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7話 最近親友の様子がちょっと変なんです。

私は中村涼香(なかむらすずか)。2年3組だ。


 お昼休み、中庭へ向かうと、瀬戸綾香がいつものベンチに座っていた。

 私たちの定番のランチスポットで、1年生の頃から毎日ここで一緒にお弁当を食べている。周りの喧騒から少し離れて、静かな時間を過ごせる場所だ。


 綾香は黒髪を風になびかせながら、お弁当を開いていた。まるでドラマのヒロインみたいな佇まいで、やっぱり美人だなぁと思う。

 でも、そんな彼女も私にとっては親友であり、対等に接してくれる大切な存在だ。


「やっほー、綾香!今日も一緒にお昼ご飯たべよっか!」

「うん!涼香」


 いつものように明るく声をかけると、綾香は柔らかく微笑んでそう返してくれた。

 この笑顔を見ると、なんだか安心する。

 周りの人たちは「近寄りがたい」とか「完璧すぎて話しかけづらい」と彼女を言うけれど、私はそんなことを感じたことはない。

 むしろ抜けているところもあって普段とのギャップも相まって可愛いくらいだ。


 綾香とは、1年生の時に同じクラスの1組だった。それでも、当時はあまり深く関わることはなかった。彼女は美人でクールな雰囲気を持っていて、正直、最初は少し話しかけづらかったんだ。


 でも、ある日、席替えで隣同士になったことで、少しずつ話すようになり、いつの間にか親友になっていた。


 2年生になってから、私は3組、綾香は2組になった。クラスが離れてしまったけれど、こうしてお昼休みは毎日一緒に過ごしている。


 私たちはいつも通り、軽くおしゃべりしながらお弁当を食べ始めた。でも、今日の綾香はいつもと少し違う気がする。なんだか機嫌がいいというか、ちょっと浮かれている感じがするんだ。なんなんだろう。


「ねえ、綾香。最近なんかいいことあったんじゃない?なんか、いつもより機嫌がいいように見えるんだけど?」


 私がそう尋ねると、綾香は一瞬驚いた顔をして、すぐに


「そ、そんなことないよ、涼香」


 と返した。でも、その笑顔がいつもよりも柔らかくて、やっぱり何かあるんだなって感じた。


「ふーん、まあ、そう言うならいいけどさ。でも、何かあったら教えてよ?私、気になっちゃうから」


 軽く肩をすくめながら言ったが、内心は本当に気になっていた。綾香がこんなふうに機嫌が良くなることなんて滅多にないことだから。


 綾香は少しだけため息をついてから、私に向き直った。そして、声を潜めるようにして話し始めた。


「涼香、実はね……最近、とある人と話すようになったの」


 その言葉に、私は興味津々になった。瀬戸が誰かと話すようになったなんて、それだけでビッグニュースだ。

 彼女は友達が少ないわけじゃないけれど、特別に親しくなることは少ない。恐らく自分で言うのもあれだがこれだけ仲が良い人は私くらいだと思う。

 それだけに、今の彼女の状況が気になって仕方がない。


「へえ、そのある人って誰なの?もしかして……男子?」


 私が尋ねると、綾香は少し照れたように微笑んだ。そして、静かに続けた。


「うん、そうなんだけど、佐藤健太くんって知ってる?」


 その名前を聞いた瞬間、私は少し驚いた。佐藤健太──1年の時、私と綾香と同じ1組だった男子だ。


 あまり目立たないタイプで、正直なところ、印象が薄かった。


「佐藤健太くん?あの、1年の時に同じクラスだった佐藤くん?」


 私が確認するように聞くと、綾香は頷いた。


「そう、あの佐藤。実は彼、小説を書いていてね、それがすごく面白いの。私、今その続きを読んでるんだ」


 綾香の目がキラキラと輝いているのを見て、私は驚いた。

 あの佐藤くんが小説を書いていて、それが瀬戸の興味を引くほどだなんて、ちょっと意外すぎる。

 やりおるな佐藤くん。


「へえ、佐藤くんが小説ね……それで、どうなの?いい感じなんじゃないの~?」


 私はニヤニヤしながら聞いてみたけど、瀬戸はすぐに首を振った。


「違う、そういうんじゃないってば。ただ、彼の書く物語が好きなだけ。別に恋愛感情とかじゃないから」


 彼女がきっぱりと言うものだから、私は少し意外だった。でも、その言葉の裏には、何か別の感情が隠れているような気もした。だって、彼女がこんなに楽しそうに誰かの話をするなんて、これまで見たことがなかったから。


「ふーん、まあ綾香がそう言うなら、そうなんだろうね。でも、なんか面白そうな話だね。もしも恋愛に発展したら、ぜひ教えてよ!私、応援するから!」

「だからそんなんじゃないってば!」



 冗談めかして言うと、綾香はそう言って否定した。


 でも、私は心の中で密かに思った。綾香がこんなふうに誰かに夢中になるなんて、やっぱり普通じゃない。この先どうなるのか、すごく楽しみだなって。

 だって彼女は自分を周りに見せるのがあまり得意な人では無いからだ。


 お昼休みが終わる頃、私たちはいつものようにお弁当の片付けをして教室に戻った。


「じゃあね!」

「うん、また」

「綾香〜、また佐藤くんとなんかあったら教えてね」

「だからっ……!」

「それじゃあねぇ♪」

「もうっ、涼香〜!」


 綾香は相変わらず美人オーラを纏っているけれど、私だけが知っている秘密を抱えた彼女は、どこかかわいらしくも見えた。


 綾香と佐藤くんのこと、今は「ただの友達」って言ってるけど、その関係がどうなるのか、これからも注目していこう。だって、私の大事な親友がこんなに楽しそうに話してくれるのは、きっと何か特別なことが起きている証拠だと思うから。


 そして、もし綾香が困ったり悩んだりすることがあったら、私は全力で支えるつもりだ。

 だって、それが親友ってもんでしょ?

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