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9.0 『現代知識』後編

「それなら残念だったな、俺はこれを悪用するんだよ」


 ほんの数秒。

 だがとても長い、静かな時間があったように感じた。

 俺とナーコは口を開けて男を見つめる。

 理解が追いつかなかった。

 悪用? 悪用すると言ったか?

 思考が追いつかない。

 そもそも今ここで、そんな事を言う必要性を感じない。


「悪用……って……?」


「それ……どういう……意味ですか……?」


 俺もナーコも言葉が見つからない。

 この男の意図が理解できない。

 ただただ聞き返すことしかできなかった。


「なんだ? 悪用を知らないのか? 『悪事に用いる』と書いて悪用だよ。文字通り、言葉通り。これは悪用できると思って、ワクワクしながらタロットから譲ってもらったんだ」


 テーブルの上の品々を、まるで自分の物を自慢するように手を広げている。


「だ、だから……! な……何に悪用するんだよ……」


 必死に言葉を探ったが、ありきたりに聞き返すことが出来なかった。

 すると男は足を組み替え、宙を見る。

 

「使い方によっては悪用も許容できるのか? そうだな、じゃあ悪用してカネでも稼ぐか。なんでも買える程の富を築こう。物も、人も、その気になれば王様にだってなれるかもしれない。この知識と道具を、俺だけの物にしてカネを稼ぐんだ。利権で固めて独り占め、俺以外は誰も作れないようにしよう。もちろんお前たちもだ。そして世界中の人間が、俺に頼らないと生きていけなくしてやろう」


「そんなのダメに決まってるだろッッ!!!!」


 俺は立ち上がって大声で叫んでいた。

 タロットはなんでこんなヤツを信頼している。

 欲の塊。

 あまりに自分本位な考えに手が震えた。


 すると男はテーブルに手をやり、改めて俺たちの荷物を見せつける。


「お前はバカか? もうすでにこれは俺の物だと言ってるんだよ。お前に許可を取る必要なんて一つもない。俺は、俺の物を使って、俺だけの為にカネを稼ぐんだ。歴史の教科書とやらには武器の情報もあったな、これはとても高く売れるぞ。他国はいま戦争に忙しいらしい。これを売れば莫大な富が手に入る。ありがとう、これで俺は大金持ちになれる。お前たちのお陰だ」



——戦争……武器……。



 その言葉を俺は許せなかった。

 この男に見せるべきじゃなかった。

 信用すべきじゃなかった。

 ニールが戦争に苦しめられているだけじゃない。

 タロットの信頼を踏み躙るこの男が、どうしても許せなかった。


 俺はズボンをギュッと握って、必死に声を抑えながら言葉を探した。


「なぁお前……タロットがこんなに信頼してるのに……恥ずかしくないのか……? お前に褒められただけで泣くほど喜んだんだぞ……? それなのに、なんでここまで非情になれるんだよ……タロットの信頼に応えようとは思わないのか?」


 その言葉に表情一つ変える事なく、男はめんどくさそうに答える。


「なんだそれは? カネになるのか? 俺が俺のために生きて何が悪いというんだ。お前らはあれか? これを慈善活動にでも使う気だったのか? もったいない奴らだな。目の前に莫大な富が転がっているというのに。俺はそこまでバカじゃないんだよ。その『タロットの信頼』とやらを対価にして、カネを稼いで生きていくんだ」


「ふざけんなっつってんだよッッッ!!!!!」


 俺は目も合わせず、テーブルの上を見ながら大声をあげた。

 何よりもタロットの信頼を卑下するこの男が許せなかった。

 タロットはこんな男を信頼すべきじゃなかった。

 俺たちもこんな男に話すべきじゃなかった。

 あまりにも独占的、独裁的だ。

 これを渡すべき人物では決してない。 


 そしてついにタロットが口を開く。


「お前さぁ……ちょっといい加減にするッスよ……!」


 タロットが気づいた。

 きっとタロットなら所有権は取り返せるだろう。

 ザルガスさんにも頼んで、どうにかすればいい。


「そうだよいい加減に……!!」


 俺は、そう口に出して顔をあげると。

 今にも襲いかからんばかりの形相で。


 タロットが俺のことを睨んでいた。


「え……?」


「お前の事ッスよハルタロー……! 黙って聞いてれば……」


 テーブルを片手で叩き威嚇してくるタロットを、男が顔も見ずに叱りつける。

 

