装備者限定、四属性の魔法剣/魔力継承の仕方
二人で逢瀬を楽しむかと思われたエスティアとセドリックは、そのまま少し離れた場所から山頂の黒竜の様子を窺っていたらしく、すぐ戻ってきた。
新たにパーティーに加わった青銀の髪の魔法剣士ヨシュアは、山頂に向かう前に魔力を込めやすい、刀身の内部が空洞になった剣を作ってエスティアたちに属性魔力を込めるよう頼んだ。
「二属性までが限界でしょ? 私たち全員だと四属性。魔法剣が壊れてしまわない?」
「うん。だから混ざらないように刀身をセクション分けして一か所ずつ属性魔力を入れて貰おうかなあって」
形状は細身の片手剣だ。
持ち手にあたる柄に近い部分には最も安定するセドリックの土の魔力を。
その上にカーティスの炎の魔力を。土は炎を受け止める。
更に上にヒューレットの水の魔力だ。下の火の魔力と水の魔力では相性が悪いように思えるが、物理的な火と水ではないから問題はなかった。むしろ相反する性質は爆発的な威力をもたらす。
最後に切っ先部分にエスティアの風の魔力だ。
土から始まって重ねてきた属性魔力を発動するのに最適な組み合わせである。
「うーん。最高の出来なのに君たちじゃ使えないのか」
属性魔力の利用方法がわかったとコツを掴んだヨシュアは、全員分の四属性付き魔法剣を作ろうとした。
ところが最初に作った片手剣をまずエスティアたちに持たせて試し切りや魔力の発動を実験させたところ、誰一人として四属性を使いこなせなかった。
ただ一人、製作者のヨシュアを除いて。
「属性別の魔力体質も良し悪しだね。君たちの文化圏に複合魔力の持ち主っていないの?」
「いても二属性までね。例えば今の国王のアーサー陛下は火と水の二重属性。私の亡くなった母は四属性ぜんぶ持ってたけど、……早死にしてしまったわ」
思えば母カタリナは能力チートで強かったが、身体への負担は大きかったように思う。
仕方ないから四属性の魔法剣はヨシュアがそのまま引き取ることになった。
「あと光と闇の魔力だっけ? それも含めて全属性複合の武具や魔導具が作れないか研究してみたら? 儲かるよ」
「できるかはわからないけど、やってみる価値はありそう」
ものすごい貴重な魔法剣が作れたと言って、ヨシュアは麗しの顔の頬をほんのり染めて嬉しそうに刀身を撫でた後、自分の魔力に戻していた。
「フフフ……家族や幼馴染みに自慢できるね」
アヴァロン山脈から抜け出て故郷に帰った後を考えて楽しげに笑っている。
ところで、と休憩中に焚き火で温めて飲んでいた白湯を飲みながらヨシュアが皆に訊いてきた。
「そんなに強い属性別魔力を持ってて、どうやって管理してるの? 違う属性同士で結婚して子供を作ると混ざるよね?」
「それがそうでもないのよね」
「持ってる属性で差別などもないよな。まあ光の魔力持ちだと優遇されるけど」
(乙プリの設定資料集のネタだけど)
「両親が代々続く家だったらって条件が付くけど。父母どちらかが暮らしていた土地で妊娠して生まれ育つことで、ある程度コントロールできると言われてるわ」
「そうですね、同じやり方で子供の外見も両親どちらかに偏って似やすいです」
ヒューレットが横から補足してきた。
実際、例えばカーティスは父親のザックス辺境伯と同じ火の魔力持ちで、外見も辺境伯一族特有の赤茶の髪とグレーの瞳だ。
ヒューレットは王家の近い親戚だが、王家に出やすい金髪ではなく今のノア公爵家に多い水の魔力にヘーゼルブラウンの瞳と銀の瞳。
「私の場合なら、孕んだ土地は母の留学先だったこの国の王都だが、生まれ育ったのは隣国王女の母が隣国に帰国した後だから、母と同じ黒髪だ。ただ、瞳は恐らく実の父と同じだ」
セドリックの場合、彫りの深い顔立ちは隣国王家のものだ。この国の貴族だった実父の要素は目の色だけだった。
両親どちらも土の魔力保持者だったこともあり、セドリックは特に強い土の魔法を扱える。
「妊娠時と育った環境の魔力が関係してるのかな? そういえばオレの家も外からどれだけ新しい血を取り込んでも本家の子供は同じ顔になるなあ」
「ヨシュアさんと同じ?」
「そうそう。うちは使用人も同じ一族で固めてるから家の中はみーんなこの髪の色と目の色だね。顔も同じ」
「それは、また」
青銀の髪と薄水色の麗しの一族なわけだ。想像するだけで圧倒されそうだった。
「エスティア嬢は風の魔力だから……ええと、お母上は四属性だっけ? じゃあお父上似なのかな?」
その場の空気が凍った気がした。
ヨシュアはパラディオ伯爵家の内情を知らないから、平気で地雷を踏み抜いてしまっている。
「ええ。私のこのミルクティ色の髪と緑の目は父譲り。顔は母に似たわ」
どちらも美男と美女だったので、結果として両親の良いとこ取りをした外見に生まれて育っている。
「聖女を輩出するパラディオ伯爵家だっけ? 女系で継承してるのにお父上側の要素が出るようにしたってことは、お母上はお父上にゾッコンだったんだねえ」
「え?」
何だか予想もしないことを言われて、エスティアは父テレンス譲りの緑の目を瞬かせた。
「本当は外見丸ごとお父上の要素を持った君を儲けたかったんじゃないの?」
「考えたこともなかったわ」
(私が子供の頃にはもう両親は仲が悪かったし)
両親の結婚は当時の国王、先王による王命だったと聞いている。
(サンドローザが言ってたことが本当なら、お父様が私を冷遇したのは何か事情があったのかも。でも)
一度は追い出してしまった父親を見つけ出して、話し合いが必要なのは理解している。
けれど母カタリナの生前から十数年に渡って不仲だったあの父テレンスと和解するイメージが今のエスティアには作れなかった。
(お父様が好き勝手なことをやって、領主の仕事や領内の魔物退治をお母様だけにやらせて過労死させたのは事実。外に愛人と子供がいるのも。私は頭に怪我までさせられた。そんな父親と同じ髪と目の色だなんて)
いくら前世の乙プリの推しキャラだったとはいえ、萌えが萎びてしまいそうだった。
救いは、そんな父と同じ髪と目でも、本命のセドリックは綺麗だと言ってくれることだろうか。
(セドリックと復縁したいけど、もう乙女ゲームっぽい選択肢も浮かばなくなってきてるのよね。攻略ルートがあるかもよくわからないし)
そもそも、ここが本当に『乙女☆プリズム夢の王国』の〝ゲームの中の世界〟かも怪しい。
これは同じ異世界転生者のサンドローザ王女も言っていた。
(その辺の検証もしなきゃだし。やることが多すぎて追いつかない)
男性陣が休憩を終えて再出発の準備を始めている。
エスティアも頭を切り替えて山頂に向かうことにした。