015 検証
「増えている。いや、戻っているが正解か」
弟くんが興味に惹かれてチェストの釦を押して、姿を現さなくなった“黒の裂け目”だった。
だが、再び現れてみると、消費した食材や使った下着やタオル類などが元の数量に戻っていた。チェストに戻していなかった醤油などは手元の分とは別に、未使用の状態で元の場所に収まっている。
もしかして無尽蔵なのかと釦に視線を寄せれば、その横の数字が大きく減っていることに気づく。
「そんなうまい話しはないか」
これが、“ゼロ”になると使えなくなるという事なのだろう。
そんなことを考えたら、数字が1減った。どうやら開いているだけでも、これは減るらしい。冷蔵庫かよ。ビニルシートでも垂らすか。(五感では分からないが、すでに膜はあったりする)
これはいろいろと検証が必要なようだ。
1.復元(釦を押して元に戻すことをそう呼ぶことにした)に必要な時間と点数はいくらか。定量なのか、消費した資材に比例するのか。
2.復元時点は常に初期状態なのか。それとも、前回に釦を押した時点になるのか。
3.元の資材を使用して作成した製品を収納した場合はどうなるのか。元の状態に戻るのか、それとも、消費した資材に上書きされるのか。
4.現地の資材を収納した場合はどうなるのか。
5.点数を回復する方法は?
考えつくのは、取り合えずはこの辺りか。
1,2と4に関しては、事例を一つ一つ積み重ねて確かめていくしかないだろう。
3に関しては、条件次第だが、点数を消費することになっても、費やす作業が省略できる利点がある。
5は祭壇と資源回収に何かを捧げるまたは投じるということだろう。その何かを探っていくことになるな。
その辺に落ちている石ころで試す気にはならない。さすがに祭壇に安易なものを置く度胸はない。
頭ではそんなことを考えながらも、姉弟の朝の給仕はおろそかにしない。個人で仕事をする者にとっては、この程度の複数処理など物の数に入らない。
「おいちかった」
「満足した」
「ココアはふぅふぅしながら、飲むんだぞ」
オートミールの袋の切れ端と焼鳥の空き缶を資源回収に放り込んでみたが点数は変わらない。時間経過が必要なのか。
「二人とも、休憩したら、燻製作りを手伝ってくれるか」
「(てつ)だぅー」
「わかった」
良い返事が返ってきた。
卓に網棚を広げて、漬けた肉をチャック付収納パックから取り出して並べてもらう。ある程度、乾いたら燻製する。乾燥肉の出来上がりだ。
バラ肉を切り出して、姉弟に金属製のフォークでブスブスと刺す作業を手伝ってもらう。後は顆粒だしを揉みこんで(顆粒だしの半分以上は塩分、使う塩の量の目安は肉の重さの2%)、再利用したチャック付収納パックに放り込んで冷暗で1週間ほど寝かす。その後、塩を抜いて燻製すればベーコンができる。
姉弟に骨についた肉をこそいでもらっているうちに、ある器具を作成する。
書類を入れるクリアシートを丸めて紐で固定し、ペットボトルのキャップを木棒の先端にはめて、さらに布で覆って、クリアシートの筒との隙間をなくす。お手軽、押出し器の完成だ。
これに洗いに洗い次いでボイルしたケーシング(泥猪の小腸)を靴下を履かせるようにたくし込んで、味付けした肉だねを筒から押し込んでいくと……。
「ゆっくりと押すんだぞ」
ソーセージが生まれる。
「「おおっー」」
押すだけでなく、ケーシングを引き出す感じで整形しないとうまくいかないので、二人以上が必要だ。空気が入ってふくれてしまったら針で突いてやれば問題ない。弟くんがそれを今か今かと針を持って待機している。
