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本命、再攻略を決めました!/その頃、父親と元婚約者は

 侍女に案内された客間には確かにアルフォートの姿がない。

 あったはずの荷物のうち、貴重品と手荷物程度のバッグだけがなくなっていた。


 テレンスが出ていくときに連れ出してしまったらしいとの報告に、エスティアはまた頭が痛くなってきた。


「嘘でしょ、アルフォートまで……くそっ、こんなことならあたしの部屋に連れ込んでおけばよかった!」


 事態を知ったサンドローザ王女も飛び出して行こうとするが、エスティアが慌てて止めた。


「駄目よ、ヒューレット君がまたあなたを迎えに来るのに! 勝手に出奔したらあなただけじゃない、私やパラディオ伯爵家まであらぬ疑いをかけられる!」


 腕を掴んでくるエスティアに、意地悪げにサンドローザ王女が笑った。


「あら、そう? 初めてを捧げた男だし私はアルフォートと添い遂げられるよう頑張るつもりだったの。現王家の王女と王家の正統なら良い組み合わせじゃない? どうせ純潔じゃなくなった王女じゃ公爵令息のヒューレットとは結婚できないだろうしね」

「それは」


 話を聞く限りだと良い案だった。

 だが、女伯爵エスティアの婚約者を寝取った王女なんて醜聞を王家、特に今のアーサー国王が許すだろうか?


「ヒューレットも駄目、アルフォートも駄目なら次の私の婚約者は誰になるかしら。ねえ、エスティア?」

「ま、まさか」


 ものすごく嫌な予感がする。


「傷物のあばずれ王女と、不義の子の隣国王弟。お似合いだと思わない?」

「サンドローザ!」


 次に狙うのがセドリックだというのか。


「ははは、冗談言ってるわけじゃないのよ。現実的な代替案がそれしかなくない? でもどうせ仮面夫婦よ、愛人があんたになるなら見て見ぬ振りしてあげる」

「いやあああ……想像できちゃうところが怖いわ!」


 リアリティありすぎる想像をエスティアに植え付けて、笑ってサンドローザ王女はドアへ向かった。


 去り際、サンドローザ王女は手痛い攻撃を仕掛けてきた。


「ねえ。テレンス君関連のことは乙プリをプレイしてなくても、普通に情報収集してたらわかるレベルの話よ?」

「え?」

「テレンス君やアルフォートにちゃんと向かい合ってたらもっと関わる全員にとって良い結果になったかもしれないのに。あんた、自分のことばっかりで全然周りが見えてないのよ!」

「!」


 言うだけ言って今度こそサンドローザ王女は去っていった。


「おいエスティア、何があった!?」

「エスティア?」


 カーティスとセドリックの声がどこか遠い。

 ここで気を失えるようなか弱い女性なら可愛げもあるだろうが、生憎と弱いメンタルで女伯爵などやっていられない。


「セドリック……」


(何よサンドローザのやつ! 人の結婚式をダメにした挙句、セドリックまで奪おうっていうの!?)


 心配げな顔で駆け寄ってくるセドリックに胸の奥がぎゅうっと締め付けられそうになった。


(私だって彼を諦めたくなんかなかった。攻略対象……ううん、もう乙女ゲームなんてどうだっていい。私はセドリックが欲しい!)


