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星辰導記  作者: 黒須 音史郎
目覚め 秤と蠍
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魔法について2


 アリンが練兵場を去ってからしばらく。

 僕は覚えるように言われた五つの魔法を使えるようになった。

 魔法の名前は弾、壁、斬、纏、穿というらしい。属性を頭につけて呼称するようだ。


「基本は問題なさそうですね。今回は私に合わせて水属性で使用してもらいましたが、別の属性で同じ形の魔法陣を作成すればその属性で発動します」


「使う属性は何を基準にして変えればいいんですか?水属性だけでも十分に思えるんですが…」


「状況によりですね。フェリド君その本の最後のページを開いてください」


 僕は言われた通り本を開く。そこには属性の関係についての図と付随する文字列が記されていた。


「そこに記されている通り、属性には優劣があります。火は風に、風は土に、土は水に、水は火に対して有利になります。光と闇は特殊なのでひとまず置いておきますが、その属性同士の関係故に多くの属性を使えるほど魔法戦で有利に立ち回ることが可能なのです」


レスドアの説明を聞きながら本を見る。

図から各属性の関係はざっくり分かるが解説であろう文字が読めない。

レスドアが特殊と言った光と闇の図柄の周りには確かに他四つと比べ多くの文字があった。


「次はその優劣を利用して魔法を使いこなす方法を学んでいきます。レイネ下りてきてください」


 レスドアが壁上の観覧席で待機していたレイネを呼ぶ。

 「はーい」と軽く返事をしてゆっくりと砂地へ下りてきた。


 到着を待つ間、レスドアが説明を続ける。

「火と水の魔法をぶつけ合ったとき、火の魔素の一部を吸収し水魔法の威力が上がります。この現象を利用し魔法を強化することを錬鎖といいます。これを使用すれば器の限界より威力を高めて魔法を放つことができます。私は風と水しか使えないので使用できませんが、レイネが使用できます。詳しいことは彼女に教えてもらいましょう」


 レイネが到着して得意げな態度をとると、手を木偶人形に向けてに突き出した。

 最初に水色の魔法陣が形成され、橙色の魔法陣がそれを囲うように形成され二重に円ができる。

 魔法陣が完成すると、水色が橙色を取り込みながら、ひときわ大きな水弾が形成され木偶人形にあたった。


 自信に満ちた態度のままレイネが手をおろす。

「これが連鎖よ。今みたいに強めたい属性の魔法陣の中に吸収させる属性の魔法陣を作ればいいの。外周の魔法陣と、内周の魔法陣の縁がピッタリ合うくらいの比率が一番効率が良くなるって言われてるわ。その比率さえ合っていれば大きさは自由にできるから、属性さえ持ってれば誰でも使えるはずよ。さ、フェリド君もやってみましょう」


 フェリドが先ほどの形を再現しようとする。

 魔法陣を二つ完成させるとレイネより小さな規模ではあったが確かに威力を増した水弾が放たれた。


「そうそう!筋がいいわねフェリド君。今のは少し火の魔法陣が小さかったからぎりぎりまで大きくしてみましょう」


 僕たちから一歩引いた場所に立つレスドアを見ると、感慨深い顔をしていた。

 しばらく練習を続けると、錬鎖が冴えてくるのがわかった。

 レイネが一回ごとに褒めてくるので少しこそばゆい。

 僕は優しい先生に持ち上げられながら魔法陣の調整を続けた。



 今までで最大の勢いを持つ水弾が飛ぶ。


 それを見ていたレスドアが僕に話しかけた。

「錬鎖も属性の相性を知っていれば各属性を強めることができます。威力も上がりますが、当然魔力の消費も増えるので使いどころに気を付けましょう。…次は互いに拮抗する属性を混ぜ合わせる錬気について教えていきましょう。急ぎ足ですがついてきて下さい」


 レイネが笑顔で一歩下がると、レスドアが木偶人形向かい手を突き出した。

 緑色と水色の魔法陣が同じ位置に作成される。

 魔法陣の形が完成しても形を変えない。

 その代わりに二つの色がゆっくりと溶け合い青白い光を帯びていく。

 やがてひときわ強い光を放つと魔法陣が集約され雷となり木偶人形を穿った。

 雷が当たった木偶人形の一部が欠損し、煙を上げる。


「水と風を錬気し、雷属性の魔法を放ちました。先ほど属性は原則六つだといいましたが錬気を駆使すれば三つ増えます。風と水を合わせた雷属性、火と土を合わせた熔属性、光と闇を合わせた銀属性があり錬気属性と呼ばれています。これらの属性は六属性に不利をとることがなく、もとにした属性二つに対して有利となります」


「…なら僕はそれを中心に戦うべきなんですね。でも、不利が無いんだったらそれだけを使えばいいんですか?」


「錬気だけでは戦いにくい要因がいくつかありますが、特にネックになるのが発動までの遅さです。攻撃してくる相手に対応しながら先ほどの時間を作るのは難しいですからね。…各錬気属性に関してはディルスが教えた方がいいでしょう。君と同じ数少ない全属性使いです」


