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チートトーナメント  作者: 掘削名人
第1章 はじまり
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始まり。ルート

 ここは、魔法が存在する世界「フィスト」。この世界には、様々な人種族が生息している。それぞれの種族は相容れることなく、戦争が絶えない。その理由は、限られた土地、資源を我が物にしようとするための領地侵略戦争なのだ。

 「フィスト」には、人間と魔族の二大勢力がほぼ全てを支配しており、他の種族、エルフやドワーフ等の少数の貴族は、人間側と同盟を結んでいた。というのも、魔属は一人一人の力が人間に比べて凄まじく強く、単純な戦闘では、人間は魔属に歯がたたないのだ。その為、人間側は、エルフやドワーフに対して不可侵協定をすることにより、魔族に対抗するために同盟を結んだのだ。

 だが、それだけでは人間と魔族の力の差を埋めることはできない。だから人間は、神々に協力を求めるために、何百年と祈り続けた。それに答えるかのように、神々は、人間に、魔族に対抗するための手段として、「スキル」を授けた。人間は、「スキル」により、力ではかなわない魔族に対して、何とか対抗することができるようになったのである。だが、それでも簡単には勝たせてくれない。現在は、人間と魔族の勢力は拮抗しており、不用意に攻めたほうが不利になるため、ここしばらくの間、人間と魔族の争いは膠着状態が続いていた。ある男が生まれるまでは………



-------------



人間は、15歳になった時に、教会にて、スキル授与の儀を受けることで、神々から「スキル」を授かることができる。「フィスト」では、15歳になると、スキル授与の儀を受けることが義務化されている。スキルを授かることで、人間は、成人したとみなされるのだ。


「それでは、スキル授与の儀を始める。」


 教会には、毎日、スキルを授かるために、15歳になった若者が、続々と訪れている。ルートも、その一人であった。


「な、なんだこれは?」


 スキル授与の儀を進めていた神官の表情が変わった。それは、ルートのスキル授与の儀をしていた時のことだった。


「こ、こんなスキルは初めてだ。どんなものなのか想像もつかない。どういうことなんだ?」


 ルートが授かったスキルは、「距離なし」というものだった。普通のスキルというものは、剣技や、槍技等の武器を使用するための技術の優劣をアルファベットで順位分けしたものが一般的だ。S>A>B>Cの順位でSが最高位。最下位のCでも、スキルがない者に比べたら遥かに強力なものだ。

 それ以外にも、魔法の得意なスキル等がある。だが、ルートが授かったスキルは「距離なし」。初めて見るスキルに、神官は混乱していた。


「な、なんだ?距離?距離とは、何の距離なのだ?それに、なしって、どういうことなんだ?」


 神官が混乱している以上に、ルートも混乱していた。スキルを授かることで、人間はそれにあった職業につくことになる。戦闘に優れたスキルを授かった者は、国所属の戦闘兵になるか、自由な冒険者となる道がある。栽培や創作等のスキルを授かった者は、それぞれに合った職人となる。だが、「距離なし」というスキルでは、どんな職が適しているかという、想像すらできないのだから。


「そんな、俺は、これからどうしたらいいんだ?」


 混乱しているルートは、ガックリと肩を落として、トボトボと歩きながら教会を出て、自分の家へと向かった。戦闘向きのスキルを持たない者でも冒険者になることはできる。ある程度の努力をすることで、それなりの強さを手に入れることはできるから、それなりの生活をすることはでき?のだ。自由に生きたいものは、この選択を取る者は少なくない。何が適しているかわからないルートにとっても、冒険者になるしか選択肢はないようなのだ。



--------------



 ルートがスキルを授かってから五年の月日が流れた。ルートは冒険者となり、何とか生活をしている。それほど強くない魔物であれば、戦闘向きのスキルを持たない者でも倒すことはできる。魔物から採れる素材は、高値が付くものもある。素材狙いでルートは魔物を狩り、何とか生計をたてていたのだ。


「くそ。今日は、あまりいい稼ぎにならなかったな。今月の返済、どうしようか。」


 いくら弱い魔物とはいえ、スキルを持たない者が対抗するには、それなりに良い武器や防具が必要になる。ルートは、借金をしてそれらを揃えたのだ。借金が返せなければ、武器や防具が差し押さえられる。そうなれば、ルートにとっては死活問題。なんとしても金を稼がなければならないのだ。だが、金を稼ぎたくても、弱い魔物を狩るだけでは、安い素材しか手に入らない。弱い魔物でも、高い素材になる物もあるが、そういう魔物は出現率が低い。だから、ルートはたいした金を稼ぐことができず焦っていた。


