第1グルーブ第2試合
「う、うーん。」
ルートは、ゆっくりと目を開けた。どうやら、意識が戻ったようだ。ルートの視界には、見たこともないような天井が映っている。
「ここは、どこだ?」
「おう、意識が戻ったか。」
ルートの右側から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。ルートが右へと視界を移すと、そこには、ベッドに横たわっている、先程対戦したオートがいた。
「こ、ここは、どこなんだ?」
「どうやら、医務室らしいぜ。」
「医務室?」
「ああ、そうだ。意識を失った俺達は、どうやらこの医務室に運ばれたらしいぜ。そして、回復アイテムを使い、俺達の傷を全回復させたらしい。それで、意識が戻るまで、このベッドに寝ていた、というわけさ。」
「そ、そうなのか。」
そう言いながらルートは、手探りで自分の左肩を確認すると、確かに傷が塞がっていた。だが、痛みまではとれていないようだ。
「ははっ。痛むだろう。どうやら、回復アイテムは、先に外傷から直っていくらしいぜ。神経等の回復は、ある程度時間差があるらしい。だから、痛みがとれるまで、俺は、このベッドにいる、というわけさ。」
「そ、そうなのか。」
ルートは、オートの態度に圧倒されていた。先程まで命をかけて戦っていたというのに、この態度はなんなのだろうか?まるで、友人と話をしているかのような、オートの態度は、そんな雰囲気だったのだ。
「ど、どうして、そんな気軽に俺に話しかけるんだ?」
「どうして、って、俺とお前は敵同士じゃないだろう?」
「敵同士じゃないって、さっきまで戦っていたんだぞ?命をかけて。」
「それは、さっきまでだろう。今は、違う。それに、次、もし敵同士になるのなら、それは、トーナメントを勝ち抜いてからだ。だから、今は、敵じゃあない。」
「そういうものなのか?」
「ああ、そういうものだ。」
「それはそうとして、なぜ、そう思うんだ?」
「それは、お前が残忍な奴じゃないって思ったからだ。」
「残忍じや、ない?」
「ああ、そうだ。お前のスキルの詳細は分からないが、お前が、俺の右腕を潰した時にそう思ったんだ。」
「?」
「お前、その気になれば、俺の全身すべて、潰すことができたんじゃないのか?」
オートの質問通りだった。ルートのスキル「距離なし」を使えば、視界に入る物すべて握りつぶすことは可能なのだ。それ即ち、ルートは、追い詰められながらも、相手を殺そうとは考えていなかったということになる。だからこそ、オートは、ルートの事を信用したのだった。
「確かに、そう言われればそうだな。一矢報いることしか考えていなかったよ。気付かなかった。」
「気付かなかったって、お前。なんなんだよそれ。」
「命拾いしたな。」
ルートが軽く冗談を言ったことで、医務室の中には、暫く二人の笑い声が響いていた。
「ああ、挨拶が遅れたな。俺は、オート。出身世界は、ファイルだ。」
「あ、ああっ。俺は、ルート。出身世界はフィストだ。」
「なあ、ルート。暫くは俺達は敵じゃなくなるからな。俺のスキルを教えてもいいぜ。」
ルートはぎょっとした。自分のスキルを知られる、ということは、少なからずも対戦する時に不利になる。なぜ、そんなことをするのだろう。今後、また、対戦する事があるかもしれないのに。
「ははっ。警戒しなくていい。俺のスキルが知られたところで、俺の強さは変わらねえから。」
「そうなのか?」
「ああ、そうだ。俺のスキルは、「グングニル」っていうんだ。」
「グングニル?グングニルって、まさか、あの、神話の?」
「ああ、そうだよ。その、グングニルだ。俺の右手には、そのグングニルの力が宿っているんだ。グングニルと言えば、百発百中の槍。だから、俺が右手を突き出せば、それは、距離無制限の百発百中の無敵の槍となるんだ。今まで、この右手で貫けなかったものはない。」
オートのスキルは、衝撃的な物だった。グングニルとは、まさに、神の力。そんな力を右手に宿しているとは。まともにぶつかったのでは、人間ごときの力では跳ね返されるだけ。ルートは、そんなオートのスキルを知って冷や汗をかいていた。もし、オートが残忍な考えの持ち主だったのなら、とうに命を落としていただろう。そんなオートに対し、ルートは少なからず尊敬の念を抱いていた。だからこそ、自分のスキルについてもオートに教える、と考えた。
「ああ、スキルを教えてくれてありがとう。俺のスキルも、教えるよ。」
「いいのか?」
「ああ。俺のスキルは、「距離なし」だ。」
「距離なし?」
「ああ、そうだ。距離の概念がなくなるんだ。」
「距離の概念がなくなる?なんだ、そりゃ?」
「ああ、そうなるよな。初めて聞くと、わけわからないだろ。」
