表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートトーナメント  作者: 掘削名人
予選リーグ
8/22

第2グルーブ第2試合

 第2グルーブ第1試合が終わった頃、第1グルーブ第2試合で敗北したバルトも医務室に運び込まれていた。回復アイテムにて治療を終えたバルトは意識を取り戻した。


「よう、目が覚めたようだな。」


 意識を取り戻したバルトに声をかけたのは、オートだった。右腕を潰されたオートの回復は、ルートに比べて遅く、全回復したルートは先に部屋に戻ったのだが、痛みがまだ残っているオートは、まだ医務室に残っていたのだった。


「誰だ?お前は?」


「俺か?俺は、オートだ。お前より先に戦った者だよ。試合を見てなかったのか?」


「ああ、見てなかったよ。」


「なんで、見ていなかったんだ?」


「興味がなかったからだよ。でも、今はそれを後悔している。俺は、自分が最強だと思っていたから、相手の事など眼中になかったんだ。それが、大きな油断に繋がったのだと思う。もっと、上手く戦っていれば、負けることはなかったんだ。」


「そうなのか。でも、お前の相手のあのスピード、あり得ない程の速さだった。それでも、勝てる見込みはあったのか?」


 実は、この医務室内でも、モニター越しに、闘技場の様子を見ることが出来るのだ。意識を取り戻したオートは、医務室から、対戦を観戦していたのだ。途中からの観戦にはなったのだが、クロスのとんでもない速さの移動スピードを目の当たりにしていたのだ。


「ああ。俺のスキルは、相手が何をしてこようが関係ない。俺が、もっと全力を出していれば、と今は後悔しかない。」


「まあ、まだ、1試合が終わっただけだ。今度は、最初から全力を出せばいいんじゃないか?」


「ああ、そうするよ。」


「なら、これから出てくる奴達のことも、知っておけば、戦略が立てられる。それで、全力を出せば勝率もあがるんじゃないか?ほら、モニターを見てみろ?ちょうど、次の対戦が始まる頃だ。」


 2人はモニターへと視線を移した。ちょうど、第2グルーブ第2試合が始まるところだった。



------------



さあ、続いて、第2グルーブ第2試合、エル、出身世界ジュエル対、デビット、出身世界トウエの対戦を始めます。始め!』


試合開始の合図と同時に、エルはバッグステップをしながらデビットとの間の距離を広げ、小型の鞄の中から、黒い球状の物を1つ取り出した。

 これは、魔力爆弾というもので、魔道具の1つだ。魔道具とは、魔力が込められた結晶を媒体に作られたもので、様々な効果を持っている。魔力爆弾は、その魔力で、その名前の通り、爆弾である。魔力を込めると、数秒後に爆発するのだ。だから、魔力を込めた後、相手に向けて投げる、というのが、一般的な使い方なのだ。エルも、通常の使い方通りに、魔力を込め、デビットへ向けて魔力爆弾を投げた。

 次の瞬間、魔力爆弾が、一瞬にして数百個にまで増えた。確かに、エルは魔力爆弾を1つしかっていなかった。なのに、エルが魔力爆弾を投げた直後に、一瞬にして魔力爆弾が増えたのである。これは、エルが所持しているスキル「増殖」によるものである。このスキルは、ありとあらゆるものを、自由に増やすことが出来るのだ。

 このスキル「増殖」は、かなり使い勝手がいい。ありとあらゆるものが増やせるということは、ダメージも増やせる、ということ。つまり、相手にかすり傷程度のダメージしか与えられなかったとしても、そのかすり傷が無限に増やせるのだ。つまり、最初に少しでもダメージを与えてしまいさえすれば、エルの勝ちなのである。

 そんな中での、無数の魔力爆弾。これだけの爆弾が一斉に爆発すれば、かすり傷どころではない。何より、この無数の爆発をかわすことなど不可能なのだ。端から見れば、確実にエルの勝利に見えた。


 だが、エルが放った無数の魔力爆弾は、いつまでたっても爆発することはなかった。それどころか、爆発せずにいる魔力爆弾は、なぜか空中で完全に停止したまま。ピクリとも動かない。無数の魔力爆弾全てが、全く動かなくなっているのである。不発で全て地面に転がるのなら分かるが、空中で止まっている、というのは、明らかに異常事態だった。


「な、なんだ貴様!何をした?」


「何をしたって、スキルに決まっているだろう。」


 エルの問いに、半笑いで挑発しながら、ゆっくりと歩きだすデビット。正体不明の異常なスキルを持つ相手に近付くのは危険だ、といち早く察知したエルは、再びバックステップをし距離をとる。


「これならどうだ!」


 距離をとったエルは、ファイアランスの魔法を発動させた。そして、これもスキルにより、ファイアランスを莫大な数に増やし、デビットへ向けて一斉に放った。すきるは違えど、マイルのMP無限のスキルと同じような戦法だった。


 だが、ファイアランスも、空中でピタリと止まってしまう。だが、問題はそれだけではなかった。デビットは、再び、エルに向かって歩き出したのだが、その間、デビットの体は止まっているファイアランスに当たっている。だが、デビットには、何一つダメージがないのだ。ファイアランスは、止まっているだけでなく、魔法としての機能までも停止してしまっているのだ。

