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チートトーナメント  作者: 掘削名人
予選リーグ
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予選リーグ第1グルーブ第1試合

 ルートは、闘技場のど真ん中に立っていた。闘技場とは言っても、現代格闘技のようなリングではない。古代コロッセオのような、何の飾りもない、丸く広い空間だけ。それを囲むように観客席が設置されており、その上部には、ルート達が与えられた部屋の窓、窓のすぐ下には、扉が設置されている。扉の前から、観客席の間を真っ直ぐに闘技場に向かって階段が連なっている。ルートも先程、扉を出て闘技場に向けて、観客席の間の階段を降りてきたのだ。観客席には、人間に似た風貌の者達が、ちらほらと座っている。おそらく、天使や神達なのだろう。

 その中央で、ルートは対戦相手を待っているのである。暫くすると、扉の一つが開き、一人の男が姿を現した。


『さあ、最強トーナメント予選リーグ第1グルーブ第一試合が始まります。今回の試合は、ルート、出身世界フィストと、オート、出身世界ファイルの対戦になります。』


 場内に響き渡るアナウンス。それを聞くや、観客席にいる観戦者達は、ちらほらと拍手をしている。自分達がいた世界の闘技場の雰囲気と比べると、実に盛り上がりの欠ける情景だと、ルートは感じていた。だが、物足りないと思っている余裕はない。なぜなら、今回の対戦は生死を問わないからだ。目の前の対戦相手に100%集中しなければ、簡単に命を落とす可能性が高くなってしまうからだ。ルートは、自分の持つスキル「距離なし」の異常な強さを実感していた。今回の最強トーナメントは、自分のような者の集まりだと、ガブリエルは言っていた。だから、自分のスキルの強さを過信してはならないのだ。そういったことから、ルートの表情は、緊張感からか、いつになく険しい物になっていた。


 オートが、ルートの目の前、2m手前くらいの距離まで近付くと、ピタリと歩を進めるのを止めた。そして、戦闘体制をとる構えを見せた。それにあわせて、ルートも、背中に携えている大剣を手に取り、膝を落とし、警戒体勢をとった。だが、ルートは、そこで異変に気付く。戦闘体制を取ったオートの手には、何の武器もないのだ。手を握らず指をすべて伸ばしていだけなのだ。


「おい、武器は使わないのか?」


「武器?そんなもの、必要ない。」


「必要ないだって、そんな自信、どこからくるんだ?」


「自信とかじゃあないさ。」


 ルートは、相手に舐められていると思い、非常に腹がたった。まるで、自分相手には武器を使う必要がないと、言われていると思ったからだ。オートは、ルートが格下相手、自分こそが最強だと信じて疑わない。ルートは、そう解釈していた。

 だが、ルートは気付いていなかった。その考えこそが、心の奥底で、ルートがオートを格下と見ていることを。ここに来た32人は、それぞれが最強なのだと。なぜ最強なのかは、スキルによるものだと。その事を、腹をたててしまったルートは、見落としていたのだ。せっかく、緊張感を最大限にして身構えていたというのに、オートに舐めらていると勘違いしてしまったルートは、その緊張感ぎ薄れてしまっていたのだった。


『試合、始め!』


 アナウンスが流れるとともに、ルートはバックステップをし、一撃で決着を着けようと、大剣を大きく振り上げた。


「いくぞ、覚悟しろ。」


 バックステップをしたことにより間合いを広げたルートは、自分の勝利を疑わなかった。武器を持っていない相手と、距離の概念がないスキルを持つ自分。あとは、大剣を振り下ろすだけだと、考えていた。


「ふん。」


 頭に血が上っているルートとは、対照的に、冷静な表情のままでいるオート、ピンと真っ直ぐに指を伸ばした右手を、前に突き出した。そう、まるで、自分の右手が槍であるかのように。


 次の瞬間、ルートの左肩を、とてつもない鋭い衝撃が貫いた。その凄まじい威力の衝撃に、ルートは、闘技場の壁まで吹き飛んでしまった。


「がはっ。」


 激しい激痛に左手に力が入らない。ルートは、大剣を持つどころか、立ち上がることさえできずにいた。左肩を確認すると、大きな穴が空いており、大量の出血。


「くそ、やられた。このままじゃ。」


 ルートは、死を覚悟した。死を覚悟したことにより、かえって冷静になれた。今思えば、武器を持っていないからと慢心していたのだ。どうして、相手の攻撃手段が武器を必要としない、ということに気が付かなかったのだろうか。相手も、その世界では最強を名乗っている。だからこそ、警戒を解いてはいけないのだった。

 何とかしなければ、このまま殺されるだけ、ルートは、激痛に耐えながら、ゆっくりとではあるが、何とか立ち上がるのだった。だが、またもや異変に気付く。なぜかオートは、満身創痍のルートに止めを刺しに来ないのだ。オートを見ると、右手の先を自分に向け、構えたまま動かないでいた。


「どうた、俺の力は。凄かっただろう。降参するか?」


 オートの問いは、予想外のものだった。てっきり、止めを刺される、殺されるものだと思っていたのだが、降参するか聞いてくる。生死を問わない今回の戦いだけに、ルートにとっては大きな違和感でしかなかった。


「と、止めを刺さないのか?」


「なぜ、止めを刺す必要がある?生死を問わないとはいっても、相手が戦闘不能になれば決着なんだ。それに、まだ、予選リーグの試合が控えているんだ。これ以上、無駄に時間を使う必要ないだろう。お前だって、部屋の回復アイテムを使えば、その傷だって直せるかもしれない。だから、早く降参して、自分の部屋に戻ったらどうだ?その出血では、時間がたつと危ない。」


 対戦相手からの思わぬ命の気遣いだった。こんな状況なのに、自分の事を気遣う余裕まであるとは。逆にいえば、それは、オートが勝利を確信しているように感じた。


「舐めるなよ。」


 ルートは、この口調とは別に冷静だった。冷静だからこそ、自分のスキル「距離なし」について深く考えることができた。それは、皮肉にも、オートが素手による攻撃をしたことも関係していた。自分も、このスキルを使えば武器を必要とせずに攻撃をすることができるのでは?そう確信したルートは、視界に入っているオートの右腕を、まだ動かせる右手で掴んだ。


「な、なに?」


 すぐさま異変に気付いたオーク。


「み、右腕が動かない!お前、何をしている?」


「さ、さあ、な。」


 ルートはそう言って、最後の力を振り絞り、右手を思い切り強く握りしめた。


グシャアアアッ


 骨が砕けちる音とともに、オートの右腕はぐちゃぐちゃに砕けちった。これは、ルートのスキル「距離なし」による攻撃だったのだ。距離の概念がないことで、ルートは、どこにいても、視界に入る物を掴むことができるのだった。


「ぐああああっ。ば、バカな。な、なんだ、その攻撃は!」


 大量の出血とともに、その場に倒れるオート。


「や、やった、ぞ。」


 一矢報いる事ができたルートは、その達成感からか、緊張感が抜け、意識を保つことができずに、意識を落としてしまった。一方オートも、ずっと立ち上がる事ができずにいた。


『おおっと、これは、凄い結末だ。まさに、あっという間の決着。両者、戦闘不能により、引き分けです。両者、戦闘不能により引き分けです。お互いの高い攻撃力が生んだ結果です。まさに、最強同士の激突。短い時間ではありましたが、非常に見応えのある戦いでした。』

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