 エスティアが本命の再攻略を決意した瞬間だった。





 濃いめのミルクティ色の癖毛と緑の瞳の美男テレンスは、金髪青目の自分とよく似たこちらも美しい青年アルフォートを引きずるように道連れにして山道を歩いていた。


 向かうはプリズム王国の聖域、アヴァロン山脈だ。


「叔父貴ぃ。こんな遠回りして何やろうっていうんだ?」


 パラディオ伯爵家を出る際、テレンスは軟禁されていたアルフォートを強引に連れ出していた。

 護衛の騎士たちをわざわざ魔法で眠らせて。テレンスは風魔法の使い手。風魔法には人間の精神に作用する術も多い。この手の悪戯は学生時代からお手の物だった。


 しかも一度、〝愛人〟親子のいる別宅を経由してから、アヴァロン山脈に登っている。

 監視の目を欺けていたら良いのだが。


「こんな三文芝居いつまでもやってられるか! アルフォート、お前だってそうだろう!?」

「いやー俺はサンドローザ様がいればそれでいいかなあって」


 まさか学生時代の憧れの王女様と自分が両想いとは思いもしなかった。

 しかもお互い初体験で初めてを捧げ合った。まさに奇跡。

 やに下がった顔でアルフォートはへらへら笑っている。


「この野郎。エスティアの結婚式を台無しにした報いは必ず受けさせてやるからな!」

「あー……。それ叔父貴に報復される前に隣国の王弟殿下に殺されそう」


 美形の叔父が凄んでくるがあんまり怖くはない。もっと怖いものをアルフォートは知っている。実家の祖父マーリンだ。


「お前さえエスティアと結婚してたら親父が賢者の石をくれたのに。そしたらもうポーション研究も必要なくなる。エスティアがカタリナの二の舞になったらどうしてくれる!?」

「カタリナ伯母さん、魔物退治の過労で亡くなったんだっけ? 叔父貴が代わりに戦ってやりゃよかったのに」

「そのカタリナが私を戦わせなかったんだ! 代わりにポーション開発で助けてくれって言うから、私は……私は……くそ、まさかあんなに早く死んでしまうなんて」


 悔やむテレンスをよそにアルフォートはそびえ立つ山脈を見上げた。


「おい見ろよ、叔父貴。ヤバいぞ、中腹から上が瘴気で真っ黒。しかも」


 ギャオーン……と遠くからドラゴンの鳴き声まで響いてきている。


「こんな場所に本当に聖杯があるのかよ? 情報間違ってないか?」

「学生時代のロゼット王妃やカタリナと一緒に、山頂付近で確かにこの目で見ている。……王家がエスティアに目をつける前に確保だ!」

「……何で俺まで巻き込むかな」


 一度寄った愛人宅で装備は整えてきたが、テレンスもアルフォートも典型的な魔法使いで剣や弓など武器は苦手だ。

 この状態で魔物に襲われたら結構きつい。


「『条件を満たした者の願いを叶える』だっけ? そんな眉唾ものがあるとは思えねえけどな」


 かつてロゼット王妃とアーサー国王たちは同じアヴァロン山脈に登って聖杯を探し出し、プリズム王国を覆い尽くそうとしていた黒竜の瘴気被害を解決した。


 二人は結ばれてサンドローザ王女が生まれたが、彼女はロゼット王妃が持っていた光の魔力を受け継がなかった。

 受け継いだのは父王の火の魔力だ。そこそこ強いが両親を上回るほどじゃなかった。


(そこで何でわざわざ親戚とはいえ王家の遠縁のモリスン子爵家を思い出すんだよ。サンドローザ様が跡継ぎでいいじゃないか。母親が平民なのが気に食わないならモリスン子爵家だって王族の血はだいぶ薄まってるのに)


 ただでさえ面倒くさい王家の事情に巻き込まれているのに、特にテレンスは妻カタリナを早死にさせたことで、カタリナのファンだったロゼット王妃に恨まれている。


 その上、アーサー国王は学生時代から寵愛していたテレンスをまだ諦めていないとの噂もある。


(叔父貴なんて顔が良いだけのオッサンじゃん。国王なら若くてピチピチの女でも男でもよりどりみどりじゃないのかね)


 そこに来て最近また国内に広がり始めた瘴気被害。


(今の王家から天命が薄れてきてるってことなのかねえ)


 言い伝えでは、国王が良く治める時代にはアヴァロン山脈を寝ぐらにする黒竜は大人しく、瘴気を発しない。

 国が乱れたときに暴れ出して、瘴気で国内を汚染し、人の心を乱す。そう言われていた。




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