 ディルスは既に観覧席から降り、こちらに歩いてきていた。

「やり方は先生が言っていた通りだ。とりあえずやってみろ」


 僕は木偶人形に手を突き出し、レスドアの魔法陣を見様見真似で作ってみる。

 しかし二つの色は不均一な斑模様になり、魔法陣が消滅してしまった。

 これまでうまくいっていた分、落胆する。


「…錬気は扱いが難しい。完全に同じ魔力量で二つの魔法陣を混ぜ合わせなければいけないからな。少しでもバランスが崩れると今みたいに不発になる。それでも習得できればかなり有用だ。次の任務では雷属性が有効となるだろう。今日は雷に絞って特訓していくぞ」



 日が沈む直前まで、練習は続いた。しかし僕の手から雷が放たれることはなかった。


「…今日はここまでだな、錬気は経験を積み重ねていくしかないと思っている。だが筋はかなりいい。明日からの任務に間に合うかはわからんが、遠くないうちに使えるようになるだろう」


 息を乱しながら了承する。体はほとんど動かしていないが疲労感があった。


 少し離れて魔法を放っていたレスドアとレイネがこちらに歩いてくる。

「ディルス、彼の生活場所については決まっていますか?」


「ええ、先生。王都にいるうちは汽車の中で寝泊まりさせようと思っています。まあ、黄道機関の見習いにはふさわしいでしょう」


 僕の住む場所が決まったらしい。


「私以来の入居者ね。フェリド君、エリーさんによろしくね」

 レイネに知らない名前を言われ困惑しながらとりあえず「わかりました」と答えた。

 

 ディルスが「じゃあ帰るか」というと四人で練兵場を出る。


「フェリド。フードをかぶれ」



 僕たちは帰り道であろう道程をそれぞれ踏みしめる様に歩く。


 人の行きかう街を見まわす。

 大きな石を敷き詰め舗装された道。道に面した商店が店じまいをしている。

 

 どうやらディルスたちは顔が利くようで、道行く人の多くから挨拶されていた。


 レスドアとレイネはそれぞれの家に帰るといい途中で別れた。

 日が完全に沈み道を照らす街灯が存在感を強めていく。


 突然、僕は誰かに呼ばれた気がして星々がきらめく空を見上げる。

 その中でひときわ明るくゆっくりと流れていく星があった。

 僕は立ち止まり強く惹きつけられるように見入ってしまう。多分あれに呼ばれた。

「あれは…流れ星?」


「…?どうした?」

 僕が立ち止まったことに気づき、ディルスが振り向き近寄ってくるのがわかる。

 しかし僕は目線を外せなかった。

「ディルスさん。あの明るい星は?」


 ディルスも空を見上げる。

「ん?ああ、あれか。あれは創世の願い星。この星を一月ごとに一周している流星だ。ほかの星と同じようにはるか昔から輝いているらしい。おとぎ話ではこの世界を作った神様とか呼ばれているな」


「…創世の…願い星……」


 名前を復唱し、何とも言えない気分でさらに見入ってしまう。

 しばらくするとディルスが僕の頭に手を当て顔を無理やり下げさせた。

「そろそろ行くぞ」


「!…はい!」

 僕は焦って返事をする。

 星空を見ないようにしながら、ディルスの後ろをついていった。



 しばらく歩いているとディルスが古めかしい施設の前で立ち止まった。

「到着。お前の家だ」


 日が完全に落ち、街灯と施設の窓からの光が汽車の形をした建造物を照らしている。

 アルス霊廟からはそう遠くない場所だ。

 八両ほど客車のように連結されているが、その下に線路は見えない。

 代わりに管が何本か下からつながっている。


「これはいったい何ですか?」


「こいつは二千年前の英雄戦役って戦いで人間の英雄たちが乗って旅したって言われてる魔動汽車だ。今では俺たち黄道機関の集会所として、先頭の車両を使うくらいだけどな。…ついてこい」

 ディルスは説明を終えると二両目に向かって歩き出した。

 

 二両目と三両目には少しまぶしいくらいの灯りが漏れている。

 僕が車両に乗り込むと、外観と比べ新しい印象の内装に迎えられた。

 中央にある縦長の机には多品目の料理と二人分の食器が用意されている。

 用意されてからそこまで時間がたっていないのか、ゴロゴロとした野菜が入ったスープからは湯気が立ち上っていた。


 ディルスが奥の席に座ると僕に着席と食事を勧めた。

 食事のためにディルスが口を隠していた布を取る。

 布で隠していた部分には大きな古傷があった。


「ディルスさん、その傷は…」


「これは、昔に四竜侵攻っていう事件があってな。その時に受けた傷だ。見た目は悪いかもしれないがあまり気にするな。この傷に関しては他のみんなも知っていることだし俺もあまり気にしていない。隠しているのはその事件で大きな被害を受けた者もいるから、なるべく心の傷に触れないようにするためってだけだ。…さあ食おうぜ」


