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ep.27 君の存在一つで 1/2

 学祭当日。俺たちは乃愛が生徒会に掛け合い用意した空き教室を改装し、簡易的な占いの館を開店した。

 外にはポップを貼り、そして土曜日で中学が休みなことを良い事に、なつ海と由依を客引きとして配置した。

 

 乃愛の準備した衣装は、Gothicなもので、黒を基調にフリルがあしらわれたものだった。なつ海も由依もその衣装を着こなしていて、中学生らしいまだ幼い二人の雰囲気とマッチしているようにも見える。


「源乃愛の占いの館です! IQ130‎が全部丸裸にしちゃいますよ、なんてねッ」


「あ、えと、占いやってまーす」


 黒い大きなリボンを髪につけた由依は、おどおどと緊張した声を張り上げる。

 対して、なつ海は慣れた様子で声を出す。


「可愛い恰好ねー、あれ? 貴女たち中学生?」


「やっぱりわかりますよねッ。私たち東女の中等部なんですけど、ちょっと兄さんの手伝いで一ノ宮高校に遊びにきてるんです。よかったら占いどうですか?」


「な、な、なつ海ちゃん。それバラしちゃって大丈夫なの?」


「学祭だもん。へーきへーき、ですよね? さ、お姉さんたち。入って入って!」


 上手いこと乗せて最初の客を誘導する声が聞こえる。

 裏方としてスタンバイするのは、俺と乃愛。

 

 俺は主にアプリからのデータの収集と、結果データからのQRコードの発行。

 乃愛はホロスコープを見ての、星読みだ。


       ***


「よっ」


 乃愛が俺の家のリビングのソファーに座っている。

 まだ7時前だというのに、すでに制服姿の彼女はいつでも登校できるような様子だった。


「ん、おはよーだね。昨日は、泊まらせてもらってありがとね。なつ海ちゃんたちにも世話になっちゃったし。あとは、そう――アプリ、完成したみたいね」


 沙織とさやか、そして乃愛の3人は学園祭に向けた準備のため、俺の家に泊まることとなった。俺は昨夜のうちにすでに完成完成させていたアプリのapkファイルを乃愛へと送っていた。 


「おう、まーちょっと乃愛センパイには負担をかける仕上がりだけどな」


「なになに? 一樹なんか作ってきたの。ってこれ……!」

 

 乃愛の次にリビングに顔を出したのはさやかだった。

 彼女のピンク色のパジャマ姿が新鮮で、ちょっとどきっとする。大きな欠伸をしながら、乃愛の見るスマホの画面を覗き込む。


 そして、映し出されたアプリ内のイラストに、どうやら気づいたようだった。


「ああ、前に頼んでたさやかのイラストを使ったアプリだよ」


「そういえば……占いのって言ってたような。これって学園祭のためだったんだ。てゆか、そんな便利なもの出来上がってたのなら昨日見せなさいよっ」

 

 ごもっともな指摘。

 だが日付上の昨日の俺は、まだこのアプリを作っていなかった。

 これはタイムリープを経て、さやか、由依、そして乃愛の助言のもと完成させたものだ。

 

「いやまだちょっと間に合ってなかったところがあってさ。……で、どうかな、これが俺の答えだよ」


「うん。私の助言の通りね」


「ああ、Keep it simple, stupid。シンプルな出来栄えだろ」


 俺は意気揚々とそう返した。

 乃愛はその口元を綻ばせる。その薄紅色をした唇が俺の額に触れたと思い出すと、その理由はどうあれ少し気恥ずかしい。


「発音のひどさは置いといて、KISS原則は正解。私に負担をかけるっていうところ、詳しく聞かせてくれる?」


「ああ、これは由依ちゃんに助けてもらったんだけどさ――」


 フロントの沙織、さやかの2名がアプリを用いてホロスコープを作成すること。

 星読みはアプリを通して送信したものを乃愛がすべてバックで行うこと。

 そして、その結果を再度受信したフロントがそれを伝えること。


 そのプロセスを俺は説明した。


「なるほどね、それだと回転率もあげられるわけか。さすが由依ちゃんだ」


「由依ちゃんすごい! それだと、私と沙織は星読みを覚えなくても、アプリ通りに質問をすればいいんだ」


「いや、作ったのは俺なんだけどさ」


「そうですよ~~。由依は、ほとんど役にたってなくてですね~~。カズキさんが~毎日夜おそーくまで、作ってましたから~~……」


 まだ半分以上目が開いていない様子の由依が顔をだした。

 由依もまた部屋着姿だ。


「この占い結果をスマホにDLして持って帰れるって発想もいいよね。さやかの描いたイラストかわいい! あれ、でも、これってなんかちょっと私に似てない?」


「あはは、それ乃愛がイメージなのよ、勝手にデフォルメっちゃいました」


       ***


 最初の客が店内に入って来たようだ。

 声からして、2名女子生徒だ。 


「あれ、源さんは?」


 暗がりの店内に誘い込む。遮光カーテンと、黒い布で覆われた中。

 雰囲気づくりにと置いた髑髏の模型や積み重ねた古書。

 その中をおそらく、いまゆっくり歩いて進んでいるのだろう。

 

 静寂のなか、足音と女生徒のひそひそとした声が漏れる。

 

「我々は使いの者です。魔女は凡てを聞いておりますからご安心を。さあ先輩方の星読みをいたしましょう。」


 沙織の声。

 設定では、源乃愛がこの館の主で星読みをする魔女。

 沙織とさやかは黒いフードを被った従者だ。


 どうやら占いが始まったようだった。

 最初は占いに必要な情報の聞き取りがフロントの仕事だ。


「えっと、えっと、仲村先輩は……あ、私と同じだ1月で水瓶座なんですね。……乃愛送ったよ」


 さやかのたどたどしい案内が聞こえてきて少し笑いそうになる。

 それを隣で待機する乃愛に諫められ、口元を抑えた。


「峰月さん、貴女は4月12日の夜にお生まれになられたのですね。貴女の星の巡りを魔女により占いいたします。

 

 データが届く、それはすでにホロスコープ化されたものだ。


 乃愛は用意した本を特に読む様子もなく、届いたデータを一目みるだけで、次々に結果のフィードバックを沙織とさやかに回答しているようだ。

 

 俺はその一連のデータをとりまとめ結果一覧として仕上げる、すでにさやかのイラストのついたテンプレートのため俺の仕事はそんなに忙しいものではなかった。


「……いま、魔女より星の啓示が成されました――」


       ***


「お姉さんたち、占いどうでしたか?」


「しっかりコスプレしてて、雰囲気あったよね」


「うんうん、可愛い子たちだった。右の子の成りきり方が凄かったよね。左の子はだいぶ慌ててたけど可愛かったねー」


「ねー可愛かった、後輩ちゃんたちだよね。占いもなんかびっくりするくらい当たってた! どうやってるんだろー。あのタブレットの入ってたアプリ欲しいよね」


「ほんとほんと。あ、でもQRコードでもらった占い結果も可愛い感じだったよね。源さんがミニキャラになってるしー」


 最初の客が退店し、少し安堵する。

 それもつかの間だった。


「あの、あの、えっと、二名ずつ、二名ずつでお願いします!」

 

 由依の慌てふためくその声が合図だった。

 それから終日客足が途切れることはなく、源乃愛の占いの館は、成功を収めたのだった。、成功を収めたのだった。

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