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セドリックの怒り

 少し迂回すれば黒竜を避けられそうなため、一行は最初に聖杯のある洞窟を目指すことにした。


「それでさ、オレには異次元的な強さの叔父がいるんだけど、過保護で死ぬほど鬱陶しくて。そいつをどう倒すかいっつも考えてたんだよね」


 道中、ヨシュアの語る魔法剣士の研鑽の秘訣を聞きながら洞窟を目指していた。


「わかる。こいつには負けられねえとか、あいつにだけはいつか勝つって目標は大事だよな」

「そうそう。倒す手段や方法は百通りは欲しいよね」


 修行方法や戦闘方法でカーティスがヨシュアと意気投合していた。




 そして何とか午後のまだ明るいうちに洞窟へと辿り着くと。


「サンドローザ! どうしてあなたがここに?」

「エスティア!? な、ちょっとあんた、なに男引き連れて来てるのよ! 見ない顔までいるし……まさかハーレムルート狙ってる?」

「そんなわけないでしょ!?」


(ちょっとは考えたけど、ノーハーレム! 私はセドリック攻略一筋で行く!)


 まさかの金髪赤目のゴージャス王女が先回りしていた。辺りを見回すが彼女が追っていたはずのアルフォートの姿はない。


「アルフォートを探そうと街に出たらアヴァロン山脈がとんでもないことになってるじゃない。先にこっちの様子を見てからにしようと思って来た……んだけど……」


 洞窟の奥、サンドローザ王女の後ろに聖杯らしきものがぼんやりと光って見えた。


 近寄って確認しようとしたエスティアだったが、その前にセドリックが立ち塞がって王女に近づくのを阻害した。


「セドリック?」


 大きな背中に顔をぶつけてしまった。

 何か様子がおかしい。


「サンドローザ王女。よくも親しげにエスティアに話しかけられるものだな」


 抑えているがセドリックの言葉には怒気が滲み出ている。


「伯爵邸では遠慮していたが、ここなら問題なかろう。エスティアの婚約者を寝取り、結婚式を台無しにしたこと。いまだ婚約者のヒューレットへも貴女はどう贖うつもりなのだ?」

「げ。今ここでそういうこと聞く!?」


 サンドローザ王女はげんなりしていたが、エスティアたちも驚いたの何の。


「わあ。彼、激おこってやつ?」


 ヨシュアが思わず呟いている。


(怒ってる。ものすごく怒ってる、近年見ないほど〝激おこ〟だわセドリック!)


 そういえば彼はカーティスと一緒に婚約者アルフォートの部屋へは行っていたが、王女のいた牢屋やその後で移した客間へ行ったとの報告は受けていなかった。


「ま、待ってセドリック。今はそんなこと言ってる場合じゃ」

「エスティア、お前こそそんな甘いことでどうする! いくら学園時代からの親友だからって、王女のお前への仕打ちは許されるものではないぞ!?」


 そりゃそうだ、とエスティア本人も他の者たちも思った。

 親しい仲だったというなら尚更だ。


(別に婚約者だからって私はアルフォートなんか好きじゃなかった。白い結婚を守って離婚のつもりだったし、別にサンドローザに寝取られたって、私は……)


 もちろんセドリックとてそんなエスティアの事情は把握している。だが。


「婚儀の件はお前の名誉を傷つけた。回復するには王女やアルフォートに相応の罰が下されねばならない」

「……そうね。私、今のままだと〝寝取られ女伯爵〟だものね」


 こうして自分のために、本気で怒ってくれる男性がエスティアの想い人だ。

 しみじみ、嬉しかった。


 一回だけ深呼吸して、エスティアは強めに彼の大きな手を握った。


「セドリック。あなたが私のために怒ってくれてることが嬉しい。私だって彼女たちのことを放置しておくつもりはないわ」


 王女が小さく舌打ちしている。「有耶無耶にできるかと思ったのに」と呟いていた。


「だけど話は帰ってからよ。今は聖杯が先」


 今も上空を旋回している羽竜の黒竜は、瘴気を帯びた羽毛を撒き散らしている。時間を無駄にはできなかった。




 そんな彼らを、洞窟内の陰から窺っているいる人間がいた。


 エスティアの父テレンスとその甥で、まだ一応婚約者のアルフォートだ。


「チッ、あのガキ、相変わらず融通のきかないことだ」


 普段は鈍臭いくせに、とぶつぶつテレンスが呟いている。


「どうするんだ、叔父貴。奴らの前に聖杯を手に入れるつもりだったんだろ?」

「王女が先回りさえしてなければ……」




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