第1話;不敬な傭兵
アルターシャ視点
その人の出会いは、正直言ってあまり印象の良いものではありませんでした。
ぶっきらぼうな言い方に、私を王族とも思わない態度。
私の身の回りにはいなかった人間でした。
でも、今にして思えば、そんな態度が新鮮で、少しずつ 少しずつ、惹かれていったのかもしれません。
そんな私たちの距離を、一気に縮めたのはあの事件でした。
1.発掘現場での出会い
「今回の発掘作業は以下のような手順で行わせていただきます。
では作業員の皆さん!
どうかよろしくお願いします!」
そういって私は両手を広げ、そして頭を下げました。
ここは、私たちの国―テレザリウム王国がかつて都を築いていた場所―エルガルドです。
現在は完全に打ち捨てられてはいますが、私たちに取ってはとても大切な場所です。
ここには、王国が危機に瀕したとき、力を発揮するという神器が眠っているとされてきました。
今回の発掘作業は、そのためのものなのです。
私―アルターシャ・テレザリウムの仕事はこの発掘作業における国王の名代。
現場指揮は王国の学府にいるものが行いますが、神器の鑑定には王族の魔力が必要とされているため、そのために私は同行しています。
「では姫様はこの指揮所にて待機をお願い致します」
護衛の騎士に促されますが、私はそれを手で制します。
「いいえ。
せっかく現場に来ているのですから、もう少し私も見ていたいのです」
「ですが…」
困惑する騎士と私のやり取りはしばらく続きそうでしたが、鋭い声に遮られました。
「お姫様といっても、発掘作業に関係ないんなら、指揮所にいてほしいんだけどなぁ…」
声の主は女性の傭兵で、その人は笑っていない目でこちらを見てきました。
「正直さ、個人警護の訓練はしてないから、重要警護対象がいたら大変なんだよね」
「おい、貴様!それは不敬ではないか!」
「私はきっちり仕事をこなしたいだけで、そのための提案をプロとしてやってるだけ」
「傭兵風情が…!」
騎士が柄に手をかけようとしました。
「おやめ…!」
「…伏せろ!」
私とその傭兵の声が重なります。
次の瞬間、私は地面に押さえつけられていました。
「あ、あの…!」
「敵襲」
「え?」
「敵襲!逃げるよ!」
見ると、先刻まで私のいたところには、焦げ目がついていました。
「あんなのになりたくないだろっ!」
私はいつの間にか抱き抱えられ、そして…。
「ここなら安全なんだろ?
なら見つかるまでここにいなよ」
気がついたときには、指揮所に連れてこられていました。
「一体どうやって…?」
魔法の中には瞬間移動の術もあることはあります。
しかしそれは無詠唱でできるものではないのです。
釈然としない気持ちのまま、私は指揮所内の騎士に保護されていました。
この日、私はこれまで経験していないことをしたわけですが、その翌日もまた…私は大事件を経験することになるのです。
2.二日目の大事件
「あんなことがあったんだから、帰りゃいいじゃん」
指揮所の中、私は数人の侍女と…昨日の女性傭兵と一緒にいます。
正直気まずい…のですが、騎士団の増援も見込めないし、個人警護に割ける人員もそんなにいないので、致し方ありません。
「そうはいかないんです。神器の真贋鑑定は、発見次第行わなければならないし、それは王族にしかできません」
「不便な魔法道具だよねぇ。作ったやつは何を考えてるんだか」
「…王族への不敬よりも恐ろしいことを平然と行っていますね」
私はついに呆れた声を発し、眼の前の女性傭兵を見やりました。
「偉大な魔法使い…ウィンベールだっけ?