 それ即ち、デビットのスキルは、対象の動きを止める、ということではない。その事は、さらに、デビットのスキルの異常性を高めていた。


「くっ。それなら、もっと強大な魔法を使うまでだ。」


「おうおう、頑張るねえ。だが、無駄なことだ。」


 デビットがそう言うと、エルは、魔法の使用を止めてしまった。これでは、デビットの歩みを止めることはできず、ドンドン距離を縮められてしまう。

 一歩、また一歩と、デビットは、エルの元へ近付いていく。その間、エルは、全く動こうとしない。


「く、く、くそ。な、何をし、しやがった!」


 エルのその言葉からすると、エルは、動かないのではなく、動くことができなくなっていたのだ。かろうじて、口だけは動かすことはできるのだが、指一本どころか、瞬きさえもできない。体を震えさせることもできないぐらい、エルの全身はピタリと止まってしまったのだ。


「さあ、着いたぞ。どうした?無抵抗なのか?」


 エルの元へ到着したデビットは、これでもか、というくらい挑発していた。エルの全身の動きを止めたのは、間違いなくデビットのスキルによるもの。デビットは、動くことができない事を分からつつも、からかうように、皮肉交りに悪態を付いているのだ。


「ぐ、ぐ、ふ、ふざけるなよ。」


「ハハッ。強がるねえ。なら、これならどうだ?」


 デビットはそう言いながら、エルの体を持ち上げ、闘技場の中央付近へ向けて、エルを放り投げた。その場所は、試合開始時にデビットがいた地点だった。エルの体が放り投げられた勢いで地面に叩きつけられたと同時に、先程まで停止していた魔力爆弾とファイアランスが全て動きだし、一斉にエルの方へ向かっていった。


「ぐ、ぐわああああああっ!」


 激しい爆発が起こった。暫くすると、そこには、意識を失い倒れているエルの姿があった。


「ふん。あっけなかったな。」


『なんということだー。エルが放った魔力爆弾とファイアランスが、まさか全てエルに着弾するとは。デビットの圧勝。強すぎる、デビット、、あれ?』


 実況が、デビットの勝利宣言をしている途中、エルの体が消え去ったのだ。ざわつく観客席。なぜか、エルがいなくなってしまったのである。予想外の出来事に、今までずっと気の抜けた表情をしていたデビットの表情が強ばる。


「なんだと?まさか!」


 デビットは、エルのスキルが「増殖」であることを見抜いていた。それで、今、エルの体が消えたことも、エルのスキル「増殖」によるものであると予想していたのだ。つまり、エルは、自分自身をも増殖していた、と、エルの体が消えたことで、エルは確信していた。エルは、どこかに隠れて、デビットを攻撃する瞬間を見計らっている。つまり、エルは、最初から、自分を増殖させて、増殖した方で戦い、自分自身は隠れていたのだ。相手のスキルがわからない以上、自分に降りかかるリスクを最大限押さえるために、隠れながら戦う、という、エルは、とてつもなく慎重な性格をしているのだった。


「どこにいる。来るなら来い!」


 次の瞬間、天井から、数百人まで増殖したエルが現れ、一斉にデビットの方への目掛けて落ちてきた。


「ほう。そう来たか。だが、無駄なことだ。」


 当然のごとく、デビットのスキルにより、またもや、数百人のエルの体は、空中で全てピタリと止まってしまった。デビットは、長剣を手にし、1人、また1人と、空中でピタリと止まっているエルの首をはねていく。


「いつまで隠れているつもりだ。こんな偽物ばかり増やしたところで、俺には通用しないぞ。」


 首をはねられたエルは、煙のように消えていく。それは、増殖されたエルという証明になる。つまり、首をはねられたまま消えなければ、おれは、エルが死亡したことを意味するのだ。


「ハッハッハ。もうすぐ、全ていなくなるぞ。どうする?もう、手はないのか?」


 エルが残り1人になったところで、またもや、天井から数百人のエルが降ってきた。


「懲りない奴だ。」


 またもや、空中でピタリと止まってしまう数百人のエル。直後、また、数百人のエルが降ってくる。それを止めるデビット。また降ってくる数百人のエル。そしてまた止めるデビット。気付けば、闘技場は、増殖されたエルで一杯になっていた。どこを見てもエルの体しか見えない。それほどまでに、闘技場はエルで埋まっていた。


 だが、一瞬にして、増殖されたエルが全て消え去った。視界が開けると、闘技場には、短剣を手に持ち、デビットの横腹を刺しながら意識を失っているエルと、横腹を刺されながらも、長剣をエルの背中から貫きながら立っているデビットの姿が見えてきた。意識を失っているエルに対し、デビットは意識を失っていなかった。横腹に刺さっている短剣は、実は、1cmにも満たしていなかった。つまり、エルの短剣がデビットの横腹に触れた直後に、勝負は決したのだ。


 エルの作戦はこうだった。デビットの視界を増殖した自分で完全にふさぎ、それに乗じてデビットを刺す、というものだった。だが、集中力を増したデビットは、短剣の感触、それを感じた瞬間にスキルを使用。それにより、エルの動きは止まり、そのまま長剣で貫かれた。そういうことである。


『完全決着ーーー!デビットの勝利です。デビット、強い。強すぎるーー!』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