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ep.45 外食にしない? 3/3

「ん〜〜〜美味しいぃぃ!」


 さやか達と合流したあと、4人で当初予定していた通りのステーキ店に入ることとなった。 

 肉厚の赤身肉に定評のあるチェーン店で、アメリカナイズされた店内には肉汁が鉄板を焦がす匂いと音で満ちていた。

 テーブル席の奥に俺が座り、隣にさやか。俺の向かいになつ海、その隣に由依という並び。


「このソース美味しい。結構甘めね」


「由依はわさび醤油がさっぱりしてて好みです」


 最初のその感嘆の声をあげたのは、最初に言い出したさやかで、続いてなつ海、由依と同様に満足げな表情でステーキを楽しんでいた。


「来てよかったな」


「うん。たまにはいいね! あと、兄さんさっきはぬいぐるみありがとね」


「思ったより渡された小遣い使っちゃったけどな」


「いいのいいの、わたし達はわたし達で色々楽しんできたもん。ね?」


「うんうん、由依……さやかさんがあそこまで際どいのを選ぶって思わなかったですけど」


「ちょ、ちょっと由依ちゃんそれは言わないで〜!」


 そのやりとりに俺は生唾を飲んだ。

 ちらりと、隣にいる幼馴染を見てしまう。

 肉汁の返しを防ぐためのペーパーナプキンがそのまま彼女の胸の張りに合わせて浮かび上がっていた。

 垂涎たらしめているものは、そんなさやかの姿じゃなくて、ステーキ肉のせいだと思い込むことにした。


 一通り食べ終えたあと、俺は意を決して話をする。


「なあ皆、ほんとありがとな」


「ん? どしたの一樹」


「いや、なつ海には家のこと任せっぱなしだしさ。由依ちゃんが来て、毎日家の中が明るくなったと思うんだよな。さやかには、学園祭のときのイラストのこともそうだけど。家が隣ってことで今更だけど色々世話になってんなって」


 俺はテーブルを囲む一人ひとりの顔を見ながら丁寧にそう伝えていく。

 普段はなにかと茶化したりする妹のなつ海も静かに頷いていた。


「カズキさん。ほんとにお礼を言いたいのは由依のほうです。もう一つの家族ができたみたいで、嬉しかったです。ううん、嬉しいです」


「たまに、にはなるけどさ。またこうやって皆で出かけたりしような。もうすぐ夏休みだしさ、もう一度ちゃんと海にも行ったりしてさ」


「一樹はすぐそうやって水着姿見たがるんだから。でも、せっかく水着も買ったし、私も皆で海にいくのは賛成かなー。沙織と乃愛にも声かけなきゃ」

 

 テーブルの下、ひっそりとさやかの左手が俺の右手に触れた。

 その指先は少し震えているように思えた。

 だから軽く俺はその手を握り返す。

 

 もう二度と、失うことのないように。

 この幸せな時間がこれからも続くように。


       ***


 ゲームセンターでつむぎとのやり取りのあと、俺はなつ海のためにもう一つのぬいぐるみをGETした。


 そのあとで、スマホに着信が来ていることに気がついた。

 折り返しした電話口。その声でかなりやつれている様子がわかるくらいのかすれた声。その相手は、源乃愛だった。


『急に電話かけちゃってごめんね。私、乃愛だけど』


『あれから一樹の繰り返した夏のことを、私なりにできる限り客観的に分析してみたんだけどね』


『この現象はきわめて非科学的なものだから確証はもてないのだけど。現象のトリガーは、最初の結城さやかの死だけじゃないね』


『君の妹。なつ海ちゃんもまたトリガー。こんな酷なこと……できれば言いたくないのだけど。彼女にも話すべきだと思うの』


『真田なつ海。彼女も私と同じ。《《生きながらにして死んでいる存在》》ということを』


       ***

 

 対面の妹、なつ海と目があった。

 その顔立ちは大人びて見えた。

 なにかを察したように少しだけ目を細めて笑みを浮かべる。


 決意はできていた。

 今夜、俺は彼女に語ろうと思う。

 Re;summer、第二のメインヒロイン。真田なつ海のシナリオを。

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