「うるさいなタロット、お前は黙って見てろと言った筈だ」


「……はいッス……」


 怒りを抑えるように、しぶしぶと座り直している。

 自分勝手なこの男に、タロットが言いなりになっているのが見ていられない。



——タロット……お前の信頼を利用されているだけなんだぞ……コイツは自分の欲望を満たそうとしているだけなんだぞ……。



 横に目をやるとナーコは、歯を食いしばりながら俯いていた。

 ナーコもこんな事聞いていられないんだろう。

 魔術が暴走するのを、必死に抑えているのかもしれない。

 

 でも俺には自分が抑えられなかった。

 言葉や理屈で説得する必要なんて無いと思った。


 怒りに任せて立ち上がり、詰め寄った。

 目の前に立ち、拳を握りながら睨みつけた。


 そんな俺の拳をチラリと見て、男が口を開く。


「俺はこの通り足が不自由でな、お前が本気になればひとたまりもないだろう。だがお前は何が目的だ? 俺を反省させたいのか? 俺をボコボコにした後『どうだ参ったか』と、『これに凝りたら反省しろ』とでも言うのか? 言っておくが俺は反省しないぞ。腕を折られても、足を斬り落とされても一切反省しない。莫大な富に比べれば安すぎる対価だ。そして傷だらけの俺は、家に着いてからこう言うんだよ。『あぁ得した』ってなぁ」


「お前……ッッ!!!!!」


 無愛想に気だるく、俺のことなんてどうでもいい存在のように煽る、この男が許せなかった。

 胸ぐらを掴み、こいつの思い通りに動いているかのように、言われた通りに殴りつけようとしていた。


 ナーコが何かを叫んでいるが耳に入ってこない。

 タロットが恐ろしい形相で俺を睨んでいたが、男が左手で制止している。


 そして男は俺を見ながら、小さい子供を叱りつけるように、諭すように告げる。


「まだわからないのか? 悪用されたくないのなら、相手は俺じゃないと言っているんだ」


 振り上げて行き場のなくなった拳が震える。



——相手が違うってなんだよ……! 相手なんてお前しかいないだろうが……! ナーコでもタロットでもない……悪人はお前しかいないだろうが……ッッ!



 そして男は手をゆっくり動かして、テーブルの上を指さした。

 低く、気だるい声で、興奮する俺を諌めるように。


「お前の相手はこれだと言っている」


「は……? なに言って……?」


「だから、俺は何をされても悪用するんだよ。どうせお前は俺を殺せないだろう。だったらやることは一つだ。これを消し去ってしまえばいい、燃やしてしまえばいいんだよ、そう思わないか?」


 その言葉に答えを失う。

 これは俺たちがこの世界で生きていくために必要で、それでこの世界をもっと……。


「いや……だからこれは……とても貴重な……」


 俺がそこまで言うと、男は呆れたように、深く深く溜息をついて、俺をトンと押しやった。

 突き飛ばされたわけじゃない、少し胸を手で押されただけ。

 魔術でもなんでもない、指先で軽く押されただけ。

 それだけで気圧されたように、俺は男の胸ぐらを離して後ろに尻餅をついた。


 呆れた口調になった男が、呟くように言う。


「お前は今興奮しすぎだ、考えることができていない。そんなんじゃ気付けないな、成長ができない」


 

——成長……? 何を言っているんだコイツは……?



「おいカナコ」


 男が名前を呼ぶと、ナーコはまっすぐに男を見つめた。

 そして男はナーコに命令するように続ける。


「お前は火と風のマナが使えると聞いている。いま全力でそれを暴走させろ。俺に悪用されないうちに、テーブルの上の物を全て燃やし尽くせ。タロットとハルタロウの安全なら俺が保証してやる」


「やりません」


 男の命令にナーコは即答で否をなげた。

 さらに続けて男はナーコを諭しにかかる。


「俺に悪用されてしまうぞ。お前の友達はそれを阻止したいらしい。そしてそいつにはそのチカラが無い。ならお前がやるしかない、そう思わないか?」


「やりませんッ!!」


 ナーコが男の問いかけに、叫ぶように否定を繰り返している。

 目には涙を浮かべながら、震えた声で男を睨んでいる。

 許せない。

 命令するように、俺の幼馴染を責め立てるこの男が許せない。


 男は質問を続ける。


「では、なぜやらないのかを教えろ」


 その質問に、ナーコは少しだけ俺を見て、すぐ男に目を戻した。

 そして真剣な眼差しで口を開く。


 そのナーコの言葉が信じられなかった。


「私はアナタを完全に信頼したからです」


「ナーコ……?」



 なんでだ?