後は、適当な感覚で捻って、例の形にしたら、1-2時間ほど乾かしてから、ゆでる。保存用はさらに燻製する。だが、あまり日持ちはしないのでそこは期待できない。
「お昼はソーセージだな」
◇
早速、ソーセージを頂きながら、ついでに乾燥させていた開いた小魚も軽く燻しておく。
「おしゃかな、いっぱい」
「だいぶ、たまった」
姉弟は喜んでいるが、ほとんどがタンパク質なんだよな。備蓄は炭水化物だし。幼児の健康には野菜が必要だ。
そんなことを考えていたら、空模様が怪しくなってきた。
「雨か。二人は洗濯物を家に運んでくれ」
ラザロは、小魚を回収していく。あちっ。
「あー、本格的に降ってきちゃったな」
玄関から空を見上げて言う。
それと動くモノの気配が全く感じられない。まるで、カーテンで遮られているかのようだ。風の気配察知には弱点があるようだ。
ラザロは雨が上がったら、村の出入り口に鳴子を仕掛けることを工程に入れた。役に立つかは分からないが。やらないよりは良いだろう。
鳴子で思いついた。
「そう言えば、ここに……あった」
薬箱の1段目の下部にミニライト付きの十徳ナイフを収めた小袋の中に防災用ホイッスルを見つけた。それとカラビナに付けた予備の1個も。
それと裁縫箱の中から組紐を取り出して、防災用ホイッスルを通して結ぶ。
十徳ナイフは小袋のままにカラビナで自身のベルトに着ける。
「二人とも、ちょっと来―い。
いいか、変な人に絡まれたり、緊急な時にはこれを吹くんだ」
屋内でも動き回っていた姉弟に声を掛ける。弟くんの歩様に問題はないようだ。
そう言って、二人の首に防災用ホイッスルを掛ける。
本当は防犯ブザーがあれば良かったのだが、独り身かつ男性では購入機会がない。
ピィーーー
そうそう、そんな感じだ。
ピィーーー
うん、ピンチの時だけにしような。
ピィーーー
気に入ってしまったようだ。
寝室で携帯の音楽を鳴らす。
今回はFFシリーズのジャズアレンジだ。
寄ってきた姉弟は笛を吹くのを止めた。音楽に聞き入っている。やっぱり、情操教育に音楽は必要だよな。(はい、知ったかぶりです)
雨に遮断された屋内で、静かに流れる音楽の中で、隣の寝台でラザロは物を作り始める。
作るのは、背負える巾着袋だ。村長宅の厚手の敷布を裁断して作る。すぐに終わってしまった。帯の部分は材料は革で用意はしてあるが、ポンチ穴など続きは作業所でないと出来ない。
「二人とも、どれが好きだ?」
白、黒、青系2、赤系2のネクタイだ。
冠婚葬祭用の2本は別として、残りの4本は値段を思い出して処分をためらってしまった。
別に幼児にフォーマルな装いをさせようとは思ってない。
仕立て直す。
二人とも青か。ねいちゃが弟くんに先に選ばせていた。恥ずかし気にわちゃわちゃしている感じが楽しい。
長さを測って、ざくっと大剣部分を落とす。あっ、と言う二人の顔がせつない。
切断側に先日の丸環を2つ通して縫い合わせれば完成なのだが、それではつまらない。
落とした大剣部分を剣先が蓋になるように加工して、本体の縫い目を補強するように縫い付ければ、小物収納付きの腰帯が出来上がる。
弟くんを呼んで、ねいちゃには腰帯を渡してマネをさせる。
腰に回して、小剣部分を丸環に通して折り返し、今度は二つの丸環の間を通して引っ張れば固定される。
「ここに大事な物をしまっておくんだ」
ねえちゃもちゃんと出来ている。
そう言って、拾った数枚の銀貨を小物入れに収めて、ぱちんぱちんとスナップボタンを留める。そして、外からは見えないように、脚衣の中にしまい込んだ。
「ありがと」
「ありがちょ」
ねいちゃに恥ずかし気に初めて礼を言われた。少しは心を開いてきてくれたかな。




