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12.0 『叱られ』


――なんで俺だけ?



 翌日、便槽の汲み取りは俺一人だった。


 ナーコはというと、仕事の打ち合わせがあると言われ、タロットに連れられてどこかに出かけていった。



――なにそれ羨ましい、仕事の打ち合わせとか憧れるんだよな。



 汲み取りを終えると、日が沈み始めていた。

 天下のタロット様から 『作戦会議するからさっさと帰ってこい』 と仰せつかっていたので、小走りで帰路についていた。



 帰りに男と肩がぶつかった。


「おっとォ、すまない余所見をしていてねェ」


「あぁ、いや……こっちこそ……ごめん……」



――デカいな、2メートルぐらいか……?



「久しぶりだなァ、今日は仕事の帰りかィ?」


「あ、いや、初めましてだけど……そ、それよりズボンが……!」


 男の服には汚れがついていた。

 異臭を放つ俺からついた汚れ。

 赤地に金色の装飾で彩られたサルエルパンツ、そこに茶色いシミ。



――やばいこれ絶対高いやつだーーーーッッ!!!



「いやいやイイんだよォ、汚れなんて洗えば落ちるさァ、魂が穢れたわけじゃなィ、そう思わないかィ?」


「あ、あぁ……いや、でもホントにごめん……急いでたんだ」


「君はボクと似ているんだァ、君は穢れないように気をつけてくれよォ?」


「似てるってどういう……?」


「ボクも【異物】ってコトだよォ」


 

――異物? こいつも異世界人?



「異物って……異世界とかそういう……」


「異世界ィ? ちがゥちがゥ、特別ってことさァ」



――俺の変な体質に気づいている?



「それってカラダが……」


「ハハッ、だから魂だよォ、ボクとキミは似ているだろォ?」


「ごめん……よくわかんなくって……」


「なァに気にしなくてイイ。いずれボクと組もう、ボクと君が組めば最強だァ」


「それは嬉しいな……ならいずれ……あ、でも俺奴隷でさ……」


「そうだァ、リーベン奴隷商の大部屋がどこにあるか知っているかなァ? 道に迷ってしまってねェ」


「そ、それなら知ってる……! 酒場の向かいに階段があって……」


――――――――


「じゃァまた会おウ、期待しているよハルタロゥ」


「あ、あぁ、じゃあまた……!」



――俺名前なんて言ったっけ?



◇ ◆ ◇



「おーそーいーッスーーーーッッッ!!」


「あっれ? 結構急いで帰ってきたんだけど……?」


「もう夜ッスよぉ!! もぉ!! さっさと体洗って来て欲しいッス!! 明日はニールくんの未来がかかってんスよッ!!」


 2人はとっくに風呂からあがったらしく、あの艶っぽい半乾きの髪を見れなかった事が悔やまれる。


「ごっめん!! すぐ行ってくる!!」


「急いでくださいッス〜、夜の大浴場は寒いッスよぉ~?」


 タロットがニタついて言ったように、夜の水は凍えるほど冷たかった。



――冬になったら死ぬんじゃないかこれ……ていうか日が沈むの早いな……さっきまで夕方だったのに……



◇ ◆ ◇



 すぐにナーコの正座部屋に集まった。

 とにかく明日は王の審判なので、タロットも明確に指示を出してきた。


「ナコちゃんは、ハルタローが感情的にならないように制止してほしいッス!! マジで!! 何があっても止めてほしいッス!! 役割重大ッス!!」


「あっはは……ハルタはねぇ……そこがいいトコでもあるんだけどねぇ……」


「あのなんか……ほんとすんませんッッ……!!」


「売り言葉を買うと、通る要望も通らなくなるッス! ハルタローは自分を抑制するッス!! ほんっっっっっっとに注意してほしいッス!!」


 俺は頭を下げて謝った。

 自分の不甲斐なさに泣けてくる。



――なんでだろうなぁ……普段は自分が嫌いになるほどの、下心と腹黒さで溢れてんのになぁ……。



「そんでハルタローは勇者役ッス!! 勇者に成り切るッス!! そして体質もなんかうまい具合に隠すッス!! 適当にこっちに合わせてくれればいいッス」


 ナーコも俺の体質をタロットから聞いたんだろう。

 俺に特別な能力があった事を喜んでくれて、ニコニコうれしそうにこっちを見ていた。



――俺はこんな子を妬んで……我ながら最低だよなホント……。



「うまい具合にって……まぁやれるだけやってみるよ、でも普通にバレなくないか? 立ってりゃいいだけだろ?」


「そーなんスけど~、ちょっとナコちゃんが優秀なんスよ~。お前はどうなんだー! って言われる可能性が出てきたッス! だから実力を示したいッス、でも体質は隠したいッス!」