実際、不便じゃん」
「我が王家の血を継ぐものだけが真贋鑑定できるのも、発動できるのも、我が国の危機に対応するため、そして侵略者が使えないようにするための安全弁です」
そんなこともわからないのか、と言外の態度に含ませて私は言います。
「流れ者のあたしには関係ない話だ」
そう言って彼女は侍女が注いでくれた紅茶に手を伸ばしました。
「ところで…」
「何?」
「あなたのお名前は?」
「リージャ・ライエット」
「ではリージャ、昨日はどうやって助けてくださったんですか?」
「え?」
彼女は目に見えて動揺しました。
「どうって…」
「指揮所からはそれなりに離れた場所で、私は襲撃されたはずです。
でもあのとき、あなたは瞬時に指揮所に私は連れて行った。
瞬間移動の術ですらなく」
「…答えたくない」
リージャは苛立った声で、顔を背けました。
「答えられない、やましいことなのですか?」
「命の恩人に対する態度じゃないんじゃない?」
「あれぐらいの攻撃なら、私は退けられます」
「そうだとしてもちったぁ感謝したら?」
「感謝していますよ。でもそれと同じくらい、あなたのことは疑わざるを得ないのです」
「…勝手に疑ってたら」
舌戦、では私は勝てたようです。
その時でした。
「ま、魔獣だぁ!」
兵士たちの叫び声が聞こえてきたのです。
3.二日目の大事件―火炎魔獣サラマンダー襲撃
「魔獣…っ!?」
私は思わず立ち上がりました。
指揮所テントに手をかけたのですが、
「でるなっ!」
「でも!」
「あんたが出てどうなるものでもないだろっ!」
ここでじっとしていろ、と目で強く訴えられました。
「伝令っ!
火炎魔獣サラマンダーが出ましたっ!」
伝令兵が駆け込み報告します
「サラマンダー?」
「蜥蜴型の魔獣です」
「空は飛べない?」
「えぇ」
「なら…行けるか」
リージャはニヤリと笑いました。
「姫様。
あたしはどういう名目で雇われてるか知ってるよな?」
「遺跡発掘作業中の盗賊からの警護、でしたね」
「そう。
だから…これからサラマンダーを倒す任務ってのは契約外だ」
「何が言いたいのです?」
「追加料金でサラマンダー、倒してやってもいいぜって言ってるんだ」
「倒せるのですか?」
「さぁ?でも手数は多いほうが良いんじゃないかって思ってるんだけど」
挑発的な態度で、リージャは私を見つめます。
「良いでしょう。
あなたのことを雇います。
サラマンダーを倒してください」
「了解っ!」
リージャは駆け出しました。
4.二日目の大事件―サラマンダーとの戦い
魔導モニター越しに私は戦況を見つめています。
「たありゃっ!」
裂帛の気合の叫びとともに、リージャが宙を舞います。
「…優雅ですね」
「えぇ…本当に」
侍女たちが嘆息しています。
「…あれは魔術、ではなく、体術…なんですね」
そうこうしているうちに、リージャはサラマンダーの鼻先に飛び乗りました。
「い、一体何を…?」
私が次の言葉を発する前に、リージャはサラマンダーの目に剣を突き刺します。
「なんて無茶な…」
片目を潰されたサラマンダーは激痛に耐えかね、首を振り立てます。
リージャは…、そこからは再びジャンプし、優雅に一回転して着地を決めました。
そして…サラマンダーは地中へと逃げ帰ったのでした。
けれど、私はサラマンダーを撃退したことの喜びよりも…、あんな無謀な戦い方をするリージャに…腹立たしい気持ちと疑念が生じ始めました。
(あの人はきっと…この星よりもずっと重い重力環境下で生きてきた人なんだわ。
でなければ体術だけであんな事ができるはずがない)
(いや、それどころか…あの人はもしかしたら『世界を超えてきた』のかもしれない)
(普段だったらあんな無謀な戦い方を厭わない人に称賛の声なんか送れない。
でもあたしは…あの戦い方に二度も助けられた)
(もしあたしの推測が正しくて、「世界を超えてきた」のが事実なら、あの人は『世界を救う義務』があるはず。
でもあの戦い方を続けていたら、世界を救う前に命を失ってしまうかもしれない)
(私だって王族の端くれ。
『世界を救う者』が正しく義務を果たすためにも、道を指し示さねば!)
そう思った私は…慌てて指揮所の外へと飛び出しました。