地元じゃ有名ってやつ
山羊ズとの話です。
山の上にある大学に通っていた私は自然に囲まれた環境で寝っ転がるのが好きだった。
ある時は図書館で、ある時はグラウンド横の土手。特にお気に入りだった寝っころスポットはテニスコート横の小さなひろばだった。
ひとりで寝ていたのだが春頃だったと思う。
大学に学生たちのプロジェクトで小さなひろば横に山羊がやってきた。「あさひ」と「とも」である。
山羊たちは私のお気に入りスポットの草花をよく食む。
あまりにも近くでよく寝るもんだから私にそのうち、あさひとともは「メェメェ」と高枝の葉をせがむようになった。どうやら山羊たちの召使にでもなったらしい。
召使になってから数か月。いつの間にか親しくなったプロジェクトメンバーからあさひが身籠ったことを聞き、私は小屋の近くで昼寝をすることが多くなった。
ある日の昼、ひろばで寝ていると「メェーメェー」と繰り返し鳴く声に目を覚まして様子を見るとどうやら産気づいたらしかった。
この後知ったのだが鳴き声にも意味があるそうで、何度も長く鳴くときは困っていたり助けを求める声だそう。
頼ってくれたことは嬉しいが素人が何をできるわけでもなく、近くでおろおろするともを見て「山羊も人間とそんなに変わんないんだなぁ」とか思いながら学生生活課に連絡をしてプロジェクト担当の教授と学生たちを呼んでもらったのだった。
三頭生まれたのだが、親に似たのかよく寄ってくる。
私が走ると追いかけてきたり「ンメェェェ」だとか「ククククク」と鳴いて頭を擦りつけてくる。愛い奴愛い奴。
ただ数か月一緒に過ごしていると子山羊のうちの一頭が背中に乗ってきたり頭突きをするようになった。教授が言うにはこれはマウンティングというらしい。
なるほど、二世が増長する話は人間界でも聞くが山羊界でもあるらしい。
私は戦った、齢数か月の子山羊たちと。
追いかけっこで勝負して、された頭突きをそんなものかと受け止める。
会うたび会うたびそれを繰り返していると次第に子山羊は大人しくなりどうやら敵わないとわかってくれたようだった。
山羊たちとの大学生活で得たものが二つある。
一つは思い出。今でも思い返す大切なもの。
もう一つは「山羊使い」っていう称号。
普通の日も、大学祭の日もそんなことをしていたもんだから恥ずかしいことにバザーに来ていたご婦人たちにも知れ渡り気づけばそう呼ばれるようになっていて、どうやら私は地元じゃ有名ってやつになってしまったようだった。
読んでいただきありがとうございました。
投稿二日目です。読んでくれたあなたの評価が嬉しかったので続けて書いてしまいました。