021 裏荘騒動(2/4)
開拓村の村民は基本的に有志と募集によって構成されるが、村を起こすのに必要な人員が簡単に集まるはずがない。確かな技を持った職人は、そんな場所で腕を振るうよりも必要とされる場所がいくらでもあるからだ。
故に、村の立ち上げには、各種組合に申請して、年次を区切って職人を派遣してもらうことで体制を整える。
最初に必要とされる土木建築はもちろん、鍛冶、狩猟、薬師などがそうだ。
村は基本的に三役(名主、頭領、代官)の合議で運営されるが、組合から派遣された職人はその身分を保証され、そのどれからの指示も受けない。
三役から受けるのは依頼であり、彼らの下に徒弟として村民が師事するのが一般的だ。
***
人心地つけて、心身を平常に戻したラザロは姉弟とともに機体に乗り込み、二人が住んでいたと思われる村に進路を向ける。
速度はあまり出さずに、ゆっくりと近づく。相手の出方を伺う。
ラザロは後尾に腰を掛けて、いつでも反転できる態勢を取っている。
ある程度の距離まで近づくと、一人の門衛が手の平をこちらに向けたので、ラザロは止まれの合図だと思い機体から降りて、そこからは機体を片手で押しつつ歩いて進む。姉弟は乗せたままだ。
話術に自信があれば、軽く微笑んでみせるのだろうが、どうしても表情が硬くこわばってしまうな。
ちなみに門衛が手の平を向けたのは、摩法の発射姿勢をとったと言う事、つまり、銃を構えたのと同じ意味だ。“それ以上、近づくと撃つぞ”と言う意思表示である。
だが、ラザロが全身を見せると、二人の門衛があり得ないほど慌てているのが態度ややり取りで分かる。
「“青の脚”だぞ」
確かに青のジーンズをはいているが……。何かの隠語か?
「もう、おしまいだー」
そんな会話が聞こえる。
「村長とその関係者に会いに来たのだが、中に入れてもらえるか」
「はい、喜んで」
手の平で合図をよこした門衛は、その手を自分の胸に当てている。
おしまいだーの門衛は、両手を後頭部に合わせて直立不動だ。視線を合わせることもしない。
共に手の平を隠して“貴方を攻撃する意志はございません”の意だが、ラザロには伝わらない。
ラザロは頭の中で、“居酒屋かよ”とつっこんでいた。
胸手の門衛は、門を開けると「自分は村長にお越しになられたことを知らせて来ますので」と言って走り去ってしまった。
「あっ、逃げた……」
視線を向けたら、直立不動。だるまさんが転んだかよ。
「入っていいのかな」
「はい、自分は門衛の職務がありますので、ここから動けません。案内できずに申し訳ありません」
なんだろうな。初手から想定とだいぶ違う。場合によっては一戦も辞さずの心構えだったのだが、空城の計とか中に取り込んでから押し包むみたいなこともあるので油断はしない。
ぱぁーん。
門をくぐってすぐに、柏手を打つ。
もちろん、儀礼とかではなくて、村の状態と相手の位置を把握するためのものだ。
家屋は30棟と少しで、行き止まりの村とあまり変わらない規模だが、人は180人くらいで、戸数を考えると多く感じる。そのほとんどが家屋の中で固まっている様子だ。やはり、何かの策略か?
広場に人が集まっているな。門衛の呼び出しに応じたか。だが、それは後回しだ。
「ねいちゃにじぇい、どうだ、見覚えはあるか」
「あっち」
弟くんは少し興奮状態だ。
「ねいちゃは、じぇいから離れないようにな」
アンジェが頷きを返すのを見て、指さす方に向かう。
どうやら、ここで当たりらしい。
先ずは、二人の自宅の確認からだ。もしかしたら、両親が帰ってきていて二人を心配しているかもしれない。
目指す家屋に気配は一つ。
弟くんが待ちきれない様子で機体から降りて、引き戸を開けた。ねいちゃがすぐに続く。
左半身にもどかしさを感じながら、遅れて家屋に入ると中は荒れていた。
「誰だ、お前らは、人の家に勝手に上がり込んでんじゃねえよ」
酒臭い。昨日の残り香か、吐く息も相まってひどい匂いだ。
「ここが二人の家か?」
ラザロは姉弟の頭に両手をのせて尋ねる。手に首肯の動作が伝わる。
「……お前こそ、誰だ?ここはこの子たちの家なんだが!」
しかし、本人の返答を聞くまでもなく、幼児たちが教えてくれた。
「「カレヴァおじさん」」
「そうか、てめえか。この子たちに飢えの苦しみを味わせたのは!」
ラザロに怒りの衝動をぶつけられ、酔いも醒めたカレヴァが幼子の正体にも気付く。
「ひぃっ」
それはそうだ。
頭に帽子替わりのタオルを被り、首元に洒落たハンカチーフを巻き、服は解れのない状態で(結局、裏地に当て布をして補強した)、手足も素でなく布地で覆っている。肌が出ているのは顔だけだ。腰に赤い模様のついた真っ白な布まで下げている。
そんな姿は話に聞く御貴族さまくらいのものだろう。
「ちっ、違う。俺は命令されただけなんだ。本当はやりたくなかったんだよ。お前たちなら、分ってくれるよな、な」
幼児たちは無言だ。ラザロにはその表情を見ることはできないが……。
子供なら言葉で言いくるめられると思ったか、クズが!
幼くても、しっかりと見て、いろいろと考えて、生きてるものだ。そんな安っぽい言葉に騙されると思ったら大間違いだ。
ラザロは二人の肩に手を置き、しっかりと引き寄せる。
大丈夫だ、おじさんがついてる。
「ほぅ、誰に命令された」
「それは……」
「やはり、言い逃れのための嘘か」
「違う。村長の奴が森に捨ててこいって言ったんだ。
だけど、俺は出来なくて、あの村に置いてきたんだ。いや、かくまったんだ。そうだ、俺はその子たちを守ろうとしたんだよ」
誰かの気配が玄関に入り込んでいるのが分かった。他に、玄関外に二人。だが、背後に迫る者からは怒りを抑える衝動しか感じない。
「なるほど、守ろうとしたのか」
「そうだ。分かってくれるか」
「ならば、お前の意志を尊重しよう。お前をあの何もない“行き止まりの村”に送ってやる」
「えっ」
「その前に、この家の財を使いこんだようだから、それは保障してもらう」
「ちょっと待ってくれ。そんなことされたら、死んじまう」
[そうだ、ちょっと待て。何故、その場で殺さぬ、我が殺戮の人柱よ。
それでは輪廻に還らぬではないか]
「この子たちのことを本当に思ったのならば、お前が一緒に住むことも、食料などを運んでやることもできたはずだな。
それをしなかったお前はそうしなくとも大丈夫だと思ったんだろ。大人なお前なら、尚更に問題ないはずだな、以上だ」
お前には、死すら生ぬるい!
飢えと渇きに苦しんで死ね。
[ちっがーう、そうじゃない!
えっ、どこで間違えた?
死を越えちゃってるから良いの、いや、それでは我の目的が。
ちょっと待って……ツーツーツー]
「ねいちゃとじぇいは、掃除が終わるまで外で待っていようか」
姉弟が脚衣をぎゅっと掴んできた。
「らじゃろといっしょにいる」
「のど、かわいた」
ラザロは二人を片腕ずつに抱え上げた。
二人が人の温もりを少しでも感じられるように……。
「で、そちらは何の用だ?」
「“青の脚”さまのお力をお借りしたく」
ハンナマリが膝をついて、頭を下げていた。




