表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/46

結婚当日、花婿が来ない~寝取られて婚約破棄

 いよいよ婚儀の当日。ついにこの日が来てしまった。


 濃いミルクティ色の髪をアップスタイルにまとめ、エスティア伯爵家に伝わるダイヤと真珠のティアラを。

 普段は領内の視察や瘴気対策で動くことが多いから化粧をしても簡単に済ませることが多かったが、今日ばかりは侍女が隙のないしっかり艶メイクを施した。


 美しいウエディングドレス姿のエスティアに、だが褒めるのは幼馴染みたちと使用人たちのみ。


 父テレンスも娘の晴れ姿を見に来たが、良いとも悪いとも言わなかった。

 あまり娘に関心のない父親だ。てっきり鼻で笑うかと思いきや、意外なことに無言のままで、表情のない顔でじっと純白のドレス姿のエスティアを見ていた。


「さあ、エスティア。式場へ行くぞ」


 屋敷から会場の祭儀場までは父テレンスがエスコートする。


 既に正装に着替えていたカーティスやセドリックは先に式場へ向かい、花嫁と花婿を待つことにした。




 花嫁エスティアが会場入りしてから、随分と時間が経った。


 ところが時間になっても花婿が来ないのだ。


 三十分ほど経過したとき、普段は無造作な赤茶の髪を正装用に後ろに撫で付けたカーティスが、何やら隣のセドリックと言葉少なに会話しているのが見えた。

 カーティスはそのまま式場を出て行った。花婿アルフォートの様子を見に行ってくれたようだ。


 参列者たちが痺れを切らし始めた一時間後、外から騒がしい複数人の怒鳴り声が聞こえてきた。

 伯爵家の騎士たちの声だ。


「花婿を連れてきた。だが残念だが婚儀は中止だ、見ろ!」


 カーティスは確かに花婿アルフォートを連れてきた。

 だが。


 会場内の参列者たち、特に女性客から悲鳴が上がる。


 現国王と同じ金髪青目の美男子なのは変わらず。

 ところがパラディオ伯爵家で用意していた花婿用の正装を着ていない。


 着ていないどころか、いや文字通り〝着ていない〟のだ。

 全裸でないのが幸い程度の下着姿で、後ろ手に騎士に両腕を拘束されている。


 女性たちが悲鳴を上げた理由は見てすぐわかった。

 首筋や胸元、腕などに赤い斑点がいくつもある。


 何なのかは、同じく隣に引きずられてきた女性を見れば一目瞭然だ。

 こちらも半裸の下着姿のようだが、配慮されてか部屋着用のガウンを着せられている。

 だが肌けた胸元にはアルフォートと同じような赤い斑点、キスマークが無数に刻まれていた。


「アルフォート、まさかここまで愚かとは……」


 結婚当日、この男は婚儀も忘れて浮気相手とベッドでお楽しみだったのだ。





 式場にいつまで経っても来ない花婿を迎えに、幼馴染みのカーティスが向かってくれた。


 しかし屋敷から戻ってきたとき伯爵家の騎士たちと一緒に連れてこられたのは、下着姿の男女二人。

 女のほうはガウンを羽織っていたが、その下は生肌の脚も露わだった。


「客間で婚儀の準備もせずにグースカ浮気相手と寝てましたよ。合体したまんまで」

「そのまま連れて来ようと思いましたが公序良俗に反するかと思って下着だけは着せてきました」


 騎士たちの報告を聞いて、またエスティアは頭が痛くなってきた。


 男女二人はそれぞれの身体にキスマークや噛み跡があり、如何にも情事していましたと言わんばかりの肌だった。


「そんな。約束が違う」


 傍らの父親が愕然として小さく呟いている。


(約束? 誰と? アルフォートと?)


 何の話か問い詰めたかったが、今は目の前の男女が先だ。


「どうやら、この結婚自体がなかったことになりそうですね」

「だ、駄目だ、この結婚だけは取り止めはできない!」


 エスティアが溜め息をついたが、父親テレンスが慌てて否定する。


 だが。




「お、おい。あっちの女のほう、見覚えがないか?」

「まさか……サンドローザ王女殿下!?」


(あーあ。やっぱり気づかれるわよね)


 ここで仕方なくエスティアは王家に恩を売ることに決めた。


「あらあら、皆さん。よくあの女性をご覧になって。淑女の見本と言われる王女殿下が、まさか臣下の娘の婚約者男性と、婚儀の当日まで不貞行為を犯して半裸で引き摺られてきた。そんな馬鹿なことあるわけありませんわ」


 ただ似ているだけの別人だ、と。


「さて、婚約者様の意見も念のため、確認しておきましょうか」


 下着姿で転がしていたアルフォートは引きずってくるとき騒いだようで猿ぐつわを嵌められていた。腕は拘束したまま外すよう指示した。


「こ、このような辱め、許し難い! エスティア、貴様とは婚約破棄だ、慰謝料を請求させてもらうからな!」


 この期に及んでよくもまあ。

 式場内の参列者たちも呆れてる。


 その後も理不尽なことを喚き続けるので再び猿ぐつわを嵌めさせた。

 女のほうは俯いて震えているだけなのでそのままだ。


(これどう収束させたらいいんだろう……泣きたい)


 しかしこのままでは何も解決しない。

 ただでさえ参列者たちは一時間近く待たせてしまっている。


「皆さん、お待たせした挙句このような顛末となりましたが、彼との婚約も婚儀も本人の有責で破棄となりましょう。大変申し訳ありませんが、本日はこれにて解散とさせていただきます」


 後日、顛末の報告と詫びの品を送ることを約束して、参列者たちにお帰りいただいた。


 婚約者と王女らしき女性は半裸で縛られたまま引きずられ、伯爵領の牢屋に収監させた。

 特にアルフォートは女伯爵との結婚で結婚詐欺を働いたようなものだ。貴族の犯罪行為なので国が裁くことになる。

 後日、国から派遣されてくる騎士たちに引き渡すことになるだろう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