 コイツの話を聞いてなかったのか?



 そして改めて男はナーコに尋ねる。


「ではこれが誰の物か答えろ」



——ダメだナーコ……!



「シェバードさんの物です」


 このナーコの言葉に、俺は感情が抑えきれなくなった。


「ナーコッッッッ……!!!!!」


「ハルタはちょっと黙っててよッッッ!!!!!」


 ナーコが声を荒げて俺を糾弾してきた。

 俺はこんなにナーコの事を思っているのに。

 そんな俺のことを、まるで異物みたいに。


「なんでだよ……ナーコ……」


 俺は涙を流していただろう。


 その光景を見た男が頭をぼりぼりかきながら、また深く溜息をつく。


「あのなぁ、お前らにこういう事をさせたいわけじゃないんだ。二度と間違わないように反省させたかっただけだ。成長させたかったんだ。まぁこういうのも成長なのかもしれないがな」


 理解ができなかった。

 考えが及ばなかった。

 俺たちの何が間違ってたっていうんだよ。


 ナーコはこの男を信じ切ってしまったように、ジッと見つめている。


 男は座りながら両膝に体重をかけ、前に乗り出し、初めて真剣な顔になって語り始めた。


「お前たちは簡単に人を信用しすぎだ。会ったばかりの胡散臭い男に、ベラベラベラベラこんな危なっかしいもんを見せつけて。俺がこれに興味を示さなかったらどうしたんだ? 次は別の投資家にでも見せて、『私たちの色々』とやらを委ねるつもりだったのか? そいつを信じて全て渡していたのか? 人間は二枚舌なんだよ。莫大な富を得るためなら、聖人を装うことなんて容易い」

 

 俺はこの男の言葉を理解できなかった。

 耳に入ってくるだけ。

 まるで知らない言語を話されているようだった。


 「例えばこれだ」と歴史の教科書を持ち出しパラパラとめくる。


「鉄砲がどうの、爆弾がどうの、核兵器がどうの。この世界を踏みにじる物だとは思わなかったのか?」



——違う……!! 俺たちはそうじゃなくって……!! 勘違い……? 勘違いならまだ正せる……!! 俺たちが武器を作らせたがってると思われていた……?



「ち、違うんだ!!! そっちじゃない……!! 俺たちはそうじゃなくって……!! だから便利な物を伝えたくて……!!」


 縋りつくように、情け無い笑みを浮かべながら、弁明しながらスマホを手渡した。

 男はスマホを受け取り、端子の差し込み口に指を付けた。


 次の瞬間、電池が切れていたはずのスマホからポロンッと音が鳴った。


「なっ……!?」


 俺もナーコもそれを見て唖然とした。


 男はスマホを気だるく眺め、写真やメッセージ、ゲームアプリなどをスイスイ動かしていく。

 そしてすぐ、興味をなくしたように、溜息を交え、スマホを白衣のポケットに入れた。


「これは人の努力を踏みにじる物だ」



——なんでだよ……! なんで俺がワガママみたいになってんだよ……!



「お前たちが何をしようとしていたか分かるか? 人間が何百年何千年とかけて競い合って成長してきたものを、一足飛びで追い越そうとしているんだ。それがこの世界で、本当に喜ばれると思うのか?」


「………思……わ……」


「思わないです!」


 俺が俯いて声を出せずにいると、ナーコがハッキリと答えた。 


 そして男は、遂に決定的な質問をしてきた。


「ではこれをどうしたい」


「シェバードさんの好きにしてください」


「ナーコ……!!!」


 俺はもうなにが正しいのかわからなくなっていた。

 ナーコは男の望む答えばかりを言っているように聞こえた。



「なら俺のやることは変わらんよ」


 そう言って男が掌をかざすと、テーブルの上に黒い炎が灯った。

 禍々しいが熱を感じないその炎は、俺たちの荷物を余すところなく包んでいく。

 煙も出ず、消し炭も出ず、すべてを消し去っていくように見えた。

 

