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父親への処罰

 エスティアは今年二十三歳。とっくにこの国の成人年齢の十八歳を越している。

 既に伯爵家と伯爵位を継承する年齢に達していたため、婚儀の数日前の時点で手続きを完了させていた。


 エスティアが爵位を継承するまでの代理伯爵だった父テレンスは身を守る地位を失った。

 彼は子爵家の出身だ。自分の爵位も持っていないし、実家から他の爵位を譲られてもいない。


(最推しのテレンス君を追い出したくはないけど、この父はエスティアと仲が悪すぎる)


 それに後頭部に大コブを作ったあの日の出来事の恨みもある。

 傷こそなかったがコブが消えるまで一ヶ月近く。さすがに親子の情も吹き飛ぶってものだ。


 それにパラディオ伯爵家の帳簿を確認してみると、父には伯爵代理のお手当て以外の使途不明金があった。

 亡母カタリナの生前から現在まで不定期に続いている。


 婚儀の日から父テレンスも自室で謹慎するよう命じて監視を付けてあった。

 抗議してくるかと思えば案外大人しい。監視させていた家人からの報告では、自室で何やら考え込んでは独り言を呟いていたそうだ。




 というわけで、現当主にして伯爵のエスティアが決めたのは、父親を伯爵家の籍から抜き、追放することだった。


「どうぞ、ご実家の子爵家へお帰りください」

「馬鹿な! 私はお前の実の父親だぞ!?」

「実の娘に対して、婚儀の当日に不貞を犯すような愚かな男を婚約者に選定する父親なんて要りません」


 ましてやエスティアは婚約者を嫌がって、これまでも繰り返し婚約の解消を望んでいたのだ。

 それを却下し続けたのはこの父親自身だ。


「それだけじゃありません。あなたは代理の伯爵に過ぎない立場で、随分と伯爵家の財産を使い込みましたね」

「……それがどうした。伯爵家を維持するのに必要な経費だ」


 テレンスのエスティアと同じ緑の目が泳いでいる。これは本人自身もヤバいと自覚有りと見た。


「領内に別宅をお建てになったとか。その家には『私が未来の伯爵夫人よ』『私は伯爵令嬢なの』と吹聴する親子が住んでいるそうですね」

「………………」


 別宅が建てられたのはまだ母親の生前。

 異母妹らしき女性はエスティアの数歳年下。計算するまでもなく、浮気は母カタリナが生きていた頃からだ。


「おかしいですね。伯爵家の婿養子のあなたが愛人と子供を外で作ることも許されないのに。伯爵家の血を持たないあなたと結婚したって、愛人は伯爵夫人にもなれなければ、娘は伯爵令嬢にもなれない。お父様、あなた愛人とその子供に嘘を教えて何をするおつもりでしたの?」

「そ、それは」


 テレンスの目はもう泳ぎっぱなしだ。


(せめて何か言い訳でもしてくれれば良いのに)


「まさかと思いますが、この伯爵家の簒奪……とか?」

「………………」

「この国に限らず、王政国家で貴族家や爵位の簒奪行為は事実確認の後、即処刑も有り得ますよ。もちろんご存じなのですね?」

「………………」


 特にプリズム王国は魔法使いなど魔力持ちが多い国だ。血筋の順列を乱す行為には厳しかった。

 現王家唯一の王女でありながら、母親が平民だという理由で立場の弱いサンドローザ王女がいい例だ。


「本日中に荷物をまとめて出て行っていただきましょう。当然ながら、我が伯爵家の物を持ち出すことは認めません。了解いただけますね?」

「お前は実の父親を捨てるのか」


(テレンス君を捨てたくなんかないです! でもあなたがあまりにも、ろくでなし過ぎるのが悪い!)


「あなたは捨てられても文句を言えないことをしたのです。女伯爵の婿になりながら、妻に非協力的で、負担をかけて過労で早死にさせた」


 ぴく、と父テレンスが小さく身動きした。


「次に、女伯爵となる娘の私に不適切な婚約者をあてがい、多数の王侯貴族の前で恥をかかせた。……追放をやめて、償えるようなお仕事を斡旋しても良いのですよ?」


 やはり王道は鉱山の強制労働かしら、と呟くと父親の肩がびくっと震えた。


 四十を超えてなお美しい男だ。荒くれ者の多い鉱山に放り込まれれば身が危うい。

 さすがのエスティアもそこまでしたくはなかったが……。




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