フォルコン号「……」
またしてもトリスタンを下したフレデリク。
これで話は終わりかと思いきや、援軍として何故か現れたトゥーヴァーとアグスティン、二人の間には浅からぬ因縁? があった!
○ィズニーファンタジー! 海の勇士マリー・パスファインダー(笑
でもちょっと待って。後始末はちゃんとしないといけないんだよ。
なかなか三人称ステージが終わりませんねえ。
外に残された衛兵達は、中から聞こえる物音に驚き、門の周りに集まったものの、扉を破壊する、応援を呼ぶなどの積極策を打てずに居た。
今日は国王主宰の舞踏会であり、警備は十分に厳重なはずである。
また小聖堂の門は非常に堅固で、破壊しようとすれば破城槌ぐらいは持って来なくてはならない。
そして仮にそれがこの場にあったとして。中に女王陛下とシモン殿下が居ると解っている聖堂の扉を、一体誰が破壊するのか。
この際、国王陛下にお伺いすべきなのか。しかし誰がその責任を負うのか。衛兵隊長も副隊長も聖堂の中に居る。一体誰が判断すべきなのか……
互いに顔を見合わせる衛兵達の間に、重苦しい空気が漂う。
そこへようやく。
――ジュウウウ……ガリガリ……ガシャガシャッ……ガタン
中から、熱した鍋に水を掛けたような音が、続いて錠前を掻き回すような音がして。扉が、内側に開き始めた……
「女王陛下! シモン殿下!」
衛兵達が叫び、開き始めた門の隙間に殺到しようとした、その時。
「いけません。今一度そこを閉めなさい」
中から、女王の声がした。そして開こうとしていた扉は一旦止まり……また元へと戻って行く。
ふらりと外へ出ようとしていたフレデリクは、女王の命により再び閉ざされた扉に止められていた。
この混乱の中にあって、女王はまるで何事も無かったかのように終始礼拝堂の後方に佇み、成り行きを見守っていた。
「このような事を、このままで終わらせて良い訳がありません」
冷たく威厳に満ちた声が、たちまちに礼拝堂の空気を支配する。廷臣が、近衛兵達が、聖職者達がたちまちに居住まいを正す。エステルも直立不動の姿勢を取る。シモン王子も。
女王は、フレデリクをじっと見つめていた。
フレデリクは数秒、そのまま静止していた。アグスティンとトゥーヴァーも含めた皆の視線が、フレデリクに集まる。
フレデリクはそこで初めて、女王の方に向き直り、片膝をついて帽子を取った。
「フレデリク・ヨアキム・グランクヴィスト。ストークから参りました」
それを見ているエステルは、叫び出したい気持ちを必死に堪えていた。幸い、女王は少女向けの小説など読んでいなかったし、修道女達は修身の為小説などには手を出さないので、この場に居るその小説の読者はエステル一人だった。
「あの魔術師について……御存知の事を話していただけますかしら」
するとフレデリクは頷きつつ、そのまま立ち上がり、帽子まで被り直してしまった。アイマスクは最初から取ろうともしない。いくら外国人とはいえ、コルジアの女王の御前である。近衛兵達は密かに狼狽する。
「魔術師トリスタン。元はアイビスの宮廷魔術師でしたが追放されており、後に法を犯し手配されております」
「貴方は……この件にアイビスが関わっているとお考えですか?」
「解りません。あの魔術師は誰かの道具であるようには見えますね」
「……何方の道具ですの?」
「それは解りかねます。私は友人の船で一昨日この街に来たばかりですので。しかしこのように公然と狼藉を働く事で、あの魔術師にどんな利益があるというのか」
「私の仕事は、この国の王権を揺るぎ無い物とする事で、誰もが迷わず王国を信奉出来るよう導く事。このような王権を脅かす狼藉を見過ごす訳には行きません」
女王の言葉に、近衛兵達は息を飲む。彼等にはこのフレデリクという男が邪悪な者であるようには見えなかった。しかしこの男はあの魔術師の事を良く知っているようだし、今の所素性も良く解らない。
もし、女王陛下がこの男を捕えよと命じられたら、自分達はそうしなければいけないのだろうか。
「それはそうだろう。改めて名乗らせて頂く。私はコルジア連合王国第七代国王アグリアスの一子アグスティン。貴女の名をお聞かせ願いたい」