「ああ、意味が分からん。」
「距離の概念がなくなるってことは、そのままだ。俺の行動全てが、距離無関係になる。つまり、視界に入ってさえすれば、それ全て触れることができるし、そこに一瞬で移動することができる。」
「し、視界に入るもの、全て、だと?」
「ああ、そうだ。」
「な、なんちゅうスキルだよ。だから、俺の右腕を潰せたのか。」
「まあな。」
「すげえスキルだな。」
「そっちこそ。」
二人の会話は、暫く続いた。
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ルートとオートが医務室に運ばれてからも、対戦は行われていた。
『さあ、さきほと対戦は激戦でしたね。それでは、続いて、第1グルーブ第2試合を行います。
バルト、出身世界ワーク対、
クロス、出身世界イーレです。』
試合開始の合図と共に、先に動いたのは、クロスだった。クロスのスピードは凄まじく、10mほどあった二人の距離は、瞬時に縮まっていく。
「うりゃっ。」
距離をつめたクロスは、短刀で切りかかった。だが、短刀を持つ右手の動きが、完全に途中で止まった。
「な、なんだと?」
クロス、状況が理解できず、何度も何度も短刀で切りかかるも、全て、剣筋が途中で止まってしまう。動きを封じられているわけでもないのに、なぜか、一定以上の距離まで届かないのだ。これは、バルトのスキルによるものなのだ。バルトは、遮断、というスキルを持っている。このスキルは、自分と対象の間を必ず遮断する、というもの。つまりは、絶対防御、ということなのだ。その事に、直感的に察したクロスは、一旦バックステップをし、距離と取った。その動きを見て、バルトは不適に微笑んだ。
「ふん。いいのか?それしきの距離の取り方で。」
「な、なんだと?」
そうクロスが言った瞬間、クロスの体が大きな物と衝突したかのように後ろに吹き飛んだ。
「がはっ。、な、何が起こった?」
「ふははっ。俺のスキルを、ただの防御だと思うな。それだけでは、俺を攻略したことにはならない。」
吹き飛んでいくクロスを追うように、一直線状に、3m幅の砂煙が近付いていく。これも、バルトのスキル「遮断」によるもの。遮断するための間の距離を伸ばして伸ばしていくことにより、防御だけでなく、遮断を攻撃として利用することができるのだった。遮断のスキルと壁を利用した圧殺。これが、バルトがよく利用する攻撃手段だった。
壁際まで追い詰められたクロス。砂煙がクロスのすぐそばまで近付いた瞬間だった。
「くっ。仕方ないか。」
クロスがそう呟いた直後、先程までと比べて比べ物にならないような速度で、クロスはそれを回避した。
「な、なに?」
とんでもないスピードで攻撃を回避したクロスに驚くバルト。なお、クロスのスピードは衰えることなく、一瞬にしてバルトの背後に回り込む。そのまま、クロスは、バルトに切りかかるが、やはり、途中でクロスの攻撃は止まってしまう。それでもクロスは、高速で移動し、別の角度から切りかかる。何度も何度も、クロスは、高速で移動し切りかかる。だが、その全ての攻撃は、バルトに届くことはなかった。
「無駄だ。そんなことで、俺の防御を崩すことは不可能だ。」
「ふん。それなら、なぜ、さっき俺が速度をあげたことに驚いたんだ。」
「ふん。それがどうした?誰だって、あんな速度を見せられたら驚くだろう。」
「ふん。どうだか。」
「いい加減、諦めたらどうだ?お前の攻撃は、俺には届かない。」
「それは、やってみなければ分からないだろう。」
「諦めの悪い奴だな。」
「ふん。どうだか。まさか、あれが俺のマックススピードだと思っているのか?」
「なに?」
「お前が予想以上に強いものだから、温存していても仕方ない。これからは、ちょっと本気を出すとしよう。」
「なんだと。」
会話を終えると、またもやクロスは高速で動き出した。だが、先程までとは違い、クロスのスピードがどんどんと上がっていく。
「な、なに?」
加速していくスピードにだんだんと目で追えなくなっていくバルト。
「そ、そんな、早すぎる。こんなこと。人間に可能なのか。」
バルトがそういっている間に、既に、バルトの胸には、クロスの短刀が刺さっていた。バルトが自分でも気付く前に勝負は終わっていたのだ。その場に倒れこむバルト。
『おおっと。バルトが優勢かと思いきや、一瞬にしてクロスの逆転勝ちだー。とんでもないスピードでクロスが勝利をもぎとったー。』
第1グルーブ第2試合は、クロスの勝利で幕を閉じた。
これにより、第1グルーブは、4人全員が1試合を終えて、
クロス1勝、ルートとオートが1分、バルト1敗、となった。まだまだ、全員に1位のかのうせいがある。