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誠意は金貨でお願いします/雑種王女の危機

 翌日の午後、夕方近くになってから王家の代理人の弁護士を連れて近衛騎士ヒューレットが再びやってきた。


 だが交渉は難航した。

 王家の代理人は、王命だから王女を引き渡せと高圧に言うばかり。


 応接室に二人を通したエスティアは、へりくだることなく伯爵家の女当主として毅然と対応した。


「仰ることはわかりましたわ。でもねえ、私の婚約者のベッドに忍び込んで婚儀を台無しにした女性は、許可なく我がパラディオ伯爵家に忍び込んでおりますの」

「どういうことです?」


 壮年の男性弁護士は見るからに百戦錬磨の狸親父だったが、エスティアだって若いとはいえ女伯爵。

 記憶を持っている前世のミナコもアラフォー会社員として一時は部下を持ち、それなりに交渉の経験を積んでいる。


「彼女、自分が王女であることを証明する身分証を何も持ってないのですよ。確かに顔は似てるかもしれません。髪は金色で瞳も赤い。……でもそれはこの国の国民なら珍しくないですからねえ」


 故意なのか、本当に忘れてしまったのかはともかくとして。


「現状、彼女は私の元婚約者と婚儀の当日に不義密通を犯した罪人です。貴族か平民かも定かでありません」


 だからその辺も含めて何とかしろとヒューレットを王都に一度帰らせたつもりだったが、あまりこの弁護士には伝わっていないようだ。


「ですから彼女は間違いなく王女殿下であると」

「なお悪い。女伯爵たる私の婚約者を身体で籠絡した。しかも婚儀の当日に。お陰で私は夫となる男性を失い、他国の王族や貴族も参列する教会で笑いものとなったのですよ」

「そ、それとこれとは」


(話しが別? そんなことは言わせない)


 エスティアは元からアルフォートに期待していなかった。

 かといって、式場で半裸のまま縛られて引きずられてきたあの男を見たときの屈辱感と脱力感は言葉にできないものがあった。


「彼女を引き渡すことは構いません。ですがそれは、私への償いが明確になった後です。王命に逆らうつもりはもちろんございません。けれどその前に、王家の代理人たるあなたは私に彼女が犯した罪の償いを提示する必要があります」


(とりあえず誠意さえ見せてもらえば私はOK。既に伯爵の私にこれ以上の地位や名誉は不要だから、お金! わかりやすくて良いでしょ!?)


 昨今はパラディオ伯爵領も瘴気被害に追われていて、資金はどれだけあっても困らない。

 さあ、王家はどう誠意を見せてくれるのか。


「まさか、償いも何もなく罪人だけを連れて帰れるなどと、弁護士たるあなたが思うわけがありませんね?」


 これ以上ごねるなら、罪人はパラディオ女伯爵が裁く。

 本当に彼女がサンドローザ王女ならもちろん王家が処罰するものだが、現時点では王女の証明ができない。

 ヒューレットや弁護士が彼女を見て王女だと確認することは容易だが、その前に出すものを出せとエスティアは強気だ。


「示談で済ませたくはありませんの?」


 主導権はこちらにあるのだぞ、と思いっきり上から目線で、それでいてさも慈悲深そうな女伯爵様らしく笑った。


(これはムカつくでしょうね~。わかっててあえてやる、それが貴族!)


 案外楽しいものである。


 結局、弁護士は腹立たしさを隠しもせず帰っていったし、ヒューレットだけは王女との面会を望んだがエスティアは却下した。





「これで良かったの?」

「バッチリよ! 出来るだけあたしの引き渡しをだらだら~っと伸ばしてちょうだい」


 だがヒューレットが気の毒だ。一応まだサンドローザ王女の婚約者は彼のままなのに。

 こうしている間にも、王女がエスティアの婚約者を寝取った噂は国内を駆け巡っているはずだ。


「彼にどんな不満があったの? 学園時代、人気ナンバーワンの貴公子様よ?」

「ああいう血統書付きの男、苦手なのよね。こちとら平民女を母に持つ雑種よ? ムリムリ、ヒューレットと夫婦になったらあたし一生比べられて雑種雑種言われるじゃない!」

「それは、まあ……そうかもしれないけど」


 昨日、ヒューレットが一度王都に戻った後で牢から出した王女から、彼女なりの事情を聞いている。


 サンドローザは現国王夫妻の一人娘だ。まだ立太子していなかったが、次期女王がほぼ確定している。


 だが本人が言う通り母親が平民出身の王妃のため立場が弱い。

 そこで婚約者となったのが数代前の王女が降嫁して公爵に爵位が上がったノア家のヒューレットだ。

 他にも王族の親戚の血が入っているためサンドローザより王家の血の比率が高かった。


「血筋を煮詰めちゃいけないって何度説明しても頭の固いジジイどもは理解しようともしない!」

「まあねえ。前世の記憶がある私たちからしたら、近親婚のやりすぎは自滅ってわかってるからほどほどに外部の血を取り入れろってわかってるけど、この世界じゃあね」


 前世のミナコの時代では遺伝子解析もほぼ終了していて、特権階級などのエリートはそういう血筋だからというより、エリートを作るに相応しい〝環境〟ありきだったと科学的なエビデンスがあった。

 ゲームでいうなら、血筋が重要だという世界観の設定や人々の価値観次第だ。




「……あたし、何で母さんの光の魔力を受け継がなかったんだろう。それさえ持ってたらこんなことする必要だってなかったのに」


 気丈に振る舞っていてもサンドローザは落ち込んでいる。


 昨晩、牢から出したサンドローザから聞かされたのは王家の策略についてだった。

 乙女☆プリズム夢の王国の本編の正ヒロインだったロゼットはアーサー王太子と結ばれ王妃となって、一人娘のサンドローザ王女を産んだ。


 しかし王女にはロゼットが王妃として認められる一番のメリットだった〝光の魔力〟が継承されなかった。

 こうなると、サンドローザは王女であっても半分平民の血の混ざった王家のお荷物だ。


「ヒューレット君と結婚した後、彼により王家の血の濃い女性をあてがって産まれた子供を跡継ぎにする、か。そこまでして平民の血を排斥したいものかしら」


 このままヒューレットと結婚したら自分はお飾りの女王になる。


「他の女との子供が生まれた後、私は殺されるかもしれない。そう考えたらもう居ても立ってもいられなくって」

「それ、いつ頃知ったの?」

「学園を卒業する前。国王(ちち)の執務室で宰相や大臣たちが話しているのを聞いてしまったの」

「……あなたたちがまだ婚約に留まってた理由はそれかあ」


 エスティアと同い年の王女は今年二十三歳。まだ未婚なのは年齢的に遅かった。




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