「これからは、ある程度のリスクを背負うしかないか。くそっ。有効なスキルさえあれば、こんなことにはならないのに。」


 ルートはそう言いながら、そこそこ強い魔物が出る森へと向かっていった。



-----------



 森に到着したルートは、周囲を警戒しながら、剣を構え、ゆっくりと前進し、森の奥へと足を進めていく。この森には、ルートは初めて入ったのだ。自身にとって、全くの未開の場所。ルートは、不安と緊張で、剣を握る力が、いつもよりも強くなっていた。


 グルルルッ


 狼のような鳴き声が、前方から聞こえてきた。聞こえる感じだと、10頭以上はいるだろう。明らかに、ルートを警戒しているような様子だ。ルートは足を止め、戦闘態勢に入った。


「さあ、こい。やってやるぞ。」


 ルートが戦闘態勢に入ったことで、狼のような鳴き声がピタリとなくなった。どうやら、相手はルートを相手とみなし、一斉に襲いかかる準備をしているのだろう。辺りに、緊張が走る。


 グアアアアッ


 大きな雄叫びのような叫び声と共に、ルートの前に一斉に姿を表した魔物達。通常の狼を二周り大きくしたサイズの、巨大な狼の姿をした魔物だ。


「こいつらは、ジャイアントウルフッ!」


 ジャイアントウルフは、戦闘向きのスキルを持っていない者にとっては強敵だ。とても一人で10頭以上、相手にすることなど不可能だ。ルートは絶望した。間違いなく殺されてしまう。


 現在、ルートとジャイアントウルフとの距離は10メートル程。ジャイアントウルフは、ルートに対して警戒しているのか、すぐには襲いかからず、ゆっくりと、ルートとの距離を縮めていった。ルートは、ゆっくりと、後ろへ下がりながら、なんとかジャイアントウルフとの距離を保とうとしていた。


 しかし、ルートは、前方のジャイアントウルフに集中しすぎたせいで、足元の警戒を怠っていた。地面に出ていた木の根に足を引っ掻け、転倒してしまってのだ。大きく尻餅をつくルート。


「しまった!」


 それと同時に、ジャイアントウルフ達は、一斉に走りだし、ルートとの距離を詰めていった。


「うわああ、来るなー!」


 そう言いながらルートは、剣を握ったまま前方を振り払うかのように、右腕を何度も左右に動かした。周りから見ると、悪あがきの動きにしか見えない。それほどルートは追い詰められていたのだ。


 だが、次の瞬間、ルートの目に飛び込んできたのは、切り刻まれて絶命したジャイアントウルフ達の死体の山だったのだ。


「一体、何が起こったんだ?」


 ルートは、状況が理解できずにいた。ルートとジャイアントウルフ達の死体との距離は5メートルほど。ジャイアントウルフ達の死体は、剣により切り刻まれててるのは明らか。だが、5メートルも離れた距離にいる複数の相手を一気に斬るなんてことは、できるはずがない。

 

 そんなことができるとするならば、スキル以外あり得ない。そう考えたルートは、自分のステータスを確認するために、ステータスボードを開いた。この世界では、自分自身の情報は、ステータスボードにて確認することができる。ステータスと心で念じるだけで、自分しか見えないステータスボードが目の前に現れ、自分自身のステータスを確認することができるのだ。


「な、なんだこれは?」


 ルートは驚愕した。自分のスキル「距離なし」のスキルレベルがMAXになっていたのだ。冒険者になって五年間、ずっと魔物と戦っていたお陰で、ルートが知らないうちに、スキルレベルがMAXみで上がっていたのだった。ルートは、スキルの情報を詳しく確認するために、ステータスボードのスキルの項目に触れてみた。


 スキル「距離なし」・・・レベルMAX

 距離の概念がなくなる(レベルMAX時の効果)


 どうやら、「距離なし」というスキルは、スキルレベルがMAXになることで初めて効果を発揮する、ということが分かった。だが、距離の概念がなくなる、ということがルートにはいまいち理解できずにいた。


「これから、このスキルについて検証していく必要があるな。」


 ルートはそう言って、ジャイアントウルフから素材を剥がし、自宅へと戻っていった。



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