ……! アタシなら出来る……! アタシなら巻き返せる……!)
扉の前でタロットは立ち止った。
汗を拭い、呼吸を整え、震える脚を叩いた。
大きく深呼吸をして、満点の笑顔を作った。
(目標はここにいる……! 恩を売れ……! 縁を作れ……! 依存させろ……! アタシを必要な存在だと思わせろ……!)
そして、酒場の扉を力いっぱい開けた。
「どもーッッ!! おっつかれさまでーーーーッスぅ!!」
静寂した空気に、タロットの声が響き渡った。