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異世界転生者の悲哀

 そしてこれが重要なのだが、と前置きしてヨシュアが話してくれたのは。


「異世界転生者には必ず共通する特徴がある。元の世界で、才能や資質に恵まれながらも不遇で活躍できなかった者たちがこの世界に生まれ変わってるようなんだ」

「!」

「この世界では、前世で果たせなかったことを実現しやすい環境に生まれる傾向にあるそうだよ」


 その情報はエスティアの胸を貫いた。


 今では前世のアラフォーおばさんミナコはすっかり女伯爵エスティアに統合されていたが、ミナコだった人生経験は順風満帆なものではなかった。


 両親の揃った安定した家庭に生まれ、幼稚園から大学まで一貫のお嬢様学校を卒業させてもらった。

 ここまでは良い。むしろ平均より良いだろう。


 その後、一流企業に就職して結婚したが夫とは価値観が合わず、子供にも恵まれず離婚している。

 以降は鳴かず飛ばず。


(女だけのお嬢様学校卒だからって、社内に出来たばかりの女性支援推進部に配属されたのよね。……でも女性ならではの活動サポートというより、国の女性支援ガイドラインに沿った杓子定規な施策を社内で機械的に適用させるだけのつまらない部署だった)


 離婚してアラフォーになっても再婚しなかったミナコを見る周囲の目も厳しかった。


 寂しいモテない女だと陰口を叩く者もいたし、四十代に入ると周囲、特に若い人たちは悪気なくミナコを「おばさん」と呼ぶ。

 笑ってたしなめていたけど、ミナコだって女だ。馬鹿にされたようで本当はとても不快だし怒っていた。


(救いは新たに配属された部署の若い子たちが良い子で、乙プリみたいな共通の話題で盛り上がれたことね)




 だが、前世のミナコに特筆すべき才能や資質などあっただろうか?


 確かに大学まで出て一流企業に就職できて一時は管理職まで昇進したが、体調不良で一線を退いてからは年収も大幅にランクダウンしてしまっていた。


(後悔……は、やはり男性関係かな。男の人は別れた夫しか知らなかった。その後はもう恋愛とか結婚とか全然ダメだった)


 別れた夫は元上司で、お嬢様学校出のミナコを大人しくて無難で、でも学歴の良いアクセサリーだと思っていた節がある。


 実態は同じ女性支援推進部で働いていながら、典型的な男尊女卑思想の持ち主だった。

 仕事だけは抜群にできたし、外面が良くて周囲に気づかせるヘマもしなかったから、離婚すると知らせたとき社内の周囲はとても驚いていた。


(だけど結婚して妻になった私には隠さなかった。彼と居ると、女である自分の自信がどんどん無くなっていったのよ)


 離婚は円満解消だったが、そこに持って行くまでがとにかく大変だった。

 夫は男性であることを全面に出したパワフルで威圧的なタイプだったから、一対一では押し負けてしまう。

 自分側の両親やお嬢様学校時代の友人たち、恩師たちにもたくさんの力を借りて、結果的に性格の不一致を理由とした円満離婚に漕ぎ着けることができた。


(もうあんな思いはしたくない。私が女でも爵位を継げるパラディオ伯爵家に転生したのは、自分がリーダーに立てる場所が欲しかったからなのかも)


 女で爵位を持ち、貴族の家の当主でいるとは、自分の裁量で選ぶことや決めることができるということ。

 苦労もあるだろうが、少なくとも女性だからという理由で男性に負けることは多くはない。


(良いことを教えてもらった。帰ったらもっとじっくり深掘りして自分を見つめてみよう)




「もっと詳しい話は帰ったら必ず皆にするわ。今は聖杯で黒竜を封印することを優先しましょう」


 言ってエスティアが再び聖杯に手を伸ばしかけた、そのとき。


 轟音のような獰猛な黒竜の鳴き声が洞窟の入口付近から聞こえてきた。




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