「あ……あぁ……! まって……なんで……!」


「いいんだよハルタ、これは多分、この世界にはいらないものなんだと思う」


 ナーコがそれを言い終える頃、テーブルの上には何もなくなっていた。

 焼け跡一つ残らず、俺たちの荷物だけがキレイさっぱり消し去られた。



——それが正しい答えなのか? 俺にはもうわからないよナーコ……



 男はまた頬杖をつくと、気だるげに口を開くのだ。


「良し悪しなんてのは曖昧でいいんだ。境目にボヤけたぶっとい線でも引いとけばいい。だが今回はその線を完全に逸脱していた。あれはダメこれはダメと、事あるごとにゴチャゴチャ口を挟む気は無いから安心しろ」


 その言葉を聞いたナーコが笑顔になって、大きな返事をする。


「はい!!!」


「そーゆーことッス~♪」


 我が物顔のタロットもニコニコと俺たちを眺めて、男の腕にしがみついた。


「お前は何もしてないだろうが、くっつくなよ暑苦しい」


 ナーコはそれを見て笑っている。

 この場が和やかな空気に包まれていく。

 俺は問いただす事も、聞き返すこともできずにいる。

 俺はただただ愛想笑いを浮かべている。

 この雰囲気に飲まれて、わかった風を装っている。


 そして男は「例えばあれだ……」と口を開く。


「元の世界の飯を振る舞うくらいなら、問題ないんだろうよ」


「はい!! 得意料理があります!!」


「ホントッスかぁ〜! 美味しいんスかぁ〜?」


 ナーコの明るく元気な返事が聞こえた。

 タロットが嬉しそうな声をあげていた。

 俺は自分がよくわからなくなっていた。

 俺たちのやろうとしていた事が悪用だったのか?

