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33.0 『VS魔王』


 とにかくタロットの無事を信じて、戦いに目をそらして、必死に走り、階段を駆け下りた。


 すると今までよりも大きな扉が目に入った。

 木製の観音開きは同じだが、彫りが全面に入り、円形と格子を合わせたような彫金がびっしりと施されている。



——魔王



 たぶんココが俺たちの目的地だ。

 そしてその目的は討伐ではない。

 お願いしに来ただけ。

 和解をすること。

 更にもう一つ、俺たちには目的ができた。


 『タロットを救ってもらうこと』


 そんな思いを察したかのように、ナーコが俺たちに向かって言う。


「私は……国とタロットちゃんの二択になったら……迷わずタロットちゃんを選ぶよ?」


 それを聞くと、俺はナーコの頭を小突いて言う。


「当たり前のこといちいち言わなくていいんだよ!」


 ニールも優しく笑ってナーコを見た。


「全員が同じ気持ちです、大丈夫、行きましょう」


 三人で重い扉を力いっぱい押して、ギィッという軋み音と共に魔王が姿を現すこととなる。



◇ ◆ ◇



 扉を開くと、すぐに真っ青な絨毯が目に入った。

 それは前に前にと続いている。

 床が木製になっており、足を踏み入れると軋み音が鳴った。

 その部屋全体を覆うように、何百本かと思えるほどの蝋燭に火が灯っている。

 今までの禍々しい紫の炎ではなく、見慣れた橙色から白、黄色にかけて揺らぎのある炎、それが全ての蝋燭に灯っている。

 右の奥には片開きの扉。

 そして、絨毯の先には玉座があった。


 そしてそこには一人の男が足を組んで座っている。


 黒い髪をオールバックにして、こめかみからは捻れた大きなツノが二本生えている。

 左側のツノには金の王冠が掛かっており、片手でそれをクルッと回した。


 上半身には禍々しい蝙蝠を模した紋様が刻まれている。

 細身に見えるが、恐ろしいほどの筋肉で覆われていた。

 下半身には赤に金色の装飾が施されたサルエル風のズボン。

 そして背中からは膜の張った真っ黒い翼が生えている。


 切れ長の鋭い瞳に高い鼻、俺たちを見下すように薄ら笑いを浮かべる口。

 その整った顔を支える太い首。


 両隣にはメイドだろうか、黒に白いレース、短めのタイトなスカート。

 金髪のロングヘア、そして同じ顔をした女性が立っている。


 玉座というよりも教会のようなその部屋、そして雄々しく優雅で、禍々しいオーラを放つ魔王の姿。



 呆気にとられていると、横のナーコが一歩前に出て口を開く。


「魔王さんでしょうか、私はヘンミ・カナコです。戦いに来たのでは……」


「やァ、ハルタロゥ。久しぶりだなァ」


 ナーコの話には耳を貸さず、魔王から太く厭らしい声で俺の名が響いた。

 すぐにナーコとニールが俺を振り向く。

 俺もなぜ名前を呼ばれたのか分からず、一歩遅れて口を開く。


「は……? なんで俺の名前……」


 そう言いながら左腰の焼灼刀に手をかけて、身をかがませた。

 そして魔王が両手を広げて語りかける。


「あれェ、忘れちまったのかァ? あんなにお喋りしたじゃなィかァ」

 

「し……知らない……何を言ってる……?」


 すると手を顔に充てがって言う。


「あーあァ、悲しィねェ。まァいいさァ、ボクも自己紹介したィと思ってたんだァ、すまなィ忘れていてねェ。ボクはバルベリト、ソロモン七十二柱の悪魔公爵・バルベリトだァ」

 

