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最高のエスコートしてくれる人がいいって話してたら幼馴染の公爵令息が豹変!そんなアプローチなんてアンタには求めてないんだからね!  作者: 伊賀海栗


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④君は彼女の良いところを知らないのかい?


 空き時間のあいだ他愛のない会話を楽しみ、喫茶室を出るとそれぞれ次の授業へ向かう。……振りをして、ライルとターヒルは図書館へとやって来た。


 移動中には何も言わなかったターヒルだったが、図書館へ到着するや否や迷いも見せずに、精神系魔法に関する文献や論文が集まる棚へ向かった。


 後をついて行ったライルは、ターヒルから「隷属」「催眠」「従属」「服従」といったキーワードで本を探すように言われて絶句する。


「この手の術式は魔法陣の回り方が特殊なんだ。だから精神系であることは間違いないんだが……まずは術式を特定しないと対策できないからね」


「アイツ魔術士科だったよな。そんな物騒なこと教えてんのかよ」


「授業ではその存在が示唆される程度だろう。だが、相手がナヒッドなら別だよ」


 首を傾げるライルに、ターヒルは大陸地図を広げて見せた。そしてナヒッドの故郷であるクライシュ領を指す。


「この周囲を見て、何か気付くことは?」


「ドラゴンの営巣地が近い」


「そう。戦闘行為こそ多くはないものの、かの地は常に緊張状態にあると考えていい。歴代の侯爵は社交期でも滅多に王都へやって来ないくらいだ」


「それは有名な話だろ。でも服従魔法となんの関係が? ドラゴンを隷属させられるのは大魔術士くらいだし」


 ターヒルは棚を眺めて気になる本を引き抜いては、腕の中に積み上げていく。ライルはそれを受け取って机へ移動させた。


「従わせるのは人間のほうさ。ドラゴンとの戦闘は、人間同士の戦争とは違った緊張感がある。何より、終わりがないというのがきついのだろうね。逃亡する者も少なくないと言うよ」


「だから精神操作?」


 ライルも公爵家の端くれ。国の抱える問題については一通り聞きかじっている。


 ターヒルの説明に肩をすくめながら、ライルは本探しを手伝うことにした。喫茶室で見た魔法陣の形から術式を特定するしかない。図による解説が丁寧な本を中心に棚から引っ張り出す。


 数時間が経過したころ、ターヒルはやっと本から目を離して伸びをした。ライルもまた、机に突っ伏して深く息をつく。


「特定できたはいいのだが……」


 ターヒルの目の前に広げられていた本を自分のほうへ引き寄せ、ライルは頭をあげて魔術の説明を読み上げる。


「えっと……『限りなく拒絶の意を薄弱なものとさせ、論理的な納得または報酬を与えることで了承を得るものである。ただし、本人の真なる願いを覆すことはできない。拒絶した場合、術式は消滅する』か」


「しかも、『本人の拒絶または術者の意志でしか解呪できない』と書いてあるはずだよ」


 解説を読み進め、ターヒルに頷いて見せる。言う通りのコメントがついていたのだ。


「やべえな、この魔法。なんで禁呪になってねぇんだよ」


「うーん。本人の意志を無視しないからだろうね。だからといって、第三者が解呪できないのは恐ろしいことだ」


 いくつもの本をあたって得た答えは、やはり精神に干渉する魔法がシェリーンに用いられたのだということ。そしてそれが、精神操作系魔法の中では初級に位置付けられる軽度操作魔法だったということだ。


 ライルはページをめくりながら、空いた手でこめかみを揉んだ。


「そういや、戦って欲しいならなんで全部の意志を奪わねぇの?」


「それは法的に禁止されているだろう?」


 ターヒルの説明によると、完全に本人の意志を喪失させる魔法は非人道的であるとして禁止されている上に、術者の魔力や技術の問題からコストが高いのだという。

 また、戦意の高揚といった魔法は効果時間が限られているし、一歩間違えれば同士討ちに発展しやすい。


 まだ得心がいかない表情のライルに、ターヒルが言葉を重ねた。


「最低限の戦意の有無を確認している、つまりは人間をふるいにかけているんだよ。自ら戦地に赴くと決めたのなら、それなりの働きをするしね」


「でも本人の意志を無視しないなんて詭弁だろ」


「ああ、そうだね。僕もそう思うよ。少なくとも、平時に女の子の心を得るために使うようなものではないさ。後で法に触れないかも調べてみよう」


 ふたりの間に沈黙が落ちる。何を言ったところでシェリーンが自分の意志でナヒッドを拒絶しない限り、彼女は服従魔法がかかったままとなるのだ。


「でもシェリーンの好みじゃねぇだろ、ナヒッドって」


「どうかな。彼は眉目秀麗だし仕草ひとつとっても洗練されているからね。シェリーンだって女の子なんだからわからないよ。それにナヒッドはきっと、小さなデートを重ねてシェリーンの壁を壊していくはずさ」


「……だから『お茶の約束』だったのか。しっかし、シェリーンのどこがいいんだか」


「僕はライルがシェリーンの恋人になるのかと思っていたけどね。君は彼女の良いところを知らないのかい?」


 何気ない素振りで発されたターヒルの言葉に、ライルは目を丸くさせた。少しずつ赤くなっていく顔にターヒルは笑みをこぼす。


「お、俺のことはいいんだよ。要するにアイツがナヒッドを選ぶかどうかってだけだろ」


「そうだね。劇場デートも断るだろうと思っていたけど、このままじゃ難しそうだ」


「は? 劇場デートってなんだよ?」


 前のめりになったライルに、ターヒルはついに笑いをこらえきれなくなった。ひとしきり笑ったところで、ラブレターにチケットが同封されていたことを伝える。


「かなりドラマティックな恋愛劇だそうだよ。恋人と一緒に見ないといたたまれないし、恋人と一緒に見れば仲が深まると評判だ」


 ライルはこの日いちばん深いため息をついた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 『服従魔法』 ほう? ドラゴンすら従えうるとは! これはこれは! 楽しみな展開が目白押しですな! そんな時に劇場デートとは! これは激情案件!?
[良い点] なーんかターヒルがいろいろ知りすぎているような……? こいつ、ひょっとして……?
[良い点] ライル頑張れ! 意地を張ってる場合じゃないぞ!
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