「なるほどなぁ……」


「まぁこっちは最悪、バレても大丈夫だからそこまで気負わなくていいッス」


「あぁ、そう言ってもらえると助かるよ」


 「とにかく!」と言うとビシッと指をつきつけてきた。


「感情的にならない事が最優先ッス!! もしそうなったら、ナコちゃんはそれを全力で止める!! ほんっとにそれだけ出来れば、だいじょぶッス!!!」


「あの、ホントすんませんッッッ!!!」


「ウチのハルタがすみません!!!」


 子供が迷惑をかけた母親のように、ナーコも頭を下げていた。


「あと、『魔王討伐』はアタシも行くッス!」


「それだよ、気になってたんだ。タロットが来てくれるのは心強いけど、大丈夫なのか? ご令嬢だろ?」


「そうだよタロットちゃん、ザルガス様は許してくれるの?」


 ずっと気に掛かっていた。

 タロットまで行く理由はどこにもない。

 それなのに、まるで一緒に行く事は当たり前のような言動が、これまで言葉の節々から感じられたからだ。


「当たり前ッスよー♪ そもそもアタシが行きたいから、みんなを巻き込んでる所もあるんスから~!」



 タロットのドヤ顔に、時が止まった。



--『アタシが行きたいから』って言った? ニールを助ける為に仕方なく、みたいな事言ってなかった?


 

「は…………? ちょっ……ちょっと待ってくれ!! ニールを助ける条件がそれなんじゃ……!?」


「そッスよ? いい具合に条件が整ったんス。そうじゃなかったらあんな面倒なことしないッス! とっととニールくん強制送還して終わりッスもん」


「はぁ……タロットちゃん……腹黒いというかなんというか……」


「いや……ホントにお前が怖いよ俺は……」


 そしてタロットはドヤ顔で言うのだ。


「あっは~♪ 照れるッスね~!」


「褒めてないよ!」


「褒めてねーんだよ!」



 この子がどこまで先を見て行動しているのか。

 この時の俺たちにはまだ測ることができていなかった。



「あ、でも嘘はついてないッスよ? 恩を感じてたのはホントッス! 反省してるか確かめるって方が大きいッスけど〜……」


「なるほどね、まぁいいよ。そんで明日の成功率は何パーセントくらいなんだ? 流石に確実ではないんだろ?」


「んーーーー、99パーセントッスね~。ハルタローが感情的にならなければッスけど~……」


 高すぎる可能性を提示したあと、俺のことをジトっと睨んでくる。

 


――すんません!!! ほんっとーにすんません!!!



「タロットちゃん! 残りの1パーセントは聞いてもいいの? それ結構不安だよ? 私たちの世界では、それを『フラグ』って言うんだよ? 1パーセントが100パーセントに近い確率で起こるんだよ?」


 問いただすナーコの気持ちはよくわかる。

 ここが異世界という事実も、それに拍車をかけていた。


「ただのイレギュラーッスよ〜、途中で隕石がドカーンッて落ちてきたら、全部無くなっちゃうじゃないッスかぁ」


「ハルタぁ……これ隕石落ちてこないよねぇ……?」


 あまりにもフラグすぎて、ナーコと俺は目を合わせて苦笑いした。


「ま、まぁつまりほぼ確信ありって事だろ……! なら信用して、自分の役割果たすよ俺らは」


「あはは……ハルタの役割って……ほぼ何もしない事なんだけどねぇ……」


 俺に視線を送ってくる幼馴染。

 その役割は感情的になる俺を止めることだ。



――ほんっとーーーにすんませんッッッ!!!!



「作戦会議は終わりッス~♪ 明後日から、ナコちゃんには依頼がたっくさんあるッス~! 儲けさせてくださいね~」


「うれしいな~! なんか今日も好感触だったよね?」


 おそらく今日の打ち合わせの話をしているんだろう。

 若干の居心地の悪さがあったが、自分の無敵体質の自信もあって会話に参加できた。

 これが無かったら何かしらの理由をつけてそそくさ部屋に戻っていただろう。

 俺はそういうヤツだ。


「それで何をするんだ? 今日の打ち合わせのヤツ」


「んっとねー、ナコちゃんには噴水広場中心に、落ち葉を集めて空中でボワッとやってもらうッス~♪」


 昨日の落ち葉花火の事だろう。


「なんか~、これからの季節は噴水の中もそうだけど、街が落ち葉だらけになるんだって~」


「そーなんスよ~! だから時間決めて、一気にボワッとやってもらうッス~♪」


「管理局の人もね、お客さん集まりそーって喜んでくれたの! ちょっと嬉しかったなー」


 マナにはそういう使い道があるのか。

 掃除するだけではなく、ついでに広場の人も楽しませようという。

 マナのあるこの世界でしか起こり得ない発展だ。

 おそらくあの白衣の男も、こういう成長を望んでいるのだろう。


「それナーコの魔術にピッタリすぎるな、タロットもよく思いついたじゃん」


「毎年ウチの『無し人』奴隷使って、掃き掃除してたんスけどね~! ナコちゃんが来てくれて助かったッス~♪」


 そう言いながらタロットはガバっとナーコに抱きついた。

 


――ダメだ……妬みが顔を出してくる……。



「どしたんスか? ハルタロー。ボケーっとして」


「あ……あぁいや……ほら、百合だなーと思ってさ……」


「んー……? 百合……ッスかぁ……?」


「タロットちゃんは気にしなくていいんだよ~、ハルタは気持ち悪いね~」


 抱きつきながらキョトンとした顔を浮かべるタロット。

 それをナーコがヨシヨシと頭を撫でている。



――ナコタロだろうか? タロナコだろうか?



 そんな事を考えながら部屋に戻ると、一人ゴソゴソと朝を迎えた。





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