表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/46

聖杯を満たすのは〝真実の愛〟

 プリズム王国は大山脈のアヴァロン山脈で他国と隔てられている、少々閉鎖的な国として知られている。


 もっとも悪いことでもない。古い時代からの魔法が現在でも生きていて、聖杯や聖珠など神話の時代から伝わるアイテムが今でも使われている。


(この国は人の心が乱れると瘴気を発する魔物が現れて、人々の目を覚まさせるシステムになってるのよね。瘴気を祓うアイテムの第一が聖杯)


 建国の祖と言われる聖者アヴァロニスが聖杯、聖珠、聖剣をもって国土を切り開き、今のプリズム王国の基礎を作った。

 聖珠は行方不明で、聖剣は古の時代に魔王の息子を討伐するのに使われてそのまま消失。

 いまプリズム王国に残っているのは聖杯だけだ。


「なあ。あの黒ドラゴンが現れたってことは国が乱れた証拠だよな? いったいこの国に何が起こってるんだと思う?」


 日暮れ近くなり、山道の途中の山小屋での休憩時にカーティスが訊ねてきた。


「それはやはり、国のトップの問題だろうな」

「国王陛下か、もしくは王妃様か」


 とはいえエスティアは学園卒業後はパラディオ伯爵領から出ていないし、今の王都で何が起こっているかはわからなかった。

 これは辺境伯令息のカーティスや隣国人のセドリックも同じだろう。


 となると詳しいのは王女の婚約者で近衛騎士のヒューレットだが。

 皆の視線を受けて躊躇いがちにヒューレットは口を開いた。


「近年、国王陛下と王妃殿下の仲が冷え込んでいるのは事実です。どちらも不貞などは犯しておられないようですが……」


 ヒューレットは言葉を濁した。

 一応、現国王夫妻は『真実の愛』で結ばれた建前があるから離婚はできないし、大っぴらに愛人も持てなかった。


 だがそんな話はひとまず後回しだ。


「私たちの親世代が今の国王ご夫妻が中心となって若い頃に聖杯で瘴気を祓ってるはずでしょう? それから二十年と少し。いくら何でも次が来るには早すぎる」

「まあ状況から見たら、正しく聖杯を使えていなかったか、瘴気を完全には祓いきれてなかったってことなんだろな」


 カーティスが集めた木の枝の山に火の魔法で着火した。防寒装備は用意してきたがさすがに標高が高くなってくると冷える。


「母から聞いた話だが、聖杯は真実の愛の持ち主でなければ起動しないと言われているそうだな? そして聖杯を使ったのは現国王夫妻と」

「ああ。当時王子だったアーサー国王と光の聖女リゼットの間に愛はなかった。そうなっちまうよなあ」


 カーティスとセドリックが遠慮なく話す内容に、近衛騎士のヒューレットはやはり顔色が悪い。

 それでも否定しないということは、彼もそう認識しているということだろう。


「状況から見るとそうなります。最初は愛があったけど、時間が経つにつれ愛が薄れた可能性もありますが」


 プリズム王国では国の雰囲気は王族、特にトップの国王と王妃の在り方が左右する。


「ここだけの話にしてほしいんだけど。学園時代、サンドローザ王女が言ってたわ。『あのクソ両親たちに真実の愛なんてあるわけないわ。打算でしか動かないクソどもよ』」


 王女が淑女にあるまじき悪態をついていた記憶がエスティアにある。


「真実の愛で結ばれた二人なのに? って聞いたの。でも、とっくに関係の凍えた仮面夫婦なんだって」

「でもよ、当時の国内を覆っていた瘴気が晴れたことは事実だろ?」

「ええ、近年の歴史書にもしっかり記されています」


 ヒューレットは公爵家の人間だ。遠縁のエスティアより王家に近く、その分詳しい。


「聖杯を求める旅に参加したのは、主要メンバーだけでなく彼らの護衛たちも含めるとかなりの大人数だったそうです。推測ですが、その中に一人や二人、真実の愛持ちがいたとしても不思議じゃないです」


(一番モテてたのは正ヒロインで光の魔力持ちのロゼット様。サブヒロインのカタリナお母様も人気はあった。まあ攻略対象もなんだけど)


「それさあ。そもそも『真実の愛』ってなんなの? ふわっとし過ぎてない?」

「単純ですよ。聖杯が認定する真実の愛は、『自分に素直に誠実に人を愛すること』だそうです」

「んー。つまり?」

「誰かを好きって自分の気持ちをちゃんと受け止めて、大切にしてるってことじゃないでしょうか」


 単純に、『誰かを本気で愛したこと』が乙女☆プリズム夢の王国の設定だった。


 乙プリではその基準は、ヒロインたちはステータス画面か、日常フェイズのデフォルメされた攻略対象の頭の上に浮かぶハートの大きさと色で判断できた。

 大きさの最大はサッカーボールぐらい。

 色は白から始めて関係が冷え込むと青に、ホットになるにつれ暖色になってオレンジ、赤と続き、最終的に濃いピンクに変わる。完全に縁が切れるとブロークンハートでひび割れて真っ黒になり修復不可能になる。


(乙プリだと聖杯にスイッチが入る最低基準はオレンジだったな)


 だからエスティアはヒューレットがもっと単純に『真実の愛』を捉えていることに驚いた。


「相手と想いが通じ合うことは条件にないのですか?」

「ええ。だから当時の探索メンバーの中に一人ぐらいいたんじゃないかって思います」


(でも、今こうして黒竜と瘴気被害があるってことは、その誰かの愛は聖杯が決めた真実の愛基準を満たしてなかったってことに)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