そこにアグスティン提督が……女王から数えて五世代前のコルジア王の四男にして海軍元帥、コルジア人からもアンドリニア人からも信奉される英雄が、厳かに口を開く。
「ディアマンテ女王、イザベルと申します。そちらが息子の……ゴルリオン王シモンでございます」
さすがの女傑も、かつて一気に世界を我が物にせんと内海の出口たるロングストーン沖に殺到したターミガンの巨大艦隊を、乾坤一擲の一戦にて打ち破った英霊の威厳には圧倒され、腰を屈めた。
アグスティンは少し辺りを見回してから、フレデリクや女王の居る礼拝室の後方、聖堂の出入り口の方へとやって来る。
アグスティンの手はトゥーヴァーの手を軽く握ったままだったので、トゥーヴァーも。赤面し、辺りを見回し、助けを求めるような視線をフレデリクに送りながら、ついて来る事になった。
「私事を先に立てて申し訳無いが……あらためて礼を言わせて欲しい、フレデリク殿。貴兄がこの機会をくれた事に、私がどれだけ感謝しているか……とても言葉に表せぬし、誰にも想像出来ないと思う」
フレデリクは、また数秒の間沈黙してから答えた。
「僕の方こそ、さっきは本当に危なかった。ありがとう。だけどまさか英雄アグスティンの剣技を目の前で見られるとは思ってもみなかったよ。素晴らしい手並みだな」
フレデリクのその、英霊アグスティンに対し、まるで年の近い友達に話すような口ぶりに、近衛兵も、司祭達も、修道女も、皆唖然とした。
当のアグスティンはと言えば、我が意を得たりとばかりに一笑する。
「ははは、君のような豪傑に評価される程の物じゃない。私は船乗り、剣の技など暇潰し程度のものさ」
「それに今日は女王陛下もシモン殿下も、貴方の業績を顕彰する為にここに集われたんだ。まさか貴方自身に戦っていただく事になるとは思わなかった」
「それで皆集まっていたのか。ふふふ……人の縁というのは馬鹿にしたものではないな。私の剣が貴兄の役に立てたのなら良かった」
アグスティンは再び女王に向き直る。
「誰かがシモン王子を狙ったという事、それは勿論このままにしておいて良い問題ではない。だがまずは、私の事を含め、今見ている事は人に話してはならないと……皆に伝えてはどうかな」
女王は辺りを見回す。しかしあらためて女王の口から言葉を発するまでもなく、提督の言葉はこの場に居る全員に聞こえていた。
フレデリクが辺りを見回しだす。アグスティンは再び口を開く。
「あのような魔術師を誰が差し向けたか。それは勿論徹底的に追及しなくてはならないだろう。だが私はこのフレデリク卿ではないと証言する。彼は英雄だ……そして私の大変な恩人だ」
アグスティンはそう言って振り返り、もう一方の手もトゥーヴァーの手に添える。トゥーヴァーは震え上がり、赤面し、硬直した。
「畏まりました。フレデリク卿は英雄ですわ」
女王は無感情な抑揚の無い声で答える。
当のフレデリクは、何かを思い出したように、忙しなく辺りを見回し、何かを探っていた。
女王はその様子に構わずに告げる。
「フレデリク・ヨアキム・グランクヴィスト。ディアマンテ女王として、そしてシモン王子の母として、貴方に問います……貴方の望みは何ですか? 私が与え得る限りの物を、私は貴方に褒美として与えたいと思います」
廷臣達が色めき立つ。
女王は賞罰をはっきりさせる支配者で、職や領地を躊躇わず取り上げ、躊躇わず与える。しかし。女王が与える物は必ず女王が決める。今回のように、望みの物を言えなどと言った事は、誰の記憶にも無かった。
一体フレデリクは何を要求するのだろうか。空位となっているランチア伯爵領か。空席となっているディアマンテ市長の座か。
フレデリクは今度は劇的に反応した。ただちに女王に向かい膝を降り、帽子を取り……やはり仮面は取らず……平伏する。
「女王陛下! 私の友人で船乗りの、通称不精ひげニックという者が今、この城の司直に捕えられ牢におります! 私の望みが叶うのならば、どうかこの男の特赦を頂きたい! ニックは舞踏会の警備の騎士、マカリオ卿を背後から石煉瓦で殴り倒したのですが、これは拠無い事情、いや誤解に拠るものなのです、何卒、何卒御願い致します!」




