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攻略対象・隣国王弟セドリック~白い結婚作戦でいく

 パラディオ伯爵家はエスティアの母カタリナの実家なので、伯爵代理の父テレンスと娘のエスティアの仲が悪くても、使用人たちは基本的にエスティアの味方だ。

 ただし大っぴらに味方の姿勢を見せるとテレンスの機嫌が悪くなるので、表面上はドライに接している。


 そんな使用人たちがこの三ヶ月、屋敷の中で慌ただしく動いていた。


「結局、明日が結婚式かあ。頑張って回避できないかと思ったけど無理だったな」


 いわゆる、乙女ゲームの強制力というやつだろう。

 まだこの先の出来事を元の乙女ゲームでプレイしていなかった前世を持つエスティアだが、そのぐらいは見当がつく。




 そして婚儀の一ヶ月前から、婚約者のアルフォートは伯爵家で同居を始めた。

 相変わらず女遊びに忙しそうで、ほとんど伯爵家にはいなかったが。


 何とか婚約破棄したかったエスティアだが、ついに結婚式の前日となってしまった。


 しかも招待状を送った同級生たちはほとんど自領の瘴気被害に追われて来られず、申し訳なさそうに断りの返事が来ていた。


 集まったのは幼馴染みの隣領のカーティスともうひとりだけ。


(セドリック。エスティアが本当に好きだった人)


 黒髪と透き通った薄い青の瞳の、厳格そうな顔つきの美青年である。

 彫りの深い顔立ちで、前世ならハリウッド俳優と言われても信じてしまいそうな男性だった。


(これは落ちる。というかエスティア、私と男性の好みが完全一致!)


 前世ミナコを思い出す前のエスティアも自分には違いないのだが、記憶にあったもうひとりの幼馴染みを見て、エスティアの胸の中に暖かくもかすかな痛みを伴う感覚が出た。


(エスティア。本当の本当にこの人が好きだったのね)


 セドリックはカーティスと同じ、エスティアの幼馴染みだ。

 隣国カルダーナの現国王の歳の離れた異母弟で、彼の姉の王姉がエスティアの母カタリナの学園時代の友人だった縁で親しくなった。


 見た目通りとても厳格な性格で、学園時代は「行き遅れの女家庭教師のような性格」と陰口を叩かれていた。

 それは暗に、彼を育てた歳の離れた姉が、王姉でありながら未婚の王女のままであることを揶揄したものだ。

 セドリックは養母代わりとなった異母姉に、その厳しい性格がよく似ていた。


 彼は先王の庶子だったが崩御前に認知され、隣国の王子となった男だ。

 その経緯から自国では立場が不安定で、エスティアたちのプリズム王国の王都学園に留学をしていた。




「アルフォートの奴、来ないな」


 サロンで談話しようと婚約者付きの侍従に伝言を頼んでいたが、待てど暮らせど来ない。

 カーティスなど待ちきれず、テーブル上のアフタヌーンティーのサンドイッチを早々にパクついている。


「マリナ、アルフォートから何か連絡は来ていない?」


 自分の年配の侍女に確認するが、困ったように「いいえ」とだけ。


「見てくるわ。先に二人で歓談してて」


 仕方ない、自分が行って呼んでくるしかなさそうだ。

 腰を上げたエスティアに、男二人はどちらもティーカップをソーサーに戻した。


「私も行こう」

「ん、俺も行く」


 客人にそんな手間はかけさせられないと慌てるエスティアだったが、カーティスに宥められて三人で婚約者アルフォートの部屋に向かうことになってしまった。




 婚約者のアルフォートを呼びに、幼馴染みのカーティスとセドリックと客間に向かうと。


 アルフォートの部屋の前で手持ち無沙汰に控えていた侍従がぎょっとした顔をして慌てだした。明らかに挙動不審だ。


「え、エスティア様!? どどど、どうされましたか!?」

「午後からお客様たちとお茶会だと言っておいたでしょう。アルフォートは?」

「お待ちください、いま入られては……!」


 婚約者が実家から連れてきた従者はエスティアたちを止めようとしてきたが、時間通りに来ないアルフォートが悪い。


 客間のドアを開けると、人の話し声がする。

 男の声はアルフォートの。女の声はくぐもっていてよくわからない。


「うわ」


 エスティアの後ろから付いてきたカーティスがドン引きした声を小さくあげた。

 室内の手前に背の高い観葉植物があって、婚約者たちはまだエスティアに気づいていない。

 というより互いに夢中のようで物音など耳に入っていない様子だ。


 観葉植物の大きな葉の隙間から見えたのは、抱き合う男女の姿だ。

 片方がエスティアの婚約者のモリスン子爵令息アルフォート。


(結婚は明日よ。解消も間に合わない。よくもまあ、私の家に女を連れ込んだわね!)


