マスクの女
本日は連休明けの火曜日につき“火曜真っ黒シリーズ”でございます(^_-)-☆
『排尿器官を身の内に取り込むなど有り得ない!!』
初めて知った時から今日まで、その“怖気”と“思い”を持ち続けたまま25歳を迎えた。
勿論私の周りは当たり前の様に“憧れ”から“出会い”“別れ”また“出会い”と推移し、ウェディングベルを鳴らしベビーがやって来た友達も居る。
きっと……いや間違いなく私は……その度に回収する当てのない“ご祝儀”を包み続けるのだろう。少ない友達の数だけではあるが……
物心ついた最初の記憶は病院のベッドの上で、中学に上がるまでは1年の3分の1は病院に居た気がする。
決して“お嬢様”では無いが病院と言う名の“箱入り”だった私は持って生まれた性格も相まって引っ込み思案の内向き。
人と広く交際する事も無く中学高校を過ごした。
本来は大学を受験する予定だったが受験勉強で体調を崩し、肝心の試験は受ける事無く終了。
もう死にたくなるくらいに気落ちしたのだが“2級FP技能士”を通信教育で約2年掛かって取得し、今は父のコネで在宅ワークをしている。
つまり私の“社会への窓”は実質的にパソコンのモニターで……趣味で始めたオンラインゲームでネット上の“友達”が何人かできた。
その中でも交流の深い……とあるゲームの“ギルド”メンバーでオフ会が行われる事になり、最も仲良くしてもらっている“アビスジェイド”さんから誘われて私も出席する事になった。
実際にお会いするとギルドマスターの佐藤さんを始め全員男性(年齢は様々だが)で……着る物は急遽ネット買いしたワンピだし、マスクの他はピアスはおろかイヤリングやネックレスも付ける事ができず、メイクだって肌負けしないものしか選べない超地味な私でさえ“お姫様扱い”された。
こんな事は生まれて初めてだったので恐縮する方が先立ったが、“アビスジェイド”さんがアバターそのまんまの優しいイケメンで……本当に驚いた。
カレの本名は井深緑朗さん!!
「“アビスジェイド”と言うハンネは本名をもじったんだ!」なんてセリフを飛び切りの笑顔で言われて私は舞い上がってしまい、夢中でお話をした。
そうして迎えた2度目のオフ会は、カフェで緑朗さんと二人きりだった。
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1度目のオフ会の時、緑朗さんに勧められたSI-MAXの曲をサブスクし、つい鼻歌で出るくらいにヘビロテしたけど……コンサートへ一緒に行こうと言うお誘いはお断りした。
カフェに向かい合って座っている緑朗さんが残念そうに尋ねる「どうして?」って言葉が私の目頭と鼻の奥に滲みた。
私は力なく笑って自分のマスクを指差した。
「コロナ禍が収まっても私はこれを外せないの。昔からちょっとした事ですぐ熱発して何日も寝込んでしまうから。髪だって!! 外出するんならもっと短くして空気中の菌やウイルスを取り込まない様にしなきゃいけないけど、この髪は私が女性だっていう唯一の証だから……」
「そんな事無いよ!」といきなり緑朗さんに手を握られてビクッ!とした。
「髪、触ってもいい?」って聞かれて体が震えた。
「オレ! ずっと前に来未ちゃんの顔、見ちゃったんだよね」
髪を触られるのと掛けられた言葉の内容に私はドギマギする。
「来未ちゃんがガチャで引き当てた“ギャベシ”のフィギアの画像をUPした事あったよね!その時、後ろの窓が鏡になってて来未ちゃんの顔が映り込んでいて、可愛いって思ったんだ! 確かめていい?」
その言葉が終わらないうちに髪を滑ったカレの指がマスクの紐に掛かってスルリ!と脱がされた。
「あっ!」と言葉が漏れたくちびるにカレの……
途端に私は後ろに飛び跳ねてテーブルの上のスプーンとカップを盛大に鳴らした。
「はは!冗談だよ」
身を固くした私にマスクを返しながら緑朗さんは屈託なさそうな笑顔を向けた。
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しばらくはゲームにもアクセスできないでいたのだけど……やっとの思いでギルドを覗いたら『おめでとう!』の一色になっていて目を疑った。
その内容とは『アビスジェイドさんに“リアル二世”誕生!!』
あの人! リアルでは奥さんもベビーも居て……私で“遊ぶ”気だったんだ!!
『みだりに接触して壊れるのはカラダだけではない』と分かっていた筈なのに!!
痛めた心を“不毛”なカラダで覆って、私はますます殻に閉じこもる。
私はクルミ!
でも、名前とは違って……
私に未来は来ない。
おしまい
エチ要素は極力薄め、R15にはならない様、心掛けました(*^^)v
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