 足を組み変えながらそう名乗った。

 俺は何も言えず、ただ名前を復唱した。 


「バル……ベリト……」


「気軽にベリトって呼んでくれたら嬉しィなァ。さァてェ、ハルタロゥとォ……ヘンミカナコだったかァ?」


「あ、あぁ……」


「そうです……」


 ベリトの問いに俺、ナーコと続けて肯定した。

 そして呆気にとられていたニールもようやく口を開く。


「ぼ、僕はニール・ラフェッ……」


「てめェは口が臭ェんだよォ」


 ニールの名を遮り、ベリトが指を向けてそう呟くと、俺の首筋に生暖かい液体が飛び散り、ニールから断末魔のような声が響く。


「あ゛アああ゛ァああッッッ!!! み゛ミ゛ィィ……耳が……あぁ……ッッッ!!!!!」


 すぐに振り向くと、歯を食いしばり、悲痛な表情で左耳を押さえていた。

 その耳からは真っ赤な血が吹き出し、足元には肉片が飛び散っている。


「な……ッッ!! 何したッッ……!!!」


 それを見てすぐ、二人で腰を屈め、俺は焼灼刀を抜いてベリトに向けた。


「おィおィ、なァにを怒っているんだァ?」


 ベリトは白々しく薄ら笑いを浮かべ、ツノにかかった王冠に手をやってクルッと回した。


「こ……これは……お前がやったんじゃないのか……!?」


 どう見てもベリトがやったとしか思えない瞬間の出来事だった。

 ニールは未だうめき声をあげて、地に伏して耳を押さえている。


「ボクに決まってるさァ、ノックも無しに入って来たんだぜェ? 誰だって警戒するだろォ」


「ふざけん……ッ!!!」


 「ふざけんな」と言おうとしたが、ナーコの手にこの言葉を制止された。

 ナーコはゆっくりと前に歩き、落ち着いた口調でベリトに語りかける。


「ノックをしなかった事を謝らせてください、ごめんなさい」


 そう言って、ナーコは深々とベリトに頭を下げた。


「へェ……イイねェ……」


 ベリトはその姿に舌なめずりをして呟くと、再度ニールに指を向けた。

 嫌な予感がしてすぐに振り返ったが、それは杞憂に終わり、ニールの耳の傷が塞がった。

 耳が再生したわけではなく、ただ傷が塞がっていた。

 

 その耳を見て、ナーコが再度頭を下げて礼を言う。


「ありがとうございます」


 ニールは傷が治っても、蹲ったままガタガタと震えている。

 奥歯の擦れる音が響いてきて、俺の足も呼応したように震えた。


 するとベリトが立ち上がった。

 その身長は二メートル程はありそうなほど大きい。


 そして舌なめずりをしながらナーコに足を進め始める。

 俺は腰を屈め、割って入ろうとしたが、ナーコの手に阻まれた。

 歩きながらベリトが言う。


「ハルタロゥ、キミはカブトムシだァ。眺めて楽しむ分には丁度イイ」


「ど、どういう意味だ……!」


 そんな俺の言葉を無視して、ナーコの眼前に立って言う。


「ヘンミカナコォ、キミはメスのカブトムシだァ。眺めても面白くなィだろォ? だからハルタロウの子供でも産ませよォと思っていたァ。ずっとオマケ程度に考えていたんだけどねェ……」


