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23.0 『リベンジ!』


「さーーて! 害獣駆除リベンジ! 行くッスよ〜!」


 四人で肩を並べて、焼灼刀を携え、この異世界の街を歩くのは精悍に感じられた。


 ナーコが俺の刀を興味深げに覗き込んできた。


「すごいね〜、その刀、ハルタ良かったね〜」


「焼灼刀ですよね、戦争や医療施設でも幾度か見かけました。血が苦手というのであれば、確かにピッタリの武器だ」


 ニールの経歴は見かける機会が多そうだ。


「でもマジで刃は脆いッスからね、基本的な攻撃はナコちゃんとニールくんに任せるッス」


 タロットが昨日の注意事項を復習してきた。


「そんでタロットは何するんだよ? 素人目線だけどお前の剣の腕はとんでもないぞ?」


 タロットに目線を移して問いかけた。

 ナーコ程でなくとも戦力としては高すぎるほどだろう。


「アタシが斬ったら血の海ッスよ? だから基本的にはサボらせてもらうッス〜♪」


「あはは……確かにタロットちゃんならそうなっちゃうのかもね……」


 タイミングよく噴水が噴き上がり、それを見たナーコが苦笑いして返した。


 北門を抜ける時、タロットが手を振ってぴょんぴょん飛び跳ねた。


「ビックスさーん! こないだはありがとッス〜!」


「あぁタロットちゃん、屠殺場はもういいのかい?」


 俺たちに水をかけてくれた衛兵さんだ。

 畜牛などで慣れさせようとしてくれているんだろう。


「今回のでも駄目そうなら……お世話になりたいんスけど〜……」


 タロットが目線を俺とナーコに移しながら答えている。

 俺は会釈をしてビックスさんに口を開いた。


「その時はぜひお願いします」


「お願いします」


 俺に続いてナーコも頭を下げると、ビックスさんはにっこりと笑ってくれた。


「あぁいいよ、いつでも声かけて……ってお前ニールか? なんか密入国とか噂になってんぞ!」


 ふとビックスがニールに気づいて声をかけた。

 知り合いなんだろう、そりゃ密入国ともなれば噂にもなる。


「知り合いッスかぁ?」


 タロットは振り返りニールに返事を許した。


「えぇ……治癒術師の頃にはよくお世話になりました。ありがとうございました。罪も紛れもなく本当です、ご迷惑をお掛けしました」


「あーそれでタロットちゃんかい、まぁ償ったらまた一杯やろう」


「はい、その時はぜひ!」


 ニールは深々頭を下げながらビックスさんと握手を交わしていた。

 コイツは戦争が嫌だっただけだ。

 『魔王討伐』が終われば、きっとここで平和に暮らせる。



◇ ◆ ◇



 森の奥まで足を踏み入れると、ナーコが肩を縮めて辺りを見回している。


「さーてちゃっちゃか倒して、ハルタローのトラウマ克服ッスよ〜!」


 まるで俺の心を読んだかのように、タロットがヘラヘラと片手を挙げている。

 ニールはタロットとナーコの背に触れた。


「とりあえずこれで痛みは気にせず動ける筈です! 僕は討伐に慣れているので、基本的にはハルタくんとカナコさんが動く方がいいかと」


「おぉ〜♪ わかってるッスね〜!」


 ニールの的確な指示に、タロットが感嘆の声を漏らしている。

 だが、かなり森の奥まで来たというのにあの山犬たちが一向に姿を現さない。


「なんか……前ってこんな奥まで来たっけ……?」


「いや〜、麓まで降りて来てないだけだと思うんスけど〜、ちょっと変ッスね〜」


 タロットも頭をかきながら棒立ちでキョロキョロと周囲に目を向けている。


 フッと俺の視界に影が落ちた。

 森の中とはいえ、木漏れ日が差していたはずの足元が暗くなった。

 そして、俺の首筋に生暖かい水滴が付くのを感じた瞬間、


「い゛ぃああぁぁッッッ………!!!!」


 真後ろからニールの悲痛な叫びが聞こえた。

 すぐに振り返ると、木の上から大蛇がニールの右肩に噛み付いていた。

 大蛇は木々の間を軽々渡って、首元はコブラのように平たくなっている。

