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星辰導記  作者: 黒須 音史郎
目覚め 秤と蠍
4/12

魔法について1

 

 レイネとアリンに案内され広い場所に出た。

 広場の周りは石の壁で固められ、壁の上段には観覧席が設けられている。

 屋根がなく日差しが強く照り付けていた。

 足場は砂で、等間隔に木偶人形が並んでいる。


 僕は簡素な運動向きの服に着替え、隣にいるレイネから水を渡されごくごくと水を飲み干す。

「ありがとうございます。レイネさん」


「どういたしまして。まだ暑いからのども乾くわよね。…先生たち、遅いわね。まさかまたやる事見つけちゃったのかな。ただでさえ期間外の任務が増えてるのに、また休みがなくなっちゃうじゃない」

 レイネが悪い方向に想像を膨らませ落ち込んでいる。僕は申し訳ない気持ちになった。


「…ごめんなさい、僕のせいですよね」


「あっ。いいのよフェリド君は気にしないで。私のほうこそごめんね。フェリド君自身の事だけでも大変なのに、余計な事言っちゃって。…なにか今知りたいことはない?なんでも聞いて」


 僕は考え込んだ。聞きたいことが多すぎる。

 曖昧な質問しか浮かばないし、この待機時間もそこまで長くないだろう。

 壮大な質問をしたら話が中途半端で終わってしまいそうだ。


 いい具合の質問を探していると、それまで会話を見守っていたアリンがレイネをにやにやと見ていた。

「レイネよ。なんでもと聞くのはいいが答えられるのか?レスドアから星導記に手を付けていないと聞いているぞ」


「うっ。先生、アリンさんたちにまでそのこと話したの?ディルスさんにも文句言われちゃうじゃん」

 レイネがわざとらしくがっくりと肩を落とす。


 僕とアリンがその様子を見て微笑んだ。


 頭がリラックスして、聞きたいことが思いついた。僕は彼女らの会話の中で気になったことを聞いてみることにした。

「レスドアさんはレイネさんの先生なんですか?」


「うん、そうだよ。先生は黄導機関の中だと一番古株でね。私以外にも教えてきたの。ディルスさんもそうよ」

 レイネが僕のほうに向きなおり、胸を張って答えた。


 僕はうっすらと感じていた違和感を続けて投げかけようとした。

「そうなんですね。でも…」


「すみません。指南書をとってくるのに手間取りました。レイネこれを持っていてください」

 レスドアが到着する。


 片手には先ほどから持っている大杖、反対の手には厚い本を抱えおり、本をレイネに手渡した。


 アリンがレスドアに疑問を問いかける。

「…ディルスはどうした?」


「彼は先ほどの件を各所に報告するとのことです」

 レスドアが淡々と答える。


 アリンが目を細める。レスドアの答えに少し引っかかっているようだった。


 アリンに思考する間を与えないかのようにレスドアが素早く別の話題に話を移した。

「さて、フェリド君。これから私たちと動くなら少なからず戦闘があるでしょう。魔物や時には人とも。それを乗り切る方法。魔法について基礎から説明しましょう」


 やはり戦わなければいけないらしい。

 単純な考えだが僕が強くなれば人類を救える場面が多くなるだろう。

 自分には避けて通れない話を聞く態勢をとる。


 レスドアが慣れた様子で話を続けた。

「まず魔法とは全人類が多少なりとも使えるものです。魔法には大きく分けて六つの属性があり、それぞれ火・水・土・風・光・闇と分けられています。属性については個人で使用できるものが生来決まっています。例えば私は風と水が、レイネは火と水と光が使えます。先ほど手に出した魔法球でフェリド君の使える属性もわかりました」


「ただ赤かったので…火属性ということですか?」


「いえ。それだけなら橙色になるはずです。フェリド君の属性は六つ全てです」


 僕は少し高揚した。


「六属性全てを使えるのは原則ディルスの射手の家系とアリンの海蛇の家系だけです」


 僕は驚きながらアリンの顔を見る。


 アリンはわずかに頷き、右手を前に出し掌を上に向ける。

 すぐに真紅の球が現れた。


 僕の魔法球と色が似ているががわずかに色味が暗く楕円状だ。

 さらに大きさが僕の魔法球の十倍ほどもある。

 僕は自分の体ほどの球に呆気にとられた。


「六属性が使えるだけで戦闘ではかなり有利に立ち回れる。賢者の言う通り我らに付いてくることは出来るだろう」

 アリンがそういうと球が消滅していく。


 レスドアが補足するように説明を続けた。

「球の大きさは使用できる魔力の量と比例します。魔力は魔法のもととなるもので大気や食事から摂取できます。生命力とも関係していて魔力を使いすぎると死ぬ、ことこそないですが体を動かせなくなったり気を失ったりしてしまいます」


「つまり単純に、魔力量は多ければ多いほど有利だ」

 アリンが理解を助けるように簡単にまとめてくれた。


「球の形状については属性の偏りによって決まります。球が真円に近い程、使用できる属性の中で偏りが少ないのです。フェリド君の場合は魔力量は人並みですが、全属性を同じだけ使用できるようです。…これまでの話で気になったことはありますか?」