 ナーコはベリトから目をそらさず問いかける。


「今はどうなんですか」


 するとベリトは、顎を掴みグイッと上に持ち上げた。

 ナーコはずっと俺を制止するよう、掌を向けている。


 そしてベリトがナーコを覗き込み、舐めるように見ながら言う。


「いやァ、恐ろしィスズメバチだったなァ」


 少し唇を噛み締め、ナーコがさらに問いかける。


「それは、針がメスにしか無いという意味ですか?」


 その言葉を聞いて少し驚いたベリトは、手を離し笑みを零す。


「クハッ……ハハッ……ハハハハッ! そういう問答は嫌ィじゃなィ、臭ェカメムシ一匹くらいは多目に見よォ」


 そう言って玉座に戻って座った。

 両側のメイドは身動き一つせずにただ目を伏して、両手を前に組んでいる。


 そしてベリトは王冠をクルッと回して言う。


「じゃァ戦おうかァ、キミたちが成長できたら話を聞こォ」


 それを聞いて俺は焦ったよう声を振り絞る。


「いや……俺たちはそういう目的じゃなくて……」


「それは通らなィさハルタロゥ、キミの右手をよく見てみろよォ」


 その言葉を聞いて俺は後悔した。

 俺の右手には焼灼刀が握られ、その切っ先はベリトに向いている。


「ちがっ……! これは……!」


「イイんだァ、後悔も反省もいらなィ。勇者と魔王が対峙しているんだぜェ? さっさとカカッてこいよォ」


 そうベリトが言った瞬間


「うぁぁぁあああああッッッ……!!!!」


 ナーコの咆哮と共に、光の矢がベリトの胸を貫くが如く、発射される。

 矢と思ったそれは束ねられ、光芒となった。

 光芒は指輪から次々に射出される。

 しかしその悉くがベリトに届く前にかき消され、散り散りになっていった。


「ヘンミカナコォ、キミ少し正しすぎやしないかァ? もっと狡猾になった方がイイ」


 そう言ってナーコに掌を向けると、光芒上に直径一メートル程の透明なバリアが出現した。

 それは何枚何十枚とナーコに向けて重なっていく。

 それが近づくにつれ、恐怖に顔を歪ませる。


「イ……イヤァ……!」


 ナーコは声を漏らしながら、必死に魔術を撃ち続けた。

 手元までバリアが重なると、魔術を放つ手元でバリアが爆発を起こし、ナーコが後ろへと吹き飛ばされる。


「ナーコッッ……!!!」


 そしてすぐに横からニールの声がする。


「これならどうですかッッ!!」


 その声のあと、ベリトの周囲で爆発が起こる。

 ニールが水と炎を混ぜて水蒸気爆発を起こしたのだ。

 ベリトを何度も爆発が襲うが、横のメイドは平然と未だ立っている。


 俺もその勢いに続いて、ベリトに向かって走り込んでいく。


「ニール、俺はいいから撃ち続けてくれ!」


「はい!!!」


 爆発が起こり続ける中、玉座の中心めがけて飛び込んだ。



——タロットとの稽古を思い出せ、一辺倒で勝てるわけない。味方の攻撃に合わせて死界から一撃いれろ!



 俺は真っ直ぐ突っ込んだように見せて、横に飛びベリトの右側から一気に焼灼刀を振り下ろした。

 昨日あれだけ震った全力を、この一振りに全て乗せた。

 するとベリトが少しだけ笑みを浮かべた。


 俺の一撃は、止められる事なく、躱される事なく、ベリトの首筋から腹までを一直線に斬り裂いた。

 そして。



「え?」

 

