022 裏荘騒動(3/4)
“青の脚”、それは彼らが青く染めた脚衣を身に着けていることから、そう称されるようになった。
正式の職名は、遣蒼使。
神聖ヴィータの聖帝に任命される、聖帝の代理人。
武の“十二天将”に対して、文の“遣蒼使”と言われる。
彼らの仕事は、国主または領主らから他領にあてた国書を預かり運ぶことだが、世上の噂では諸国を行脚、巡視することこそが目的との声が喧しい。
各人がそう言われるだけの足跡を残しているし、聖帝の信任を得るほどの権力と実力は苛烈で、“遣蒼使”と口に出すことさえも恐れ多いとされるが故に、あからさまに言うのを避けるための方便として“青の脚”と呼んだ。
その聖帝と聖帝が支持する偽神が作り始めた理を破壊するために、大いなる存在(この世界の管理者、この星の意志)が送り出したのが、多鎖 良座郎の精神を宿した“殺戮の人柱”な訳だが……
***
「で、そちらは何の用だ?」
「私は、“得域の国”薬師組合所属、一級薬師のハンナマリでございます。
“青の脚”さまのお力をお借りしたく、お願いに上がりました」
なんでしょう。その“青の脚”というのは……。
先程も門衛に陰口のようにその言葉を言われたのだが、それとも、“阿呆の葦”かな。考える葦みたいな……。
先ず、その“青のなんちゃら”が何かを聞きたいのだけど、それは聞いたら絶対ダメだと言うのは、摩術に頼らなくとも分かる。
さて、どうしよう。
「……ですが、先ずはその前に。
アンジェちゃんにジェイドくん、マリ姉ですよー。無事でよかった。
あなたたち、アレが逃亡しないように処理しなさい。“青の脚”さまのお手を煩わせる気ですか!」
すごいな、この人。話す対象に応じて、三段階の変わり身を見せたよ。
指示を出された玄関の外にいた者たちがきびきびと動いてる。彼らは武装をしているが、装備は揃っていない。
姉弟がきょとんとしている。
だって、ハンナマリさん、どうみても、年齢が僕寄りというか、お姉さんと言わせるには無理があると言うか。
「……ほら、あなたたちのお母さんのエッレンのお友達のマリ姉ですよー。
この子たちの母親のエッレンには仕事を手伝ってもらっていたのです」
なるほど、エッレンさんは薬師だったのか。趣味が“家庭菜園”じゃなかったんだね。
この人は姉弟の家の事情通か?おじ設定はどうしよう?
「あっ、マリ姉?」
ねいちゃが思い出したみたいだな。何に対して疑問符をつけてるか、おじさんには分からないが。
弟くんはう~んと首を傾げすぎて、抱えた腕から落っこちそうだ。
「ラッ、ジジィ。だ~れ?」
しかも、ここでその設定をぶっこんで来るか。覚えていたのは、えらいぞー。
頭を撫でてあげたいが、両手がふさがっているので、頬すりすりでスキンシップだ。
きゃっきゃっ。(しつこくすると嫌われるので、一回だけにする)
ハンナマリさんが、顔を青くしている。
「“青の脚”さまに、ジジイだなんて…」
「この子たちはいいんですよ。
じぇいのかぁたんのお友達だって、じぇいも会ったことあるみたいだぞー」
「う~ん?」
印象が薄いみたいだ。家の事情通の線は消えたか?
「あなたの頼みとやらの前に済ませなければならないことがある。
民兵の召集令状に対して意図的な選抜を行ったことと、彼らの財を収奪した罪について、この村に問わなければならない」
ハンナマリさんがそれを聞いて、顔を輝かす。
「私の願いも、同じところにあります」
「では、ついてきなさい。
それと、私の名はラザロだ。“青の脚”とは呼ばないように」
「はい、ラザロさま。お心のままに」
日本でも公的な立場の“詐称”は(軽)犯罪だ。一応、否定したし、自分からは名乗ってないし、大丈夫だよな?
姉弟は外に出ると、機体からそれぞれの巾着袋を出し、ペットボトルから水分を補給した。
一度、うがいしてから飲んでる。ラザロの衛生観念が染み付きつつある。
確かに酒臭かったもんな。(カレヴァ菌を洗い流しているのかも知れない)
「移動するから、二人はそのまま乗り込め」
機体を浮かす。
ハンナマリは目を大きくして固まっている。どこで驚いたのだろうか。
「この村に住む者に告げる。
今から、村の中央広場にて、この村で起きた罪について問う。住人は全員参加するように。
尚、家屋に閉じこもっている者は罪を認めたとみなす。
二度は言わない。すぐに集まるように」
ようにー、ようにー、ようにーと木魂のように末尾が反響している。
ラザロが自分の声を風に乗せたからだ。
村人が広場に集まってくる。
ラザロは、機体のサイドポッド(乗員席の脇、桝型の水が収納されている所)に腰を掛けて待つ。
目を開いて、とある方向を見ると、戸口の引き戸が弾けた。
どぉーん。
彼が気流をぶつけたのだ。
中の住人が慌てて飛び出してくる。
これでほぼ揃った。残りの対応は後にすることにしよう。
中央前部に村の首脳陣、その後ろに門衛ら自警団が10人。住人に対して、随分と人数が多い。
右手に裏荘の村民、左手に御薬園の下働きが、地べたに座っている。
機体に腰掛けたラザロは皆を見下ろす様子だ。ハンナマリと護衛の傭兵2人は脇に控える形で立っている。
始める前に幼子を抱いた母親と、就学児童な見た目の子供を脇に避ける。
「集まったようだ。では、始めよう。
民兵の召集令状に対して意図的な選抜を行ったことと、彼らの財を収奪した罪について。
言い訳を聞こうか」
証拠を突き付けて、段階を踏んで論破していくなんて、相手に付き合うようなことはしない。
こいつらはやった。
それは分かっている。
自分は随分と偉い立場にあると勘違いされているらしい。
それを充分に利用させてもらおう。
「そんな、ご無体な。
“青の脚”さま、それは勘違いと言うものでございます」
「勘違い?
お前には殺人教唆の容疑も掛かっている。簡潔に済ませよう。私の時間を無駄に消費するような言動は控えたほうが良いと警告する」
「そうよ。アレが白状してるのだから、諦めなさい」
ハンナマリの威勢が良い。
絶対的な権力が味方について、勝ち確定なのだから、その態度も推して知るべしだろう。
「彼は村でも評判の嘘つきでして、彼の言う事を信じる者など、この村にはおり……」
村長に一瞥されたアレ=カレヴァがその場から離れようと、ずりずりと後ずさる。
ばぁーん。ぐえっ。ゴロゴロゴロ。ぴくぴく。
ラザロの気流を鳩尾に受けたカレヴァの結果を見て、皆の顔が青い。
「聞こえなかった。もう一度、言って見ろ」
皆の顔が青い。
村長らはラザロの威圧が想像以上だと感じていた。
“青の脚”とはどれだけ恐ろしい存在なのかと。
広場に村人を集めた時は、村長の側には百数十人がいて、対するラザロ側はたったの4人(幼児は除く)なのだから、村長の態度にも当然の余裕があった。
だが、ラザロがわざわざ全員を一か所に集めた理由をはき違えていたようだ。
幼児の安全・安心に気を配るラザロの用心深さを村長らは知らなかった。
皆の顔が青いのは、精神的なものではない、肉体的なものだ。