 腹には二匹の蛇が絡んでいる紋様が入っていた。


 牙がニールの肩に深く減り込む。


「うぐっッッッ……あ゛ッッッ……!!!」


 俺は必死に自分の役目を果たそうと、声をあげて大蛇に飛びかかり、ニールから引き剥がそうと口に腕を突っ込んだ。


「うぁあああああ!!!」


 それと同時にタロットが声を上げる。


「サ、サーペントッス!! アレクが倒したっつってたのにッッッ!!! (つがい)がいたのかクッソーーーーッッッ!!!」


 ナーコは動けず、声を漏らした。


「や………むり……なにこんなの…………!」


 タロットはジャンプすると、木を足場にして胴体に向けて剣で斬りつけたが、皮膚が厚いのだろう、ダメージとは思えない小傷がつくのみ。


 ナーコが混乱しているところに声がかかる。


「ナコちゃん! マナを溜めて胴体狙って! ニールくんが牙から離れたらすぐに顔を狙うッス!!! ハルタローごとでいいから顔面を切り刻んで!!」


 タロットが身の毛もよだつような指示を飛ばしたが、おそらくそれが最適解だろう。


 ナーコはその指示が飛ぶと、すぐに落ち着きを取り戻して深呼吸をした。

 周囲の風がナーコに集まっていくのを感じる。


 目の前では、ニールが目を見開いて、歯を食いしばり、必死にサーペントの顔を素手で殴りつけている。


「ん"ッッッ!!! ギッッ……!!! あ゛ッッッ!!! くぞッッッ!! ん"ンッッッ!!!」


 俺は焼灼刀を抜いて、両手でそれを逆手に持ち、サーペントの眼球に向けて突き立てた。

 肉の焼ける音と匂いを放ち、眼球からは黒い煙が立ち上る。

 しかしサーペントは口を離さず声も上げず、口から黒い液体を垂らし始めた。


 次の瞬間、光の矢がサーペントの腹を貫き、その矢は真下に振り下ろされる。

 矢に切り開かれた腹からは、悍ましい黒煙が噴き出すと、山犬の死骸がボトボト落ちてきた。


 ナーコの魔術に耐えきれず、サーペントが口を離した。

 その瞬間を俺は見逃さなかった、すぐにニールを横に思い切り蹴飛ばして、大口の中に刀を突っ込んだ。


「ナコちゃんいま!!!!」


「ゔぁぁぁあああアアアアアアアッッッッッッ!!!!!」


 タロットの指示が入るとナーコが大きな叫び声をあげて、光の矢は地面から上空に振り上げられた。


 その光の軌跡にあったサーペントの顔面は、両断され、ズルリと顔半分が地面に落ちる。

 そして、宙を這っていた胴体が大きく痙攣を起こし、木々から地面にダラリと垂れ下がった。

 脳髄から赤黒い汁がドロっと滴る。


 完全にサーペントが沈黙し、全員が勝利を確実と思った。


 しかし、すぐに事態が変わる。


 ナーコが暴走を起こし、何度も何度も光の矢をサーペントの顔面めがけて振り下ろしていた。

 矢を振り上げ、振り下ろし、顔を細切れにしている。


「じねぇッッッ!! おら゛ぁッッッ!! や゛アッッ!!! しネ゛ッッッ!! がんめ゛んッッッ!!!!」


 ナーコから発せられているとは思えない、憎しみに満ちたような悍ましい声。

 歯を食いしばり目を血走らせ、光の矢を力一杯叩きつけていた。


「ナーコ!!! もういい!!! タロットお前が止めろッッッ!!! お前の声なら届くッッッ!!!!」


 ナーコがタロットの指示通りに動いている事に気づいて、すぐにそう叫んだ。


 ニールの傷口に手を当てていたタロットは、未だサーペントを切り刻み続けるナーコに飛びついた。


「ナコちゃん大丈夫!! もう大丈夫!! もういいよ!! 大丈夫ッス!!!」


「ハァッ……ハァッ……」


 ナーコの魔術が収まり、その場に崩れ落ちてタロットの胸に抱かれた。


 そしてナーコが笑みを浮かべてタロットを見た。


「あ、タロットちゃんだ、私上手にできた?」


 状況とかけ離れた、落ち着いた表情と声色のナーコ。


「すごいよナコちゃん……!! ナコちゃんのおかげだよ……!! ありがとうナコちゃん……!!」

 

 タロットが抱きしめ、頭を撫でているのを見いってしまったが、すぐにニールに駆け寄った!