 真っ赤な噴水が上がった。



「アグゥアアアアアァァァァ……ッッッ!!!」


 俺の一撃にベリトは大きな悲鳴をあげた。

 頸動脈が斬りさかれ、血しぶきが全身にかかる。

 肺が壊れ、口から赤黒い血痰を吐き出しうめき声をあげる。

 腹部からは臓器が垂れ下がり、中から消化されたばかりの汚物が散乱する。


 山犬のそれとは似て非なるものだった。

 胴体を真っ二つにするが如く肉を抉る感触。

 自分と同じカタチをした物が、俺の剣で餌付き、血を吐き、痙攣し。

 そして漂う、鼻を吐く鉄と汚物の匂い。


「あ……あぁッ……ちがッ……俺はそんなつもりじゃなくて……」


 剣を手放し、後退りし、玉座の階段から転げ落ちた。


「ごめなさ……ごめんなさい……」



——ヒトを殺した、ヒトを、ヒトを俺が殺した、



 涙を流して後悔したがもう遅く、身体をビクッビクッとさせて、生気を失っていく。


「ニ……ニール……」


 藁にも縋る思いでニールを見たが、マナを消費しすぎたのか、地に伏して息を切らしている。

 ナーコは立ち上がれずに、唖然とした表情でその光景を見ている。


 そして痙攣が止まり、白目を剥いて息絶えた。


「うぁあああああぁぁぁああああッッッ…………!!!」


 叫んで、吐いて、狂ったように頭を掻きむしった。


「ちがう、ハルタのせいじゃない……ちがう……!!」


 ナーコが駆け寄り、必死に俺を押さえ込んでくる。

 俺は必死に謝った。


「ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!!」


 そう言うしかなかった。

 それ以外の言葉が見当たらず、必死に謝罪を繰り返していだが。


 ベリトから笑い声が聞こえて来た。


「ククッ……クハッ……クックック……ハハッッ……ハハハハッッ!!!」


 血にまみれて臓器を垂らしながら、大声で笑い始めた。


「なに……どうなって……」


 俺は混乱して、尻もちをついたまま、助けを求めるようにナーコに向かって後退りした。


「わ……わかんない……」


 そしてベリトの垂れ下がりそうな身体が、蒸気音を立てて繋がっていく。

 傷も血も無くなっていき、みるみる内に修復された。

 そしてまた肘をついて、王冠をクルッと回転させて口を開く。


「はァ……成長を感じなィなァ、それじゃァボクはァ、キミたちの話を聞くことが出来なィ。これはもう怒らせるしかなィ、そうは思わなィかァ? ヘンミカナコォ」


 ナーコがそれを聞くと、扉をチラリと見てから問う。


「どういう意味……ですか……」


「クハッ……やっぱり気づいてたァ。キミはココで進化する筈だァ」


 ベリトは見下すように、ニヤニヤと扉に目をやった。

 横のメイドが動いたかと思うと、櫛を持ってベリトのオールバックを直し始める。


 俺はなんの話か分からず、尻もちをついたままベリトに突っかかった。


「おい……! どういう意味だよ……!」


 ベリトは俺を見る事もなく、扉をジッと見て言う。


「キミたちには、もう一人仲間が居ただろォ? ボロ雑巾になったソイツを見たらさァ、怒りをキッカケに進化してくれるってさァ、ボクは思うんだよォ」


 そして扉の向こうから、誰かの足音と共に、ズリズリと何かが引き摺られる音が聞こえてきた。


「タロットちゃん……」


 それを聞いてナーコが涙を浮かべ、両手をついてベリトに懇願する。


「いや……ごめなさ…………私は……どうなってもいい……だからタロットちゃんは……!」


「キミをどうにかしたィんじゃなィ、スズメバチの進化が見たィのさァ」


 ベリトは顔を恍惚とさせながら、舌なめずりをした。

 すると、扉の向こうから声が聞こえた。

 俺たちが一番聞きたくなかった声。



「キケン……」



 その声が聞こえると、ナーコが発狂したように叫び声をあげる。


「い゛や゛だァァァァアアアアアッッッ……!!!!」


 目を血走らせ、歯茎を剥き出しにして、風がナーコの黒髪を巻き上げていく。

 蝋燭の炎が柱となって、その全てが風に導かれてナーコに集中していく。

 壁に、床に、天井に、切り裂かれたような斬撃が入る。

 切れ目からは炎が上がり、火柱となってまたナーコに集まる。

 ベリトの身体に細かい切り傷が付けられていく。

 メイドは深く肉が抉れるが、平然とした顔で目を伏せている。


 その暴走を見たベリトが呟く。

 

「やっぱりイイねェ……」


 そして扉が開くと同時に、人影が飛び込んできた。

 人影は一直線に、ベリトの頭上に突き刺さる。

 天井から長い髪をダラリと垂らし、意識なく痙攣を起こした。


 ナーコはそれを目で追うと、すぐに悲鳴をあげる。


「タロットちゃ…………!! いやあぁぁぁぁああ…………ッッッ!!」


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