 食事を食べながらディルスと話す。

 僕は何も覚えておらず話が広げられない。

 しかしディルスが明日の予定などを次々と話し続け、会話が停滞することもなかった。


 和やかな時間の終わり際、気になっていたことを質問した。

「この食事、とてもおいしいです。誰が作ってくれたんですか?」


 ディルスは口に入っているものを飲み込むと「エリー」と明かりのついていた隣の車両に声を飛ばした。


 隣の車両から三十代ほどの女性が出てくる。

 凛とした様子で落ち着いているが目つきは鋭い。

 女は「なにかございましたか」と、言葉とは裏腹にディルスに圧をかける。


「いやいや、フェリドに紹介しなきゃと思ってね。彼女はうちの使用人のエリーだ。普段は家のことをやってもらっているが、ここの管理もしてもらっている。お前にとっては家主みたいなもんだな

 エリーは納得した様子でうやうやしくフェリドに礼をする。

「フェリド様、お話は聞いております。何かありましたらご申しつけください」


「様なんてそんな…」

 僕はしっかりとした大人に下手に出られたので慌てて否定しようとする。

 すると、エリーが即座に「ではフェリドと呼ばせていただきます」と言い放った。

 僕に気を使ったのか、もともとエリーの意思だったのかはわからない。

 しかし、そのほうが楽に思えたのでそのまま話を続けた。

「エリーさんすみません、仕事を増やしてしまって」


「お気になさらず、フェリド。黄導機関が私の雇い主ですから、見習いであっても尽くすのは当然のこと。それにレイネ様たちが本家にお戻りになってから、暇を持て余していたので私としても丁度よかったのです」

 凛とした態度のまま自分の立場と意見を喋っていく。

 理由まで言われてしまうと気にするほうが悪いように思えてしまった。


「レイネさんも、ここにいたんですね」


「ええ、三年ほど前まで弟様とご一緒に。…私はベッド等の整理をしてまいります。食器は置いたままで結構です」

 エリーが会釈をしてもといた車両へ戻っていく。


 僕とエリ―が話している間、黙々と食べ進めていたディルスが食器を空にし、口に布を縛り直して立ち上がった。

 まだ食事の途中で座っている僕に喋りかけながら歩いてくる。

「ふぅ、うまかったぜ。明日の予定はさっき話した通りだ。俺は帰るが…最後に渡しておきたいものがある」


「…?」


 ディルスが首にかけていた鍵のようなものを外し、僕に差し出す。

 僕が疑問に思いながら受け取ろうとすると、アリンからディルスに渡っていた白蛇が僕の肩に渡ってきた。

「うわっ」と気の抜けた声がでて、ディルスが笑う。


「渡したかったのはその鍵と蛇だ」


「蛇って…しかもアリンさんのじゃ…」


「いいんだ。アリンも預かっていたものだからな。この鍵と蛇は二千年前の英雄が遺したとされているものでな。射手と海蛇以外で六属性を持ったものが現れた時、その者に渡すようにと代々受け継がれてきた。その蛇も少なくとも二千年前から生きているらしい。特に世話とかはしなくていいぞ」


 僕の肩に乗ってきた白蛇が顔の横で舌を出し入れする。

「えっ、この蛇が?…この鍵は何の鍵なんですか?」


「わからない。もしかしたらただのアクセサリーかもしれないし、お前のやることに関係があるのかもしれない。俺たちにもそこまで詳しく伝わってはいないんだ。その蛇の名前もわからないから好きに呼ぶといい」

 ディルスは「じゃあな、新人。死ぬなよ」と軽く言って汽車を出て行った。


 エリーが整えた二段ベッドの下の段に腰を掛ける。

 汽車の中は風呂やトイレが設置されており、生活を送るのに不自由しないだろう。


 正面の鏡を見て今日のことを思い返す。

 そういえば自分の姿を初めて見た。

 白髪に黒い瞳。顔立ちは中性的でドレスを着ても違和感がなかったかもしれない。

 僕って男でいいんだよな?

 ふとそう思うと同時に首にいる白蛇と鏡越しに目が合った。

 金色の瞳。僕の中まで見通すような鋭さを感じた。


 体を倒しベッドに寝る。蛇は枕の横へ移動した。

 目覚めたばかりのころに感じていた眠気は今は感じない。

 慣れない場所に緊張しているのかもしれないが、慣れている場所もないので仕方のないことだ。

 いや、一つだけあった。棺の中はとても心地よかった。

 あの棺は一体何なんだろう。


 そんなことを考えているとそのまま何の抵抗もなく意識が沈んでいった。


 白い空間で意識が戻る。

 目覚める前に見た光景と同じだ。

 しかしその時と違って自分の体が見える。

 

 正面には胡坐をかいた人影がこちらに背を向け座っていた。

 フードをしていて顔は見えない。

 僕が「あなたは誰ですか」と問うと、声を発することもできるようだと自身で理解した。


 人影はそのままの姿勢で応える。

「…俺のことはしばらく気にする必要はない。今回も確認のためだけだ。しかし招いたとはいえすぐに入ってこれるとは、やはりお前は…。」

 体を微動だにせず背を向けたままだったが、一方的に品定めされているようだった。


 そこで空間の白が収縮していき人影が消えていく。

 僕はどうすることもできず、あの人影は誰なのかなど考えながら暗い所へ落ちていった。






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