 一通りレスドアが話し終わり、僕が理解しているかを確認するように質問を促す。


「…アリンさんみたいに球を、魔力量を大きくすることはできますか」


「可能です。方法については、まずどのような形でもいいので魔力を放出します。そして魔力が自然回復していく際に少しだけ容量も増えるのです。その魔力の容量を器と呼び、魔力を使うことを生業とするものは少しずつ器を育てて大きくしていきます。故に基本的には長く生きるほど器が大きくなり、より多くの魔力を蓄えることができます」


「私たちが戦うことはそこまで多くないけど、魔力をわざと無駄使いして魔力量が上がるようにしてるのよ」


「しかし、一般人がアリンほどの大きさにすることは難しいでしょう。生まれた時の器の大きさや成長の幅は血統や個人で違います。黄導機関や六導機関はその才能に恵まれている者たちの組織なのです」


 僕は一般人という言葉に目を伏せ内心悔しがる。そんな自分自身を不思議に思った。

 才能があるに越したことはないが自分が強くなければいけない理由は現状見つからない。

 ただ自分の感情の外にある人類を救えという使命が焦らせてくる。


 そんな僕に少し離れて見守っていたアリンから声がかかった。

「案ずるなフェリドよ。我も若いころは似たような大きさだったぞ」


「…?アリンさんは若いですよね?」


「ふふ…そう見えるだろう?歳はレスドアとそう変わらん。我ら竜人族はそういう種族なのだ。一定まで成長して全盛期で成長が止まる。天寿を全うしたとしてもこの姿のままだ。…言いたかったのはそう焦らなくてもよいということだ」


 驚き、疑問、安堵、感謝と様々な感情が僕の頭を駆け巡る。


 会話が終わったとみたレスドアが話を進めていく。

「魔法についてはここからが重要です。これから使い方を教えていきます。さっきの球を作り出し相手に当てるだけでは、魔力の効率が悪いうえ決定打にはなりません。フェリド君、私を見ていてください」

 レスドアが掌をフェリドに向ける。


 手の周りの空間に淡い水色の円とそれに沿って同じ色の図柄が並んでいく。

 円はわずかに空白を残し、完成していない。

 レスドアが手と顔を遠くに設置されていた木偶人形に向け、空白を埋め円を完成させた。

 すると円と図柄は中心に集約され木偶人形に向かって素早く飛んでいく。

 水色の魔法が当たった木偶人形は中央に亀裂を現した。


「今見せた円が魔法陣です。魔力を使用し先ほどの図形をかたどることで、魔力に意味が加わり魔法となります。球を作るより魔力の消費が少なく、威力を上げることができます。魔法陣を大きくかたどるほど、より威力も上がります。ただ魔法陣の大きさは器の大きさで上限が決まってしまいますが」

 そこまで話すとレスドアはレイネに目をやり、レイネがそれを合図に持っていた本を開き僕に差し出す。


 そこには先ほどレスドアが見せた魔法陣と同じものが記されていた。

「それは魔法の指南書です。初心者向けのものではありますが、私達も使う有用な魔法陣が多く載っています。魔法陣の形に関しては覚えるしかないので、ひとまず汎用性の高い五個ほどを覚えましょう。実際にかたどることは感覚でできるはずです」

 レスドアが僕の隣に来て、魔法陣の形やその効果について解説してくれた。



 しばらくすることのなかったレイネとアリンが話し始める。

「レスドアも随分甘くなったな、レイネよ」


「本当ですよ。私の時はあの本一日でやれって言われたのに」


「あれはそれだけお前に情がわいた故よ。…ところでレイネ、黄道機関で最近変わった事柄はあったか?」


「うーん?さっき言われた任務と…ロサリアさんたちの事くらいじゃないかな」


「…そうか。平和であるのは何よりだ」

 アリンが目線を下にやり、目を鋭くする。


 レイネは何も知らないようだ。

 黄導機関全体にかかわる話ではない?

 アリンが心中で探っていると、フェリドが木偶人形に魔法を当てることに成功した。

 フェリドが静かに感激している。


 そこにようやく疑惑のもとが到着した。

「待たせたな!いやー各所への報告が忙しくて」


「ディルス、新人より優先する報告とはなんだ?そこまで急を要するものはなかったと思うが」

 アリンが疑問を直接ディルスにぶつける。


「アリンは信用されてるからいいけど、俺は逐一報告しないとさぼってると思われるんだよ」

 ディルスは冗談めかして笑いながらアリンの隣に歩いていく。


 アリンは今の会話にそこまで違和感を感じなかった。

 強いて言えばディルスの信用は十分にあるはずで、自虐してまで冗談で済ませることはない。

 一方、日ごろから自分を過小評価しているディルスが言いそうなことでもある。


 アリンは再びこの場での追及をあきらめた。今度はアリンから話しかける。

「…フェリドの実力は理解した。我も王に報告する。後は頼んだぞ」

 アリンがディルスの肩に手を向けるとそれまで舌を出すだけだった白蛇が、ディルスの首回りへ渡っていった。

 ディルスが「ああ、お疲れ」と短く言うとアリンは静かに練兵場から出て行く。



 フェリドたちの姿が完全に見えなくなるところまで歩くと、ゆっくり立ち止り口を開く。

「一角獣よ、不穏な動きがある。ディルスとレスドアを探れ」


 アリンが他の人影が見えない空間で誰かに話しかける。

 返事のないままアリンが再び歩き始めた。


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