 俺はただソファで項垂れるように、愛想笑いを浮かべて、キレイになったテーブルを眺めていることしか出来なかった。


 俺だけがわからない。

 俺だけが曖昧なまま、この場が和やかな空気に包まれていった。



◇ ◆ ◇




「用は済んだ、俺はもう帰るぞタロット」


「えーッ! もうちょっとゆっくりしてってほしいッスーッ!」


 男はそう言ってソファから立ち上がり、杖をカチッカチッと鳴らしながら気だるく、足を引き摺って扉に向かった。

 タロットは男の左側をさりげなく支えている。


 ナーコがそれを見ると立ち上がり、カチッカチッと歩く男に向かい、頭を深々と下げる。

 そして振り絞るように言葉を紡ぐ。


「あの……!! 私に……魔術を教えてもらうことってできませんか!! さっきの炎……! あれ……凄かったっていうか……!!」


 少し、時間が止まったような間があった。

 そしてすぐにタロットが頬を膨らませ、男を庇うように両手を広げた。


「はぁ!?!? だめッス!!!! ぜーーーったいだめッス!!! あんま調子のんないでほしいッス!!!!!」


 そんなタロットを気にせず、ナーコが続ける。


「ごめんなさい……!! 強さの調整だけ……一度暴走しちゃって……タロットちゃんにまで怪我させちゃって……! 大量のマナを出すのが怖くて……ッ!」


 頭を下げたまま、ボロボロと涙を流すナーコ。

 それを見た男は溜息をつきながら、頭をぼりぼりかいて言った。


「はぁ……一回だけだ、全力で俺に向かって得意なのを撃ってこい。周りは気にしなくていい、何があっても安全は保証してやる」


「えーーーーッッッ!! ズルいッスよーーーーーッッッ!!!」


 ワガママを言うタロットを見かねたのか、男がそれを見下ろして呟く。


「お前に怪我をさせたくないんだよ」


「あっは~~~♪」


 その言葉に機嫌を取り戻してぴょんぴょん跳ねながら俺の向かいのソファに座った。


 俺はずっと愛想笑い。

 たまにこちらを見るタロットの大きな目は、全てを見透かしているようで不快に感じた。


 男はそんなタロットを横目で見て言う。


「タロットは単純で扱いやすいんだ、ウザくなったらこういう感じであしらってやれ」


「それたぶん……シェバードさんにしか出来ないと思います……」


 ナーコが苦笑いしながら返事していた。


「ウザくなったらってどういう事ッスかぁ!」


 関係性、信頼性。

 俺はこの男に、一足飛びに追い越された。

 俺たちがやろうとしていた事も、つまりはこういう事だったんだろう。


 ナーコが目つきを変えて両手を男に向けた。


「い、行きます!!」


 力を込めると掌が眩しいほどの光を放ち、熱を帯びた暴風が吹き荒れる。

 風の刃は、埃が斬り裂かれる軌跡で、ようやくそれを視認できる。


 だが俺には何も感じない。

 タロットも涼しい顔で見ている。


 ナーコと男だけを、透明な球体が包んでいる。

 目を凝らさないと視認できないような、光が屈折することで、ようやく輪郭が映る、バリアのような球体。

 この男がこれを作っているんだろう、俺とタロットを守るために。

 バリアの内側の物体は吹き上がり、飛散し、切り刻まれ、それらは炎を纏い消し炭になっていく。

 球体に隣接していた豪華なソファは、片足を失い、音を立てて傾いた。

 このバリアの中に入れば、俺は跡形もなくなるんだろう。



——やっぱりナーコはすごいな……羨ましい……そして妬ましい……



 俺はソファに座りながら、この光景をボーっと眺めることしか出来ない。


 男はナーコに向かって言い放つ。


「マナが拡散しすぎだ、前だよ前。手から出したいなら手から出せよヘタクソ。どうせビュービューと迷惑な風が吹くのを思い浮かべているんだろう。なんかあれだ、ビームだよビーム、レーザービームを思い浮かべろ。この暑苦しい風を圧縮して、高圧ビームにするんだよ」


「はい……ッッッ!!」


 アドバイスを聞いて眉間に皺を寄せる。

 バリアの内側全体に吹き荒れていた刃の軌跡が、ナーコの掌を中心に扇状に、そして男に向けて前方に収縮していく。

 収縮するごとに熱を帯びた刃の密度が増えているように見える。

 最初はヒュンヒュンと空気を切り裂いていただけの音は、今ではモーターのような高音で鳴り響いている。


「穴を広げて範囲を絞れ、標的を定めてそこを狙え。もう周りに迷惑をかけたくないんだろう? ビカビカ光って、無駄なエネルギーを出しすぎだ。それは燃費が悪くなるんだよヘタクソ。お前はあれだな、左手を突き出して拳を握れ。その小指の指輪が丁度いい、そこにチカラを集中しろ。掌とか向いてないんだよカッコつけるなヘタクソ」


「は……はいぃ………ッッッ!!!」


 ナーコが左手を拳にして前に突き出した。

 マナから漏れる輝きが薄れるにつれて、刃と熱の密度が濃くなっていく。


「おぉ~♪」


 タロットが新しいオモチャを見つけたような声を出し、目を輝かせている。


 ナーコは振動する手首を必死に押さえて腰を落とした。

 息を切らし、足がガクガクと震え始め、汗を垂らし、息が切れている。

 俺はそんなナーコを見ていられなくなっていた。


「おい……その辺でもう……!!」


「うるさいぞハルタロウ、今こいつが成長する所だ、黙って見ていろ」


 シェバードの強い否定の言葉にビクッとなって愛想笑いを浮かべた。

 タロットはそんな俺をチラりと見やる。



——本当に何をやっているんだ俺は……。



 男は白衣のポケットから、俺の渡したスマホを取り出した。

 2本の指でそれをつまみ、目の前で揺らす。

 

「的はこれだ、その指輪からビームを出せ」


 男がそう言った瞬間。

 ナーコがスマホを睨みつける。

 直後、暴風が収束するように指輪に集まり、一筋の矢がスマホを貫いた。

 まごう事なきレーザービームだった。

 淡いオレンジの光は、熱風の刃が密集しているんだろう。

 高音のモーターのような音とともに、真っ直ぐに、俺のスマホを貫いたのだ。

 そして男に当たる直前、ビームは霧散したように散り散りになった。


 すぐに膝から床に崩れ落ちるナーコ。

 

「ハァッ……ありがと……ございま………ハァッ………!」


 俺は駆け寄って抱き起こし、声をかける。


「ナーコ!!!」


 ナーコは目に涙を浮かべ、汗だくで気を失っていた。

 満足そうな笑みを口元に浮かべながら。


 男はナーコを抱き抱える俺を見て。

 

「その指輪を大切に思っていたからこそ出来た事だ。ハルタロウ、お前の功績だ」


 俺をそう気遣うと、カチッカチッと杖をついて、気だるく、ダラダラと歩いて、タロットと共に扉から出て行った。


 その言葉を嬉しいと思ってしまった自分が情けなかった。



——俺は……本当にどうしようもないな……。



 扉の向こうからは、タロットがまたわがまま言ってる声が聞こえた。


 俺はこの日、成長出来なかった。



ここまで読んでくれてありがとうございます。

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