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乙女ゲームのとんでもない裏事情1

 聖杯の上の魔石、その更に上に浮かんだ小さな初老の女性は、自分を乙女ゲーム『乙女☆プリズム夢の王国』の原作者ヒナコだと名乗った。


「そんな。前世で通ってた学校の学長先生そのものだわ」


『あなたは?』


「ヒナコ先生。私はパラディオ女伯爵エスティアと申します。あなたのいる世界から、乙プリの世界に転生した、……あなたの元教え子ですわ」


 前世のミナコの名前を言うかどうか迷った。

 だが隣から、同じ境遇のサンドローザ王女が腕を掴んできた。見ると首を左右に振っている。言わないほうがいいと。


(ここには乙プリや私たちの事情を知らないセドリックたちがいる。後で説明しないといけないかもだけど……そうね、前世の名前は出さない方向でいきましょう)


 エスティアは同行者の男たちに、ここは口出しせず見守るに留めてほしいと頼んで、後ろに下がってもらった。

 代わりにサンドローザ王女と並んで祭壇の聖杯、いやヒナコの前に膝をついた。


「ヒナコ先生。なぜあなたがここにいるのか、教えていただけますか?」




 ヒナコは前世のエスティアとサンドローザ王女が通っていたお嬢様学校のうち、中等部と高等部の学長を兼任していた女性教師だ。


 学校では生徒たちのマナー講師で、ゲーマーたちの間では乙女ゲーム『乙女☆プリズム夢の王国』に登場する貴族の令嬢や令息たちのマナー監修者として知られていた。

 この経緯から、エスティアたちが通っていた学校に、ゲーム会社から発売当時に体験版が配られて、初めて家庭用ゲーム機を購入することになった生徒の家が多かった。


(確か当時、PTAでも良いゲームだからって推奨されてたと実家の母が言ってたわ。うちの母、テレビゲームなんてとんでもないって教育ママだったけど、学長先生が監修してるならって、おもちゃ屋さんに行ってゲーム機とゲームソフトを買ってくれた)


『ふふ。ゲームのマナー監修だけじゃなかったの。本当はシナリオや世界観も何もかも、原作すべてを私が作ったのよ。少なくともそのつもりだった』


「ええと。ヒナコ先生、それはいいとして。何であなたがこんなとこにいるの? ここ乙プリの世界だよ? あなた全然違う世界の存在でしょ?」


 サンドローザ王女の疑問に、聖杯の上に浮かぶ小さなヒナコは順を追って事情を説明してくれた。


『かつて、学校の教師をやりながらいつか小説家になりたいって夢を温めながら書いていたのが乙プリ原作なの。でも副業になってしまうから出版社にもなかなか持ち込めなくて。そうしたらゲーム会社を興した学生時代の友達が、面白いから自分の会社で作るゲームの原作に使わせてくれって言ってきたのね』


 それが乙プリが生まれるきっかけだったそうだ。


『でも、友人は私が原作の使用許可を与える前に、勝手に使ってしまったの。しかも私が大切にしていた要素を平気で改変したりと散々よ。私はそれがもう悔しくて悔しくて……毎日泣き疲れて眠る有様で、気づいたら意識だけがこの世界に飛んでこの聖杯に宿っていた』




 ヒナコが語った事情を掻い摘むと。


 彼女の学生時代の親友が当時、新興だったゲーム会社の創業社長だった。


 たまたまヒナコが少女時代から温めていた『アーサー王伝説パロディの少女小説』の話をして原稿の複製を見せたところ、面白いから自社開発のゲームのシナリオに採用させてほしいと頼まれた。


 ところが親友は、ヒナコが正式な許可を与える前に小説を許可なく原作を使い、その上内容を改変し加工して、ヒナコが大切にしていた要素を除去してしまった。


『原作を渡してから、友人とはしょっちゅう会ったし電話でも話した。それがいつの間にか、ゲーム中の貴族キャラのマナー監修ってことにされてたみたい』


『お金のことを言うのははしたないけど、乙プリが発売されて大ヒットしたのに、私には原稿料やアイデア使用料は一銭も払われていない。完成したゲームソフトが自宅に送られてきただけだった』


「うわー」


 サンドローザ王女がドン引きしている。エスティアも声こそ上げなかったが同じ気分だ。


『もちろん友人に文句を言ったわ。すると私の勤め先だった学校宛にゲームの体験版が送られてきた。でもそれだけ。何より許せなかったのは……』


 ヒナコが許せなかったのは、乙女ゲームの中にもパッケージにも自分の名前がどこにもなかったことだそうだ。

 作品中のキャラクターたちのマナー監修者としてだけゲーム雑誌などで軽く紹介されたが、原作者であることは明かすなと命令までされたと。


『『乙女☆プリズム夢の王国』は大ヒットしてシリーズ化。その後の人気作はアニメ化までしたわね。でも親友だったはずの私たちの関係は破綻してしまった』



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