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誰の心が透明か

「でも、聖杯を使う方法って。ヒナコ先生は〝透明な心〟が必要だって言ってたけど」


 あるいは嘘のないこと、誠実さ。


「どうするエスティア? 乙プリだと真実の愛の持ち主が聖杯に触れれば良いって設定だったけど」

「そ、そうよね」


 と一同を見た。


「俺は遠慮しとく。ちなみに俺の初恋はカタリナおばさんだ」


 速攻でカーティスが笑って一抜けした。

 まさかの告白付きで。そして想い人の夫テレンスに殴られていた。


「あ、あたしは」


 サンドローザ王女がもじもじしながら婚約者のヒューレットを見ていたが、当のヒューレットは微笑みながら王女の手を引いて一歩後ろに下がった。


「我々はまだ仲直りしたばかりですので」


 となると残りはエスティアとセドリック、そしてテレンスなわけだが。


 父テレンスは西洋画のように美しい顔を葛藤に歪めていた。


「前にここに来たときはロゼット先輩がアーサー様と一緒に聖杯に触れたんだ。その上からカタリナ先輩とギネヴィア先輩が。……先輩たちがテレンス君もおいでって言ってくれて最後に私が手を重ねた。あの頃が一番楽しかった」

「お父様」


 『乙女☆プリズム夢の王国』では正ヒロインだった光の魔力持ちの平民ロゼットは後に、国王に即位したアーサーの王妃となった。

 カタリナは家を継いでパラディオ女伯爵に。

 ギネヴィアは婚約者と婚約破棄したが隣国に戻ってセドリックを産んだ。


 テレンスは王命を受けてカタリナと結婚しエスティアを儲けた。


「あの頃の気持ちはまだ忘れていない。だが……きっともう私たちに透明な心なんて残ってないのだろう」


 言って、テレンスはエスティアとセドリックに小瓶をそれぞれ投げつけてきた。

 エスティアは聖杯を抱えていたので、両方セドリックが受け止めると、それは魔力ポーションだった。




「そ、その話、まだ続く!? そろそろこっちもヤバくなってきたんだけど!」


 皆がハッと我に返った。そうだ、話をしている間もヨシュアが黒竜を必死で抑えようとしてくれている。


「前回聖杯を使ったとき、触れた者たちは魔力をごっそり消耗して後が大変だった。自分たちの〝真実の愛〟を試す前に飲んでおくといい」

「お父様。……一応、ありがとうって言っておきますわ」


(もう手持ちのポーション類はほとんど使い切ってたから)


 魔力ポーションを飲み終え、ハンカチ越しに持っていた聖杯にセドリックと一緒に向き直った。


(嘘や誤魔化しのない、透明な心。私の中にある、本当の気持ち。本心。それはやっぱり)


 エスティアは傍らで、黒竜の瘴気から守ってくれているセドリックを見た。


(さっき洞窟の中では言ってくれなかったけど。でも私の気持ちは子供の頃から決まっている)


「セドリック。私、子供の頃からずっとあなたが」

「初めて会ったときから好きだった。私が不義の子でさえなければ求婚できたのにと思うとずっと悔しかった」

「へ?」


 何だかものすごく間の抜けた声が出てしまった。

 幼馴染みだから付き合いだけは長くて良い雰囲気になったことは何回もあったが、彼からはっきりと気持ちを聞いたことはなかったのだ。


「こんな機会でもなければ本音ひとつ言えない。情けない男を許してくれ。エスティア」

「そんなことない。嬉しい、セドリック」


 顔を見合わせ微笑み合ってから、そっと黄金色の聖杯に触れた。

 浮かんでいた黒く染まりかけた魔石が杯の中に落ちる。魔石は透明に透き通り、聖杯を聖なる水と魔力で満たし始めた。


「あ!」


 聖杯から、細かく編まれた幅広の白光の帯が四方八方に広がっていく。

 光が触れた場所から瘴気が中和されていった。

 もちろん一番瘴気の濃かった黒竜もだ。暴れていた黒竜が少しずつ動きを止めていった。


「おい見ろ、聖杯からの光が山を降りて街へ!」

「……良かった。瘴気が街を汚染する前に間に合ったみたい」


 これでミッションコンプリートだ。

 やがて聖杯は中に聖なる水だけを残して光を止めた。


「聖杯の浄化作用は国内と近隣まで広がる。これで完了だ」


 テレンスが宣言して、ようやく全員がホッと息をつくことができた。



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