 女性のほうはアルフォートの身体の影になって見えない。

 だが抱き合う二人はやがて口づけ合って絡み合い、エスティアたちの耳には濡れた音まで聞こえてきた。


「っ!」


 咄嗟に飛び出して行こうとしたカーティスとセドリックを、両腕でそれぞれ静止した。

 振り返って、人差し指を縦にしたまま自分の唇に当てた。


『静かに。このまま出て』


 無声音で促し、客間の外に出た。




「あの女性は誰?」

「わかりません。来客のどなたかのはずですが、お茶をお運びしようとしたら不要だと言われ部屋から追い出されてしまったので」


 侍従に確認したが、肝心の浮気相手のことがわからない。

 叱責しようとしたが、この侍従は婚約者のアルフォートが自分の実家から連れてきた者だ。婚儀は明日とはいえ、まだ未婚の今は他家の家人に強い文句は言えなかった。

 それに侍従自身、アルフォートのエスティアに対する言動を以前から何度も謝罪していて、今も土下座せんばかりに深く頭を下げている。


「わかった、もういい。だけど、彼は本当に私と結婚する気があるのかしら?」

「………………」


 侍従はわからない、という素振りで首を振った。

 こうなると彼を責めても仕方がない。

 エスティアは二人を連れてサロンに戻ることにした。




 サロンに用意されていたアフタヌーンティーのお茶はとっくに冷めきっている。

 新しく入れ直させて、エスティアは嘆息した。


「あれ、どうするんだ? エスティア」

「どうもこうも……」


 カーティスに訊かれたが、がっくり疲れた。行儀が悪いが椅子の背もたれにもたれかかってしまったエスティアだ。


「なぜ私たちを止めた? あそこで押し入ってアルフォートと相手の女を押さえるべきだったろう。その上でお父上に報告を」

「ふふ。セドリック、あなたの厳しい姿勢は相変わらずね。でも今回はこれでいいのよ」

「だが」


 まあまあ、とカーティスがセドリックを宥めている。


「まさか婚儀の前日まで女とよろしくヤッてるとはね。俺も驚いた」

「……まさにクズだな」


 四人は学園の同級生だ。それぞれの性格は良く知っている。

 アルフォートは在学中から女好きで、特定の相手を作らず遊び歩いていた男だ。

 それに性格も悪い。だから学園では父の親戚と知ってもできるだけ関わらないようにしていた。

 だからエスティアは父テレンスが彼を婚約者にしたと聞いて卒倒しそうになるほど驚いたのだ。




「けど、どうするエスティア。今からでも殴り込みに行くなら力を貸すぜ」


 バシッと手のひらに拳を鋭く叩きつけながらカーティスに確認されたが、首を振って断った。


 セドリックも無言ながら心配そうな目でエスティアを見てきた。


「ううん。やらなくていい。でも、あなたたち二人も目撃したことを、今後必要があれば証言してくれたら助かる」

「それは、もちろん」

「了解。やっぱり『白い結婚』作戦だな」


「!?」


 カーティスの発言にセドリックが薄い青の瞳を見開いて驚愕している。


「白い結婚だと? 何の話だそれは!」

「そのまんまだよ、カルダーナの王弟殿下。いくら何でも、結婚前日に不貞を働いてる男はエスティアだって嫌に決まってる」

「だ、だが、そんなことをすればエスティアの名誉に傷が付く!」

「だってよ? どうなの、エスティア?」


 食ってかかってくるセドリックを、ティースタンドからキューカンバー(きゅうり)のサンドイッチを取って口に放り込みながらかわして、カーティスが訊いてきた。


 エスティアもスタンドからマカロン(とうぶん)をチョイスして、もう淑女のマナーも忘れて一個、二個と続けて咀嚼した。

 パラディオ伯爵家のパティシエご自慢のマカロンはクリームが濃厚で美味だ。バタークリームではなく、かために仕上げた生クリームを使うのが当家流。


「普通ならそうね。でも私はただの令嬢じゃない。女伯爵に離婚歴があったって困りやしないわよ」

「お。結婚前に爵位継承できたのか」

「二日前にぎりぎり完了したわ。王家の事務って本当、遅くて嫌になっちゃう」


 この調子では結婚後、白い結婚を盾に離婚を認めさせるのも大変そうだ。

 もっとも、エスティアには引く気などさらさらない。


「何にせよもう明日が結婚式。茶番だけど参加よろしくね、ふたりとも」


 それからは三人で独身最後のお茶会を楽しんだ。

 婚約者のいるヒロインが、男性と三人で。こういうところは乙女ゲームだなあという気がする。




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