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誰得な追加要素の謎

「えっ。テレンス君を追放した? マジで?」


 客間のサンドローザ王女に会いに行って報告すると驚かれた。


「あ、あのさ。あんた、スマホ版の追加ルートをもしかして周回してないの?」

「え? 百合とBLストーリーのこと? 事前情報ほどそういう要素なかったあれ?」

「……うっわ。あんたライトユーザーだったのね。それ物語の表面しかなぞれてないわよ?」


 どういうことか、と眉間に皺を寄せたエスティアに王女は彼女の知る乙女ゲーム『乙女☆プリズム夢の王国』の全体像を教えてくれた。


「乙プリはクソ古いゲームでしょ。昔のゲームってすごい複雑で入り組んでるのよ。スマホ版が出た頃はネットで攻略情報が網羅されたから、それ見た新規ファンは悲鳴を上げたもんよ」

「そう……ね。家庭用ゲーム機で遊んでた私の頃は、中学の友達と章ごとの分岐をノートにまとめてたわ。選択肢は常に三つだったから数人で手分けしてなんとかやってた」

「なにそれ昭和の話?(笑)」

「失礼ね、平成に入ってからよ!」


 事前情報だけで大炎上したスマホ版の追加要素の百合とBLは、実は本当の乙プリ古参ファンたちには今さらネタだったとサンドローザが言った。


「元祖乙プリのCD-ROMをパソコンでリッピングすると、ゲームに反映されなかったシナリオの生原稿が出てくるの」

「リッピング……?」

「ゲームソフトのデータをパソコンに取り込むことよ。大半は違法とされてる。そのリッピングで確認できる乙プリの生原稿によると、あたしの国王陛下(とうさん)がテレンス君を可愛い可愛いって言ってるセリフなんかがあるわけ」

「まあ」


 エスティアは思わず手のひらで口を覆ってしまった。


「旧版だと実際のゲームを構築する中で、そういうあからさまな感じのBLとか百合のある部分は使われなかったみたい。だけどソフトのCD-ROM内にテキストデータが丸々残ってるのよ」


 サンドローザによると、まだインターネットが一般的になっていない時代の乙プリファンは限られた人間しか使っていなかったパソコン通信でコミュニティを作って情報交換していたようだ。


「それを知ってるってことは、あなたもリアルタイムで乙プリを遊んでた人?」

「ううん。シリーズ最新の数作を遊んでたし、この世界に転生する前は大学受験が終わったばかりだった。リッピングの話はスマホ版が出てからSNSで情報が流れてきて知ったの」




 そもそもエスティアとサンドローザ王女は、前世では同じお嬢様学校の卒業生と在校生だったようなのだ。


 なぜお嬢様学校の生徒が乙女ゲームを遊んでいたかといえば。

 シリーズ一作目の乙女☆プリズム夢の王国では本編での貴族令嬢たちの淑女マナーを監修したのが学校の当時の女学長だった経緯からだ。


 その縁で在校生たちにゲーム会社から体験版がプレゼントされていた。


 テレビゲームなんてとんでもないと目を釣り上げる厳しい親御さんのいる家庭でも、学長が監修したこのゲームだけならとゲーム機本体を買って親子で楽しんでいた。

 前世のミナコの家もその口だった。


 ゲーム自体が全年齢向けで、スマホ版のように余計な百合やBL要素がなかったからPTAも騒がなかったわけだ。


「あたしの時代になると最新作がパソコン教室でプレイできるようになってたの。各教室一機ずつ本体があって、クラスメイトたちと放課後に遊んでたっけ。もちろん全年齢向けの作品だけだったけど」

「学長先生はお元気だった?」

「もちろん! たまに乙プリシリーズを遊んでるとこに来て生徒(あたし)たちを見守ってくれてたわ。でも乙プリのスマホ版が出る前年に退職しちゃって」


 もう年だったから仕方がないと残念そうにサンドローザが笑う。




「そんなわけで元々の旧版ソフトのテキストデータに百合もBL要素もそれなりに入ってたわけ」

「でも、私がスマホ版で遊んだときはそこまでなかったわよ?」


 百合にもBLにも馴染みがなかった前世のミナコは、何が出てくるかと緊張しながら薄目で恐る恐るプレイしてしまったほど。


「スマホ版で本編を正ヒロイン、サブヒロインそれぞれで攻略対象全員をエンディングまでトゥルーエンドからバッドセンドまで全クリすると、追加の百合ストーリーとBLストーリーも全容が解放されるの」

「えっ。そんなの知らない!」


 むしろ一般ユーザーでそこまでやり込む人は少ないのではないか?


「攻略サイトを見てたら気付いたはずだけど」

「さ、最初はそういうの見ないで遊びたいなあって思って……」

「出たよライトユーザー(笑)」


 何だかイヤな感じで笑われてしまった。




 それはともかく、サンドローザ王女はエスティアが父テレンスを追放したことに驚いていた。

 理由は何なのだろう?


「百合ストーリーは本編正ヒロインだったあたしの母さんロゼットが、あんたのママのカタリナ様が大好きだったって推し萌えや尊みを叫んでるだけ。問題はBLストーリーのほう」


 ごくり、とエスティアは唾を飲んだ。


(なに、いったい何が出てくるというの!?)



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