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017 準備(後)

 幼児の服が物干しに棚引いている。

 二人には、“ゴロゴロ禁止令”が出された。上着が一着しかないので、それも仕様がない。

 ゴロゴロは晴れた日に、替えのきく下着姿で、かつ、芋集めをした畑に限定されることになった。


 ヒヤリは体験したくないが、気付きも得られた。

 “空気の球”だが、自分で作っておきながら何だが、不思議な物体だった。

 触ると分かるが、外側を膜のようなもので覆って形状を保っている訳ではなかった。球の表面に手を置くと、指の隙間に煙が漂う。ポトフの香りがする。が、圧が違うと言えばいいのか、そこが境界だと分かる感覚がある。

 そして、幼児たちが遊ぶのを見ていて気付いたが、それは弾力があるのである。

 体重を掛けると潰れる。反発する。

 不思議だ。どうやって成立しているのか、理屈が分からない。


 が、そこに面白い可能性があることに気付く者は多いだろう。

 魔術は“風の結界”で分かるように、対象に紐づけて位置を固定することもできるのだ。

 つまり……

 “空気の球”の上に“燻製用の長手方向に二つずつの取っ手の付いた鉄板”を置いて、取っ手を掴みながら鉄板にそっと乗る。

 ずるっ。カラン。どん。(鉄板は固定されても、空気の球ごと回転する)

 痛ぇ!

 昔からバランスボールとかに乗るのは得意じゃないんだよ。

 くそっ。

 痛っ。

 うわっ。

 “空気の球”の強度?や大きさを何度も調整しながら繰り返す。

 理屈じゃないんだ。体感で会得するしかない。

 出来る。出来るはず。痛っ。間違ってない。やれる。マジか。くそっ。ん?

 ざまあみろ。やってやったぜ。

 試行を繰り返すこと、数十回。ぶつけすぎた肘がだいぶ痛い。

 ラザロはひしゃげた“空気の層”の上に鉄板を敷いて、乗ることに成功していた。


 姉弟たちは自分たちには注意をして駄目だと取り上げたのに、それで遊ぶ大人を半目で見ていた。

 乗れて喜んでいる。

 降りようとして、また、こけた。

 一本の薪を手にして、再び乗り込む。

 コツを掴んだのか。ゆらゆらとしながらも平衡(バランス)を保っている。

 薪を地面につけて押した。

「「おおぅー」」

 鉄板ごと滑るように動いた。


「ラジャロ―」

「ずるい」

 姉弟が寄ってきた。

「ちょっと待て、もう少し練習させてくれ」

 言いたいことは判る。

 鉄板に乗り込んで、土を詰めたレジ袋を1個、2個、3個と抱えていく。

 何度か失敗したが、なんとかなりそうだ。

「よっし、ねいちゃからだ。そっとだぞ。ゆっくりと乗れ」

 大丈夫そうだ。

 後は進むだけだが、ラザロは二人を抱え込んでいるので動けない。落ちる時は幼児たちを抱えたままに自分の背中からにしたい。

 ねいちゃがすりこぎ棒で地面を突く。一尺半ほどの長さがあるが、ぎりぎりだ。

「うごいちゃ」

 まさしく気分は「こいつ動くぞ!」だ。

 滑るように動く。恐らく摩擦係数がほぼゼロだからだろう。

「今度は止めてみようか」

 ねいちゃがちょいちょいと地面を突く。少し回転もしたが、止まることが出来た。

「じぇいもやるー」

「じぇいにはまだ早い。ねいちゃにまかせる」

「えっー、できりゅもん」

「ほら、二人とも喧嘩しない」

 玄関扉のつっかえ棒を持ってこさせて、村内巡り(ツアー)の始まりだ。

 視点が低いためか、速度(スピード)感が増す。幼児たちにとってはいつもの視点だろう。

 幼児たちは飽きがこないようだが、ラザロが先に限界を迎えた。

「足が痺れた」

 同じ姿勢で軽いとは言え幼児の体重を受け続ければさもありなん。

「「ええっー」」

 姉弟のブーイングを浴びて、村内巡り(ツアー)は意外と早く終了した。

 そして、移動の足の目途も立ったようだ。


      ◇


 車体の製作には数日を要した。


 それの見た目は、異世界風に表現すれば、“巨人の靴”と言ったところか。

 元の世界風ならば、冬季競技(ウィンタースポーツ)のボブスレーの(そり)に見た目は似ている。

 車台(シャーシ)は燻製用の鉄板だ。何度も焙られたためか、中央部が少し反っているのが感覚的に“空気の球”の収まりをよくしているように思える。

 周りの外装(カバー)はFRP製としたいが無いので(有っても加工できないが)、玄関扉の引き戸を解体して作成させてもらった。

 加速(アクセル)は三人がそれぞれに持つ玄関扉のつっかえ棒で地面を押して、減速(ブレーキ)は前部(幼児が脚で押し込む)と後部(ラザロが腰掛ける)に杭が地面に突き出されるようになっている。

 また、“空気の球”を消せば、前部底面と鉄板廻りの乗降前の自立用の4本の脚部がエンジンブレーキのような役割を果たしてくれるだろう。

 前部に車幅と同じくらいの長さの翼のような物が生えているが、これは飛ぶためのものではなく横転を防止するために付けたものである。

「まずは名前をつけるか。何が良い?」

「ガロウ(餓狼)」

「ぽち」

「ハヤテ(疾風)」

「おけみゃる」

「ジェイのを採用!」

 ねいちゃにアクセルを任せるのは危険かも知れん。

 フロントノーズに“おけまる”と書き入れ、サイドポッドに“アンジュ”と“ジェイド”と加える。スポンサー広告じゃないが、無地よりも気分があがる。愛着が湧けば、無茶もしないだろう。

「まずはテスト走行だな。村内巡り(ツアー)をする人!」

「「はい、はい、はい!」」

 二人とも元気いっぱいに跳ね回る。

 ミトン(二又手袋)をつけた手が勢いよく挙がる。


 直進は問題ない。加速は控えるつもりなので、減速も大丈夫そうだ。

 問題は旋回だな。反応が繊細だ。少しの操作で大きく曲がってしまう。後部ブレーキを杭状ではなく板状にして車体を傾ければ地面に触れて、曲がるとした方が制御が効くかも知れない。浮上高さと言うか、“空気の球”の微妙な調整が必要になるが、安全には替えられない。


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