あゝ素晴らしきゾンビ生
筆者は21歳、ちょっかいかけられると拳よりも足が出ます。
むくり、と1人の冒険者が体を起こした。
ぱちぱちと目を瞑っては開くと辺りを見渡してすぐさま近くに落ちていた剣を握……ろうとして止まった。
視界に入った右手は青白く、血に塗れていた。そして、指の節やら薬指など所々が黒く腐り取れかけていた。
その元冒険者現ゾンビは、ぴしりと固まると目を見開いてわなわなと震え始めた。
「ふ、不衛生だぁぁぁぁっ!」
−不衛生だぁぁぁ− −ぁぁぁあ− −不衛生だぁぁぁ−。
迷宮の暗い洞窟の中に甲高い叫び声が反響する。
ドタドタドタドタッ!
「ひ、ひぇぇぇぇっ!?」
その声に釣られて奥から駆けてくる魔物たちの爛々とした目を見て魔物1日目の初心者ゾンビは千切れそうな足で必死に走り出した。
冒険者ランク銅級、東村のサニー。享年16歳。
そして、今日からゾンビ0歳目である彼女は自身から漂う臭いに顔を顰めながら、迷宮から退散しようと走り続ける。
遠目に影が見える。二股路に出た。そこにいた冒険者パーティを見て助けてもらおうと走るサニーだったが、残念なことに彼女はそっち側ではない。
「ゾンビだっ!」
ひんっ、と泣きそうな声をあげ、ゾンビであることを大変不本意ながらも自覚したサニーは冒険者のいる方とは違う道へと方向転換して逃げていく。
二股路を冒険者の居ない方へ進んだ先に待ち受けていたのは曲がりくねった道に、鉄球の落ちてくる上り坂、いまにも崩れそうな橋に毒々しい色をした沼地。ゾンビになったからだろうか、息も切れずにしかしひいひい言いながらも彼女は迷宮を逃げていく。
何の恨みかはたまた迷惑な同業者への怒りだろうか。
縄張りを侵された魔物たちは彼女を執拗に追いかける。
光が見える。
迷宮の魔物たちは外までは出てこない。
「勝ったぞ!私の勝ちだぁっ!」
東村のサニー。すぐに調子に乗る赤毛の女の子で有名である。
飛び出した時にはもう遅い。地面に足がつかない。
これはもしや。
「ひ、ひぃぃやぁぁっ!?」
勢いよく宙に飛び出た彼女は足をパタパタとさせながら、崖沿いに落下していき、はるか下を流れる川にぼちゃんと落ちた。
ついでに勢いを殺しきれなかったゴブリンやらスライムやらも何体かぼちゃん、ぼちゃんと落ちた。汚い流星だった。
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「な、なんだったんだ…?」
「ゾンビだったよなぁ?」
「ゾンビが……魔物を率いていた…?」
「ギルドに知らせないと!上級魔物なんじゃないのか!?」
ゴブリンやらスライムやらに追いかけられていたゾンビっ子は居合わせた冒険者らによってその日のうちに賞金首のかけられた魔物になったということを未だ彼女は知らない。
どーでした?良ければ連載します。
最近ってこういうの多いから便乗してみました。