「ニール!!! おい!!! 大丈夫か!!!」


 ニールの肩の傷から黒い液体が垂れている事に気づいた。


「大丈……大丈夫とは言えないですが……どうにか……ハァッ……!!」


「そいつはメス!! 毒は無い! 呪いッス!! 命には関わらないッス!! とにかくニールくんは、意識あるなら自分の治癒を優先して!! ハルタローは北門まで走って!! ビックスさんに、サーペントって言えば伝わるッス!!!」


 タロットは笑顔のナーコを抱きしめながら、冷静な判断であろう指示を出した。

 俺はニールが自己治癒を始めたのを見て、すぐに北門に走った。



◇ ◆ ◇



 北門でビックスさんに報告をすると、数人の衛兵、そしてリーベンの奴隷十数名が、大きな台車を運びながら駆けつけてくれた。


 ニールは担架に乗せられ、そのままコリステン邸に衛兵と直帰。

 ザルガス侯爵が全ての治癒を担当してくれるとの事。


 サーペントを台車に乗せ、麓まで降りると、リーベンが苛立った表情で、貧乏ゆすりをしながら待ち構えていた。


 それを見つけたタロットが大きく手を振る。


「あ、リーベン!! マジ助かるッスーーーッッッ!!」


「お前……! よくそんな声の掛け方が出来るな……!! 城での事を忘れてないぞ儂は!!」


 俺はそんなリーベンに少しだけ会釈をすると、舌打ちをしてそっぽ向かれた。


「いやいや〜、しょーがなかったんスよ〜! リーベンも分かるじゃないッスかぁ〜! サーペントの素材は半分あげるッスからぁ〜♪」


 タロットが馴れ馴れしくリーベンに駆け寄って、背中を緊張感なく叩いた。

 命懸けで倒したサーペントの素材を、半分も手渡す事に、俺は若干の憤りを感じていた。


 そしてリーベンはタロットの手を振り払いながら、さらに悪態をついていく。


「そんなもんで許される訳ないだろうが! ようやく、お前がこの街から消えると思うと清々するわ!」


 俺はその言葉に更に苛立った。

 審判の一件を思い出して、リーベンに歩み寄って突っかかる。


「おいリーベンさん! その言い方は無いだろ!! 俺の価値も見抜けなかった癖によぉ!!」

 

 その言葉でタロットが俺を睨みつけたが、リーベンがタロットを制止して俺に近寄り、ドスの効いた声で諭してくる。


「儂を甘く見るな、お前は間違いなく『無し人』だ。あんなハッタリが通用したのは、ただのタロット商の手腕だ。虎の威を借りて調子に乗りすぎるな小僧」


 俺は何も言い返せなかった。

 あれだけ虚勢を張ったのに情けない限りだと自分でも思う。


 あの場だから成ったハッタリ、あの場でしか成らなかったハッタリ、それは完全にバレていた。

 そして、リーベンもタロットを認めているのだと、ここで改めて実感できた。


「あっは〜♪ ウチの奴隷が悪いッスね〜!」


 タロットはそう言いながら、俺の耳を引っ張って無理やり頭を下げさせた。


「おい、ちょっ……なんだよッ……!」


「所有物だろう、ちゃんと教育しておけ! 全く!」


 悪さをした生徒のような扱い。

 タロット商とリーベン商、俺なんかが口を挟めるような関係ではないことを思い知らされた。


「あ、リーベン、こんどお酒でもどーッスかぁ?」


「あぁ!? 儂は忙しいんだよ! お前が戻ったら考えてやる!」


「あっは〜♪ 楽しみにしとくッス〜!」


 そして別れ際、リーベンが俺に向けて声を掛けてきた。


「おい『無し人』! 儂はな、タロット商がいなけりゃこの国でやりたい放題できるんだよ! 儂の事が嫌いなら命懸けでこの生意気なガキを連れ帰ってこい!」


「あ、あぁ……さっきは……すみません……」


「チッ……!!」


 苛立ちながら舌打ちをするリーベンは、少しだけ寂しそうに見えた。


 そして、タロットを真横にピッタリとくっつけたナーコが俺に目線を送る。


「ハルタぁ成長しないねぇ」


「本当にすみません……!」


 ナーコはいつもの声でいつもの言葉。

 それはさっきの異様さと対比になって不気味に見えた。


「ナーコは……大丈夫か……?」


「へ? 私? なんで? 怪我してないよ?」


「あ、いや……そうじゃなくて……」


 言葉に詰まるとタロットから助け舟が出た。

 真横のナーコを見上げながら


「ナコちゃん燃費わーるいッスもんね〜! マナ切れとか起こしてないッスかぁ?」


「そーゆーことかぁ、全然大丈夫だよ〜! ハルタありがとー!」


「あ、あぁ……」


 ニコニコ笑うナーコ、今回は覚えているのか?

 確かにタロットは『顔面を切り刻め』と言った。

 そして間違いなく、一撃で殺したにも関わらず、叫びながら何度も顔面を細切れにする姿。

 ナーコのその姿はやっぱり悪魔的に見えた。



◇ ◆ ◇



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