023 裏荘騒動(4/4)
ラザロは思う。
もうそろそろ集中力が低下してくる頃か、頭痛も感じてきただろう。
呼吸が荒くなり、脈拍数が増え、正常な判断が出来なくなってくる。
ラザロは風を操る力を得た。
範囲を限っての事ならば、特定の大気を操作することも難しくなかった。
村民が座る場所の大気の酸素濃度は、18…16…14%と減っていた。
判断力を失わせ、物理的な抵抗も出来なくする。単純だが、有効すぎる一手だ。
このままに酸素濃度を低下させれば、あと数分で皆の命を奪うことも容易だが……。
[いいぞ、もっとやれ。それこそ、我が“殺戮の人柱”にふさわしい]
ちなみに彼ら大いなる存在が生命の一斉排除によく使う一手でもある。地球上で起きた5度の大量絶滅の全てで酸素濃度の低下が確認されている。
「いいかね。ここに御薬園にあった書簡がある。今回の事案の証拠となることが書かれてあった。
ここでも村長の家を強制捜査しようか。そこでも、事案を裏付ける物が出てくるだろう。
それとも、そこの者の証言が信用できないと言うのならば、あの家屋の半地下に収容されている者たちに事情を確認するかね。
他にも、この村の罪について、証言したい者はいるのではないか。いるのなら、さっさと申し出ることだ。でなければ、すべて同罪とみなす」
最初の柏手の時点で、気配が弱まっている者たちが集まっているのは気付いていた。
気配とは生命力だ。少しでも、動かしたら治療が必要に思えた。だから、後回しにしたのだが……。
村人が広場に集まるまでの時間に、ハンナマリから御薬園の人員構成について聞き取っていた。
合わせて推測すれば、恐らくは捕まっているのは各種組合の技術者たちだろう。食事と引き換えに技の伝授でも強要していたか。新たな人員を派遣してもらうことは出来ないのだから、そのようにするしか技術を得ることは難しかっただろう。
ラザロの発言に、村長が自認村長をにらみ、ハンナマリが自分の部下もそこにいるかも知れないと彼らを案じる。
追い詰められれば、暴発する者も出てくる。
どうせ終わりならと、一か八かの賭けに出る。
そんな者が自警団の中にいた。
「“青の脚”がどれだけ偉いと言うんだ。
要はこいつ一人をどうにかすればいいだけの話じゃねえか。
野郎ども、やっちまえ」
「あっ、あれは村長の息子です。御薬園に連絡だと言って度々きていました。
なんで、あなたがここにいるの!民兵の召集に応じていなければならないはずでしょう?」
ハンナマリが鋭く指摘する。
民兵の召集は村単位で行われ、以降帰還するまで基本的に行動を共にする。その時の代表者として、村の首脳陣もしくはそれに準ずる者が努めなければならない規則となっていた。
「私の息子は、召集前に出奔して行方知れずになっている。そいつは先日、養子に迎えた者だっ」
「そんな誤魔化しが通じると思って!」
村長の発言に、ハンナマリが激昂している。
「うるせえ、死ねやっ」
養子が剣を振り上げ、ラザロに襲いかかる。
ラザロが何かをした様子はないが、彼は弾かれるように横にすっ飛んでいった。
彼の首と、振り上げた腕の部分に出来た抉られたような傷から血が流れだす。
人の身で“風の結界”に突っ込めば、そうなる。見えないから、気付きようもないが。
「ショウタぁー」
村長が息子の名を叫ぶ。
「あれ、痛くない」
一言を残して絶命した。酸素濃度は低くなると、傷の痛みも感じなくなる。
村長の息子の身体から何かが出たと思うと、ラザロの頭上に生まれた“黒の裂け目”に吸い込まれていった。
あんなのには勝てない。
自警団が剣を落とす。一人また一人と。
やはり、“青の脚”さまは、逆らってはいけない存在だという事が、心底から分ってしまった。
「話します。全部、話します」
あちらこちらから、悲鳴のように声があがった。
「後は任せていいか」
「彼らから話を聞いて、紙に書き留めてちょーだい」
ハンナマリに言ったつもりだったが、横にながされてしまった。まとめは自分でやるようだが。
どうやら、囚われ人の治療をしたいようだ。薬師という立場を考えれば、そういうものか。
幼子にあまり見せたくないような状態になっていると思うので、二人には外で待っていてもらうしかないな。
そう考えて、腰をあげて、村人たちは傭兵にまかせる。
「あ、あーっ」
村長が何を思ったか、落ちた剣を腰だめに姉弟に向けた。
それを許すラザロではない。
気流を胸にぶち当てた。
魔獣と比べて、人種の耐久力など微々たるものだ。
村長の情報素子は息子と同じ道を辿る。
しかし、今度はラザロも勝手に開いた“黒の裂け目”に気が付いた。
収納家具とは、サイズ感が違う。非常に小さく目立たないかと思いきや、皆の視線を集めていた。




